新潟大学大学院医歯学総合研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野

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研究のご紹介

研究概要

聴覚、平衡領域、側頭骨外科領域を中心に専門性の高い研究を行っている。基礎医学教室とのタイアップも盛んであり、共同して研究を行っている。

研究グループ

以下の3つのグループにわかれて、基礎研究から臨床研究まで幅広く行っている。

難聴めまいグループ

1.持続性知覚性姿勢誘発めまいに関する包括的研究

持続性知覚性姿勢誘発めまい(Persistent Postural-Perceptual Dizziness, PPPD)は慢性めまいを主訴とする疾患で、2018年改訂のWHO国際疾病分類ICD-11に新規収載されている。めまいの国際学会であるBarany Societyがその前年に診断基準を発表しているが、堀井教授はその診断基準提唱者の一人であり、当科ではPPPDの包括的研究に力を入れている。

PPPD診断には詳細な問診が必要であることから、できるだけ簡便にしかし漏れなく問診を行うための質問票を作成しPPPD診断のための感度、特異度を検証した (Niigata PPPD Questionnaire, Yagi C, Otol. Neurotol., 2019)。また、PPPDのサブクラスの検証、PPPD診断における傾斜負荷自覚的垂直位の役割、PPPD治療における抗うつ薬の役割、に関する検討を終了している。進行中の臨床研究として、PPPD患者における視覚誘発時のfMRI画像 (右図)、PPPDの集学的治療(薬物治療、前庭リハビリテーション、認知行動療法、感覚代行治療)、PPPD診断のための新規検査法の開発などに注力している。

2.光学的イメージングを用いたマウス大脳聴覚野機能の研究

大脳皮質感覚野は末梢感覚受容器からの刺激に対応して、特異的な部位に神経活動を示す。われわれは聴こえに関連する大脳聴覚野の神経活動を光学的イメージング法により研究している。光学的イメージング法として、ミトコンドリア電子伝達系に存在する内因性蛋白の1つであるフラビンが、神経活動に伴い酸化されるときに自家蛍光を発するという性質を利用した方法(フラビン蛋白蛍光イメージング)を主に用いている。フラビン蛋白蛍光イメージング法は経頭蓋的に光を照射することで神経活動を測定できるため、ほぼ無侵襲の状態でのマウスの神経活動を見ることができる。これまで、さまざまな種類の音、音の変化に対する反応、周囲の環境、行動学習によって大脳聴覚野の神経活動が変化することを報告してきた。最近では両側同時に測定できる装置の開発、さらに強い蛍光強度を発することができる、GCaMPを組み込んだトランスジェニックマウスも用いている。耳鼻咽喉科領域は聴覚だけでなく、多くの感覚器を扱う分野でもあることから、大脳聴覚野だけでなく、前庭覚、味覚刺激を用いた光学的イメージングも開始している。

3.3Dイメージング、3Dモデルを用いた側頭骨手術シミュレーション

側頭骨は中耳炎などの炎症性疾患が生じやすい部位であると同時に、聴こえ、平衡感覚を司るセンサー、顔面神経、内頸動・静脈などの重要な器官が存在し、解剖学的に複雑な部位である。病変の除去や、聴こえの改善のためには手術が必要なことがあるが、重要な構造物を傷付けずに行うことが大切である。そのために私たちは術前CT画像を用いて、3D画像を作成し、PC上で手術シミュレーションを行ったり、3Dプリンターで側頭骨3Dモデルを作成し、実際に削開したりしている。シミュレーションをすることで困難な症例の手術に役立つだけでなく、レクチャーと正常例の側頭骨3Dモデルを用いた削開実習を行うことで、次世代の術者の育成に努めている。

4. 抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎性中耳炎の病態解明・治療方法の確立

ANCA関連血管炎は、上気道、下気道(肺)、腎を系統的に侵す疾患であり、多発血管炎性肉芽腫症(Wegener肉芽腫症)が代表疾患である。以前より、上気道疾患として、中耳炎や副鼻腔炎が起こることは知られているが、近年、難治性中耳炎で発症し、多臓器障害がすぐには出現せず、診断、治療に苦慮する例が増加している。日本耳科学会では2013年ANCA関連血管炎性中耳炎ワーキンググループを立ち上げ、当科もその主要メンバーとして、症例集積に協力し、データ解析を行ってきた。そして、2015年にはANCA関連血管炎性中耳炎診断基準を提唱、2016年には診療の手引きを発刊した。また鼓膜所見からの早期診断方法の提案も行った。現在は、適切な治療、経過観察の方法について、症例追跡研究を継続している。

関連業績
  • Harabuchi Y, Kishibe K, Tateyama K, Morita Y, et al. Clinical features and treatment outcomes of otitis media with antineutrophil-cytoplasm antibody (ANCA) - associated vasculitis (OMAAV): a retorospective analysis of 235 patients from a nationwide survey in Japan. Mod Rheumatol 2016;11:1-6.
  • Morita Y, Kitazawa M, Yagi C, Nonomura Y, et al. Tympanic membrane findings of otitis media with anti-neutrophil cytoplasmic antibody-associated vasculitis (OMAAV). Auris Nasus Larynx 2020;47: 740-746.
5. 中耳真珠腫進展度分類2015案による中耳真珠腫全国登録研究

中耳真珠腫は病態が多彩かつ腫瘍ではないにもかかわらず進行性、破壊性の性質をもつ治療が困難な疾患である。その治療方法を論ずるにあたり、近年まで汎用される病態の進展度分類は存在しなかった。2010年に日本耳科学会より中耳真珠腫進展度分類案2010が示され、国内で広く使用されるようになった。当科もこの分類案作成のために症例集積に協力してきた。2015年には改訂案が提出され、さらに、欧州耳科学会とのコンセンサスも得て、国際分類として利用が広まりつつある。これらのデータベースを元に、進展度に応じた適切な治療法を推奨していくことを目指した研究を行っている。

関連業績
  • James A, Tono T, Cohen M, Iyer A, Cooke L, Morita Y, et al. International Collaborative Assessment of the Validity of the EAONO-JOS Cholesteatoma Staging System Otol Neurotol 2019;40:630-637.
  • Morita Y, Tono T, Sakagami M, Kojima M, et al. Nationwide Survey of Congenital Cholesteatoma using Staging and Classification Criteria for Middle Ear Cholesteatoma Proposed by the Japan Otological Society Auris Nasus Larynx 2019; 46:346-352.
6. 視覚聴覚二重障害を伴う難病の全国レジストリ研究

先天性および若年性(40歳未満)に発症する高度の視覚聴覚二重障害(盲ろう)の患者は国内に約4600人、そのうち約2600人は難病が原因と推測され、原因疾患は70種類以上と多様である。視覚聴覚二重障害を伴う難病の全国レジストリ研究は、国立病院機構東京医療センターとの共同研究であり、より多くの先天性および若年性の視覚聴覚二重障害を伴う難病患者の経過や診療内容などのデータ、血液などの生体資料を収集し、持続的・長期的に評価項目の検討を行う。似た症状を持つ患者さんの情報を医療従事者や研究者が共有することで、これまで分からなかった疾患の原因や症状の理解が進み、新しい治療法や薬の開発、今後の症状の予測につながる可能性がある。

7. 耳鳴に対する認知行動療法

本邦では約300万人の患者さんが苦痛の強い耳鳴に悩まされている。耳鳴悪化のメカニズムには、うつや不安などの苦痛を感じる脳の部位が関与している。不安や怒りの感情などが生じると、脳は耳鳴りにより注意を向けてしまい、耳鳴りを大きく感じるようになる。すると、大きくなった耳鳴はさらに不安や怒りの感情を増幅し、耳鳴への苦痛度を増大させ、「苦痛ネットワーク」が生じる。
2019年5月に日本で初めて耳鳴診療ガイドラインが発刊され、耳鳴に対する認知行動療法が強く推奨された。認知行動療法は、耳鳴りに対するうつや不安の部分にアプローチし、認知や行動を変化させ、耳鳴を軽減させる治療になる。海外で有効性が高いことが報告されているが、現在本邦において、耳鳴に対する認知行動療法はまだあまり行われていない。
当科では、新潟大学教育学部田中恒彦准教授と共同で耳鳴に対する認知行動療法の臨床研究を行っている。今後、どのような患者さんに効果があるのか、本邦における認知行動療法の効果について報告していく予定である。

8. 加齢性難聴と認知機能障害の関係について

加齢性難聴は加齢とともに発症、進行する難聴であり、70歳以上の約50%がコミュニケーションに影響を与えるほど深刻な難聴をきたすとされており、高齢社会の中では大きな問題である。特に近年では、難聴と認知機能の低下の関連が注目を浴びている。当科では、マウスを用いた加齢性難聴の原因遺伝子の解析からはじまり、長年にわたり加齢性難聴の研究を行ってきた。さらに加齢性疾患を多角的に解析可能な県内の疫学調査に参加し、その研究結果から、加齢性難聴と認知機能低下は関連があることを報告した。現在は、補聴器装用などで難聴に介入することによって認知機能の低下を予防できるか前向き研究を行っている。

関連業績
  • Morita Y, Sasaki T, Takahashi K, Kitazawa M, et al. Age-related hearing loss is strongly associated with cognitive decline regardless of the APOE4 polymorphism Otol Neurotol 2019;40: 1263-1267

鼻咽喉グループ

1.咽喉頭異常感における胃食道逆流と不安障害の関連について

咽喉頭異常感は「患者が咽喉に異常感を訴えるが通常の耳鼻咽喉科診察で訴えに見合うような器質的病変を認めないもの」と定義されている。異常感の患者は、外来患者の5~10%を占め、年々増加傾向にある難治性の疾患である。酸逆流が一因とされているがPPI抵抗例やうつ・不安障害合併例も多く、機能性疾患と鑑別が困難なケースも多い。
本研究では咽喉頭異常感、胃食道逆流スコア、うつ・不安障害スコアを用い、かつ消化器内科と共同で上部内視鏡検査、24時間pHモニター、食道内圧検査による客観的データと、精神疾患および咽喉頭酸逆流の相互の役割を明らかにし、テーラーメイド治療を行う上での基礎データを蓄積している。

2.アルツハイマー型認知症における嗅覚障害と内側側頭葉萎縮の関連性

本邦では2013年に65歳以上の高齢者人口が初めて総人口の4分の1を超え、老年期認知症の有病率は10%を超える頻度と推定されている。病型別ではアルツハイマー病(AD)が認知症全体の40~60%を占め最も頻度が高い。ADは不可逆性、進行性の認知症であり、早期の治療介入が重要とされ、早期診断方法の開発が期待されている。
AD初期の脳萎縮は一次嗅覚野を含む内側側頭葉(MTL)から始まるとされており、初期症状の一つに嗅覚障害がある。また、MTL萎縮には左右差があるため、嗅覚障害も左右差がある可能性がある。本研究ではAD初期における嗅覚障害とMTL萎縮の左右差の関連を解明し、嗅覚検査がAD早期診断における新たなバイオマーカーとなり得るか検討する。

3.嚥下リハビリテーションによる放射線治療誘発呼吸器合併症の予防効果

下咽頭癌に対する治療は、機能温存を目的とした化学放射線同時併用療法(CRT)が主流となっている一方で、治療後に嚥下障害をきたすことが指摘されている。また10年生存率では他病死が増加しており、誤嚥性肺炎の増加も推測される。われわれは治療前より間接的な嚥下訓練を指導し、リハビリテーションを施行した群と施行しなかった群(ランダム化比較試験)を対象に、嚥下障害に対する早期嚥下リハビリテーションの有用性について検証を行っている。評価方法は、嚥下内視鏡検査やMASA-C、M.D.Anderson DysphagiaInventory等を用いて長期的に評価している。

4.好酸球性副鼻腔炎に対する生物学的製剤の選択について

好酸球性副鼻腔炎は指定難病に認定されている難治性疾患である。近年重症喘息に対し開発された好酸球をターゲットとした生物学的製剤が、合併する好酸球性副鼻腔炎にも有効と報告されているが、製剤の種類による有効性の違いや喘息に対する効果との相関は不明である。

本研究では生物学的製剤による治療の個別化を目指し、複数の生物学的製剤の好酸球性副鼻腔炎に対する効果の比較、治療効果を予測するバイオマーカーの検索を行っている。

頭頸部腫瘍グループ

当教室の腫瘍グループでは、新潟県という地方から日本全国ひいては世界の頭頸部腫瘍治療に貢献しうるテーマを模索し、発信し続けている。

1.頭頸部癌に対する治療法の研究

口腔癌、咽喉頭癌などの頭頸部癌では、根治率の向上と共に機能の温存が重要な課題である。

頭頸部癌患者の予後の改善および生活の質の向上を目指して、放射線治療の新規併用療法の研究、放射線治療時の嚥下機能維持訓練の有効性の研究、再発や転移をきたした患者の薬物療法の研究などを行っている。

関連業績
  • Matsuyama H, et al. Multicenter phase I/II study of chemoradiotherapy with high-dose CDDP for head and neck squamous cell carcinoma in Japan. Auris Nasus Larynx. 2018;45(5):1086-1092.
  • Ueki Y, et al. Predicting the treatment outcome of nivolumab in recurrent or metastatic head and neck squamous cell carcinoma: prognostic value of combined performance status and modified Glasgow prognostic score. Eur Arch Otorhinolaryngol. 2020;277(8):2341-2347.
  • Ueki Y, et al. Role of programmed death-ligand 1 in predicting the treatment outcome of salvage chemotherapy after nivolumab in recurrent/metastatic head and neck squamous cell carcinoma. Head Neck. 2020;42(11):3275-3281.
2.副甲状腺自家蛍光の研究

当科では甲状腺疾患の手術症例も多く、副甲状腺機能温存は重要な課題となる。副甲状腺が自家蛍光を発することが知られており、甲状腺手術症例における、術中の副甲状腺自家蛍光の確認が、副甲状腺機能温存に有用であることを証明するデータを蓄積している。副甲状腺が自家蛍光を発する原理は未だ解明されておらず、新潟大学理学部および長岡技術科学大学工学部とも共同研究を行い、蛍光を発する物質の解明を目指している。

関連業績
  • Takahashi T, et al. Near-Infrared Fluorescence Imaging in the Identification of Parathyroid Glands in Thyroidectomy [published online ahead of print, 2020 Oct 5]. Laryngoscope.
  • Takeuchi M, et al. Comparison of Autofluorescence With Near-Infrared Fluorescence Imaging Between Primary and Secondary Hyperparathyroidism [published online ahead of print, 2020 Dec 11]. Laryngoscope.
3.頭頸部癌症例の栄養状態・体組成について

食事に深く関わる口腔咽喉頭を含む頭頸部癌において、栄養状態の維持は重要な課題である。疾患によって、あるいは治療の有害事象や後遺症により、経口摂取が難しくなり、体重や筋肉量が減少する。頭頸部癌では体重減少が重要な予後因子として知られており、近年では筋肉量減少が治療完遂を阻害し、予後に関わる因子として報告されており、当科でも筋肉量を含む体成分分析をいち早く導入し、適切な治療管理に役立てることを目指している。

関連業績
  • Shodo R, et al. Sarcopenia predicts a poor treatment outcome in patients with head and neck squamous cell carcinoma receiving concurrent chemoradiotherapy [published online ahead of print, 2020 Aug 8]. Eur Arch Otorhinolaryngol.
4.頭頸部癌に関する病理学的基礎研究

分子細胞病理学講座に大学院生を派遣し、分子病理学的アプローチによる基礎研究に取り組んでいる。これまで知られていなかった癌関連因子の同定とそのメカニズムに着目し、低酸素応答分子として知られる水酸化酵素PLOD2が、Integrinβ1の安定化を介して頭頸部癌の浸潤・転移を制御していることを明らかにした。現在も、未知の癌関連因子の発見と、それに対する低侵襲な標的治療の開発を目指している。

関連業績
  • Ueki Y, et al. PLOD2 Is Essential to Functional Activation of Integrin β1 for Invasion/Metastasis in Head and Neck Squamous Cell Carcinomas. iScience. 2020;23(2):100850.
5.咽喉頭表在癌に関する共同研究

消化器内科・病理部と共同して行っている。表在癌とは上皮または上皮下層にとどまっている初期の癌であり手術治療による予後は良好ではあるが、5%程度の症例では頸部リンパ節転移をきたし予後不良となることもある。内視鏡所見による深達度と病理所見による浸潤傾向および臨床経過を比較検討することで転移リスクを解明し、早期発見早期治療による低侵襲治療確立への貢献を目的としている。

関連業績
  • Okabe R, et al. Carotid blowout-a rare but fatal complication of endoscopic submucosal dissection of superficial hypopharyngeal carcinoma after radiotherapy [published online ahead of print, 2020 Aug 31]. Auris Nasus Larynx.
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