留学のすすめ STUDY ABROAD

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添野 竜也
コロナ禍の渡米

“We must postpone your arrival at UAMS due to travel concerns related to the COVID-19 outbreak. Your J-1 program will be postponed until these travel concerns have been resolved.”

米国大使館でのVISA面接を翌日に控えた2020年3月10日、受け入れ先のUAMS(University of Arkansas Medical for Sciences)より4月からの研修開始が不可能になった旨を知らされるメールが届いた。

こうして希望に満ちた私の留学は渡米前に暗礁に乗り上げた。そして私の航空券は紙くずと化した。それからは皆さんご存知のようにコロナウィルスの蔓延による緊急事態宣言、著名人の逝去、風評被害、第2波・第3波の恐怖など、日常の生活はコロナ前とは大きく変わってしまい、このまま留学できなくなるのではないかと心配もした。しかし、それから1年半後、ワクチンの予防接種が可能となり、皆様のご尽力のおかげで2021年9月より無事渡米を果たすことが出来た。

コロナ禍という特殊な状況での渡米について、色々思い出しながらご報告させていただこうと思う。

 

〜入国後からセットアップについて〜

まず、アメリカ入国から約1週間は自主隔離が必要であった。しかし、誰も見張っているわけでもないし、どこに報告するわけでもない。日本のようにお弁当が配給されることもない。ホテルに滞在していたのだが、流石に部屋から全く出ないというのも不可能なので、こっそりガソリンスタンドに行ってスナックを買ったり、ホテルのプールに入って過ごしたりしていた。

その後生活基盤を整えるために、まず行ったのはアパートの見学。前任者の勝見先生の友達が手伝ってくれたのだが、

  1. SSN(Social Security Number)と銀行口座がないとアパートは貸せないとのこと。
  2. 銀行口座の開設へ。住所がないと開設出来ないと言われる。
  3. それならばとSSNの申請。郵送でしか受け取れないから先に住所を決めろと言われる。
  4. ①−③無限ループ
  5. SSN申請前に一度大学に赴いてDS2019のアクチベーションが必要と言われる。
  6. 大学に行こうとするも、大学のキャンパスに入るには受けている予防接種が足りないと言われる。

いきなりセットアップに躓き途方に暮れていたが、なんとかSSNは後からでいいというアパートと契約できたので、その後はスムーズにセットアップが出来た。その後子供たちの小学校も決まり、車も引き継ぐことができ、なんとかセットアップは完了した。

 

〜大学での生活について〜

そんなこんなで研究が開始できたのは10月に入ってからであった。現在の私の研究は勝見先生の研究を引き継ぎ、EOS画像を使用した研究を行っている。EOSは低線量で立位のアライメントの撮影・解析が可能な装置で、AP/LM同時に撮影する二次元の画像から三次元モデルを作成することができる。もともと勝見先生の指導教官であったDr. Erinはいなくなってしまったようで、現在の私の指導教官はBenjamin Stronachさんという大がらな白人男性だ。Benさんは臨床医で手術に外来にとたいへん忙しそうにしておられ、さらに大学院生や医学生に研究の指導をしたりととてもエネルギッシュな方だ。

当初は、EOSを用いて撮影された二次元画像からTKAのimplantサイズが予想できるかどうか(普通の立位X線とは異なり距離による拡大の影響が少なく、また、この画像を利用したこういった研究はまだないそう)医学生のAaron君と共同でひたすら二次元画像の計測を行っていた。その研究も一段落し、現在はOwen君と術前のアライメントの違いによるmedial pivot TKAの成績についてメインで検討しているが、術後のアライメントと成績、patella resurfacingと術後アウトカムの関係などについても検討している。また、residentのSydneyちゃんとMedial Pivot TKAについてのreviewを一緒に行っており、色々とテーマを与えていただいている。

私のBossは Prof. BarnesでUAMSの整形外科の教授兼学科長で股関節と膝を専門にしている。手術日には朝7時8時から人工関節を1日5件以上されており、日本とのシステムの違いに日々驚かされている。一番驚いたのは一般的な人工関節の患者は術後に入院して翌日退院することだ。抜釘じゃないんだから。

検討会も参加させてもらっており、毎週木曜日は術前・術後検討、毎週金曜日はリサーチミーティングがZOOMで開催されている。朝6時から。

〜日常生活について〜

コロナについては世界的な第7波の影響で、2022年8月現在リトルロックの1日の平均陽性者数は100人程度だ。私が来た当初は1日300人を超えていたのでその時よりは落ち着いている印象だ。そしてみんな思ったよりマスクをしている。リトルロックでは10人に1人ぐらい。しかし、一度シアトルに訪れた際、通行人の8割ぐらいがマスクをしており、田舎と都会でこんなに温度差があるのかと思ったものだ。アメリカ国内の移動は特に行動の制限もなく、アジア人だからといって石を投げられることもない。

生活に関しては勝見先生が残してくれた家財道具や車を引き継がせてもらい快適に過ごさせてもらっている。近隣にはコストコ、アウトレット、日本人オーナーのレストランもあるので、衣食には困らない。また、私は最初から家族全員で渡米したのだが、小さい子供を連れているとアメリカ人はみんな優しくしてくれて、とても助かっている。子どもたちも無事小学校に通えているし、私と妻も教会主催のESL(English as second language) classや国際交流団体的なものに参加し友達も出来てきた。アメリカ人に誘われて行った独立記念日に見た花火はしょぼかった。アメリカ人は誇らしげだった。

ESL classの友達と毎週サッカーをするのだが、ほとんどが南米出身のヒスパニックだ。体格は大きくないが圧倒的な個人技でみんなサッカーが上手い。いい運動にもなるし、ノリもよく楽しくサッカーできているが、練習の連絡がスペイン語なのでイマイチ理解できない。Buenos días amigos!

〜英語について〜

渡米した当初は、英語は勝手にうまくなると思っていたが、全くそんなことはなかった。私が配属されたのは勝見先生がいたようなラボではなく、医局のBenさんのデスクの近くのパソコンを与えられた。周りには誰もおらずBenさんもデスクに現れることはめったに無いので、病院内ではほとんど誰とも喋らず過ごすことも多かった。3か月ほど経過した時点でも、アメリカ人同士の会話の内容が全く理解できず、自分の英語の成長の無さに焦りを感じた私はオンライン英会話を再開し、日本から文法書を取り寄せ、日常会話や検討会中に出てきたわからない単語もメモするようにした。また、言語の学習には文化的背景を知ることも重要だと思い、キリスト教やアメリカ歴史についても勉強し、時事ネタ、スラングなども幅広く勉強した。その甲斐あって1年経つ今では彼らの言っていることがわからなくても気にならなくなった。

 

〜アーカンソー州リトルロックについて〜

アーカンソー州は別名Natural Stateとも言われ、自然豊かな州である。州都のリトルロックから10マイルも行けばピナクル・マウンテン州立公園があり、トレッキングを楽しむことができる。車で1時間も行けば荘厳な滝の名所があったり、佐渡金山よろしくダイヤモンド採掘ができる州立公園があったり、アウトドア派にとっては最高の場所とも言える。田舎といえば田舎であるが、家賃もリーズナブルであり、シアトルの友達は同じ間取りで4倍以上の家賃を払っていることを聞き、5人家族の我が家にとってはある意味一番いい場所であったのかもしれない。

治安に関して言えば危ないと言われている南の地域を除けば概ね問題ないように思われる。一度私の凡ミスで車の中にかばんを置きっぱなしにしていまい、車上荒らしにあったことがあったが、airpodsが盗られたぐらいで、大きな被害はなかった。たまに道端で大麻の匂いがすることがあるが、慢性疼痛などで処方されている医療用大麻なのだろう。

ちなみに私のいるアーカンソー州はArkansasと書くが、Kansasのカンザスのようにアーカンザスと発音すると罰せられる法律があるそうだ。もともとフランスからの移民が多かったらしく、フランス風に発音するとアーカンソーになるそうで、今後Arkansasにおいでの際はご注意されたし。

 

〜最後に〜

留学に際してご尽力いただきました遠藤前教授、川島教授、石井先生、岡田先生、膝グループの先生方、新潟医学振興会の方々にこの場を借りて御礼申し上げます。誠にありがとうございました。

添野 竜也

添野 竜也

役職
University of Arkansas Medical for Sciences:research fellow
専門分野
膝・肩・スポーツ医学
出身大学
新潟大学
卒業年
平成22年(2010年)

※役職・専門分野は掲載時のものです

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