留学のすすめ STUDY ABROAD

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トップページ 医学生・研修医の皆さんへ 留学のすすめ デンマークはドイツの上の方に飛び出していて、スウェーデンとの間にある北欧の国です。

堀米 洋二
デンマークはドイツの上の方に飛び出していて、スウェーデンとの間にある北欧の国です。

「デンマークってどこにあるの?」今回の留学の話をする際に、ほぼ確実に尋ねられる質問です。よって、留学の話はタイトルのようにお答えすることから始まります。そのデンマーク第2の都市Aarhus(オーフス)のオーフス大学病院で、寛骨臼形成不全に対する骨盤側の骨切り術の一つであるMIS periacetabular osteotomy(MIS-PAO)の勉強をする機会をいただきました。

「誰かデンマーク行かない?」2013年、新年最初の病棟回診でそんな話がありました。きっかけは2012年12月に新潟で開催された日本股関節学会でした。新潟大学からは開放骨折の分類で有名なGustilo先生のもとへ多くの先生が留学しましたが、同じくGustilo先生のもとへ留学経験のあるデンマークのオーフス大学Søballe教授(MIS-PAOを開発したすごい先生!)に特別講演に来ていただきました。その際(夜のセッションで)、堂前先生が「新潟の若手を勉強させてもらいにデンマークに行かせてくれないか?」というお願いを打診したところOKが出たのでした。「いつかは留学してみたいな」と漠然と考えていたわたしに突如転がり込んできたチャンスにより、2013年(入局5年目)8月から3か月間、デンマークで過ごすことができました。チャンスはどこからやって来るかわからないので、もしチャンスが転がり込んできたときに手を挙げられる分だけの金銭的な貯えと最低限の英語力(何をもって最低限とするかは難しいですが…)、家族の理解があれば、留学の希望はかなうかもしれません。

そんな縁で、どこにあるかよくわからないデンマークという国の、聞いたことのないオーフスという街に行くことになりました。聞いたことのない街オーフスの大学病院でしたが、それはこちらの勉強不足なだけで、北欧ではかなり有名な大学のようです。デンマーク第二の人口を抱える(といっても人口30万人ほど、周囲の都市圏も含めて80万人ほどの)オーフス市の大学病院のひとつで、主に関節と手外科の手術を行っていました。市内に別にある脊椎や外傷を主に扱うもうひとつの大学病院と合わせて整形外科の手術件数は年間10,000件以上(北欧最大規模!)。整形外科ではSøballe教授が寛骨臼形成不全に対する寛骨臼側の回転骨切り術を低侵襲で行う術式MIS-PAOを開発し、年間100例ほどの患者さんに施行していました。当時は市内数か所に点在している大学病院を郊外の新病院に集約している途中でしたが、すでに完成した新病院は、医療・福祉が発達した北欧でも最大級の病院となり、U字型の病棟の端から端まで1kmだそうです。余計なお世話ですが、他科の入院患者の往診はどうするのでしょうか。

そろそろ本題です。と言っても、今回の留学では、論文にするような明確な研究テーマがあったわけではなく、MIS-PAOを実際に見て学んでくるということが目的の3か月でした。現在新潟大学整形外科では寛骨臼形成不全に対してcurved periacetabular osteotomy(CPO)という術式を用いています。寛骨臼を内板側から切り出して回転させ、骨頭の被覆を大きくするといった点でMIS-PAOと大きな違いはありませんが、その出血量はMIS-PAOの方が圧倒的に少ないということは出発前にわかっておりましたので、これを重点的に見ることにしました。

そもそもデンマークに行って手洗いをして手術に参加できるのかどうかということも分からないままの出発でしたが、初日の朝のカンファレンスが終わり、「手術室行って」と言われ、手術室に行くと、「手洗いして」と言われ、手洗いを済ませて手術室に入ると、ガウンを着ているのは器械出しのナースと術者の教授のみ。「始めるよ」ということで、第一助手に就任しました。そのまま留学期間中に行われたほぼすべてのMIS-PAO(約30件)が執刀医教授、第一助手わたし、第二助手なしという体制で行われました。外部の医者としてはおそらく一番多くMIS-PAOの第一助手を務めたものと勝手に思っております。実際に見て感じたことは、早く終われば血が出ないという単純なことでした。年に約100件同様の手術を行っているという経験、股関節専属ナース(整形外科専属ではなく「股関節専属」)のスピーディーな器械出し、それに加えて術式自体の違い(腸骨の骨切りをCPOでは湾曲ノミで、MIS-PAOではボーンソーで行う)が手術時間の短縮に寄与しているとも思われました。また鈎の掛け方、肢位の取り方など、CPOでも参考になるものがありました。

そんなわけで手術時間が短く(入れ替えも早く)、火曜日はMIS-PAOの日で縦に3件(午前2件、午後1件)の手術を行うにもかかわらず、15時過ぎにはすべて終了しました。「今日はもう終わりだよ」と言われて、特に初日はあっけにとられましたが、そのうち慣れました。THA縦4件の日は17時頃までかかり、「今日は日本人みたいにいっぱい働いたな」と言われましたが、「日本人にとってみれば、まだ早いけどね」と答えてやりました。早く仕事が終わればちょっと一杯飲みにでもと考えておりましたが、デンマーク人は家族との時間を大切にするようで、誰か飲みに誘ってくれないかと少し期待しているわたしを知ってか知らずか、みんな帰って行きました。いや、そもそも助手はわたしひとりなので、普段助手をしていた医者はもう帰ってしまっており、あまり人がいませんでした。そんなわけで、ひとりでダウンタウンへ繰り出し、明るいうちからビールを飲み、「幸せの国」を肌で、喉で、胃袋で感じてきました。

あちらでは無給だったので、早めに申告すれば、平日も休みをいただいて学会に参加することができました(人手がいなければ学生にバイト代を出して助手をしてもらうとのことでした)。ロンドンでのEarly intervention in hip surgeryというミーティングは、50名程度の小さなミーティングでしたが、股関節鏡視下手術と骨切り術のスペシャリストが集まり、それぞれの適応について熱い議論が交わされました。今後の股関節外科における大きなトピックであり、印象深いものでした。そのほかにミュンヘンでの国際股関節鏡学会、コペンハーゲンでのデンマーク整形外科学会にも参加してきました。ビールが有名な都市ばかりなのはまったくもって偶然です。「飲みニケーション」はヨーロッパでも通じました。

ほかにもデンマークの医療・福祉のこと、オーフスの街のこと、自転車のこと、ちょんまげのかつら(出発前に成田空港で購入したもの)のこと、ビールのこと、オーフスフェスティバルのこと、ビールのこと、設計事務所で働かないかと誘われたこと、現地で出会った留学生のこと、ビールのこと、ビールのことなど、ここには書ききれない多くの印象深いことがありました。これからの日常診療のみならず人生についても考える機会となりました。

最後になりましたが、このような貴重な機会を与えてくださった遠藤前教授、最初にSøballe先生と交渉してくださった堂前先生、スタッフが決して多くない市中病院から快く留学に送り出してくださった新潟臨港病院の先生方、医局の先生方、次男が生まれたばかりなのに留学に送り出してくれた家族に、深く感謝いたします。諸先輩方のおかげで実現した留学であり、次は後輩の医局員に有意義な経験をしてもらえるよう、わたしも協力したいと思います。

(2021年11月 改編・再掲載)

堀米 洋二

堀米 洋二

役職
専任助教
専門分野
股関節
出身大学
新潟大学
卒業年
平成19年(2007年)

※役職・専門分野は再掲載時のものです

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