インフルエンザB型ウイルスの全ゲノム解析により、日本とミャンマーで同期したウイルス進化を確認
当教室の市川雄介さんを筆頭著者とする論文
“Molecular Epidemiology and Genetic Diversity of Influenza B Viruses Based on Whole-Genome Analysis in Japan and Myanmar, 2016–2020”
が Influenza and Other Respiratory Viruses に掲載されました。https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/irv.70234
本研究では、2016年から2020年に日本およびミャンマーで収集されたインフルエンザB型ウイルスを対象に、全ゲノム解析を用いて分子疫学的特徴を比較しました。日本とミャンマーは、約5000 km離れ、流行時期やワクチン導入状況も異なる一方で、両国においてインフルエンザB型ウイルスの系統置換およびクレード推移がほぼ同期して進行していたことが明らかになりました。

日本とミャンマーで、流行時期は異なっても系統の推移は共通していた
日本では主として冬季、ミャンマーでは主として雨季にインフルエンザB型の流行がみられ、流行の季節性は大きく異なっていました。しかし、流行ウイルスの系統推移を見ると、2017~2018年にはB/Yamagata系統が優勢となり、その後は新しいB/Victoria系統へ移行するという共通のパターンが認められました。
このことは、インフルエンザB型ウイルスの進化動態が、各国固有の流行時期だけでなく、より広域的なウイルス循環や共通の選択圧を反映している可能性を示しています。

B/Yamagata系統は両国で2018年を最後に検出されなくなった
本研究では、B/Yamagata系統の最終検出は日本で2018年5月、ミャンマーで2018年10月でした。すなわち、両国ともにCOVID-19パンデミック以前の段階で、B/Yamagata系統の消失傾向がすでに始まっていたことが示されました。
近年、世界的にもB/Yamagata系統の消失が確認され、2025-26年ワクチン組成の見直しにもつながりましたが、本研究はアジアの異なる疫学環境においてもその変化が同期して観察されていたことを示す知見となりました。

2019年にはHAに3アミノ酸欠損をもつ新しいB/VictoriaクレードV1A.3が両国で出現
B/Victoria系統のHA遺伝子解析では、3アミノ酸欠損(Δ162–164)を有するV1A.3クレードが2019年に日本とミャンマーの両方で確認されました。
この時期に使用されていたワクチン株は主としてV1A.1クレードであり、循環株との間に遺伝学的な不一致が認められました。
すなわち、両国でほぼ同時期に、抗原性変化を伴う新しいB/Victoriaクレードが広がっていたことが示され、継続的な分子サーベイランスの重要性が改めて示されました。

2018年の日本ではB/Victoria系統とB/Yamagata系統のリアソータントも検出
さらに、2018年1月、B/Victoria系統由来とB/Yamagata系統由来の遺伝子分節を組み合わせたリアソータント株が日本で確認されました。
この株では、HAやNAなどはB/Victoria系統由来である一方、複数の内部遺伝子はB/Yamagata系統由来であり、系統共循環の時期に遺伝子再集合が起こりうることを示しています。
このような希少なリアソータント株の検出には、部分遺伝子解析ではなく、全ゲノム解析が有効であることが示されました。

本研究の意義
本研究は、疫学環境の異なる日本とミャンマーを対象に、インフルエンザB型ウイルスの系統置換、クレード推移、B/Yamagata系統の消失、リアソートメント、ワクチン株との不一致を全ゲノムレベルで比較した研究です。
その結果、インフルエンザB型ウイルスの進化が国単位ではなく、より広域的なスケールで同期して進んでいる可能性が示されました。
今後も、継続的な全ゲノムサーベイランスにより、B/Yamagata系統の再出現や新たなリアソータントの検出、ワクチン株選定への貢献が期待されます。
論文情報
Ichikawa Y, Saito R, Chon I, et al.
Molecular Epidemiology and Genetic Diversity of Influenza B Viruses Based on Whole-Genome Analysis in Japan and Myanmar, 2016–2020.
Influenza and Other Respiratory Viruses. 2026;20:e70234.
DOI: 10.1111/irv.70234






