RSウイルス|Respiratory syncytial virus

RSウイルス(RSV)感染症は、「かぜ症候群」の一種であり、小児科領域では注目度の高い重要な疾患である。2歳までにほぼすべての小児が罹患し、時として、細気管支炎や肺炎を合併して重症となることがあります。世界的に、急性呼吸器感染症による5才以下の死亡の原因としてRSVは最も頻度が高いとされ、途上国で疾病負荷が大きいと言われています。現在のところ、RSウイルスには、ワクチンも、治療薬もないため、基本的には対症療法のみとなります。唯一、抗体予防薬のパリビズマブが、本邦では保健適応となっているものの、先天性心疾患や、未熟児などのハイリスク群のみの適応のため、すべての児に使用できるわけではありません。

RSウイルス

RSVは、15,000塩基長のネガティブセンス一本鎖RNAウイルスで、11の遺伝子部位にわかれ、表面蛋白にはG蛋白とF蛋白があります。G蛋白は細胞への接着に使われ、宿主の免疫にさらされるため、もっとも遺伝子変異に富み、進化速度が速いことが知られています。RSVは、G蛋白の遺伝子配列によりA型とB型にわかれ、さらに、270~330塩基長のG蛋白の第二可変部位を遺伝子解析することで、20以上の遺伝子型に分けられています。RSVは、宿主の免疫をのがれ、A型とB型が交互に流行することが知られています。しかしながら、我が国において、毎年どのような血清型や遺伝子型が流行しているのか、全国的なデータは存在しません。国の感染症発生動向調査により、RSV患者数は5類定点報告感染症として把握されているものの、病原体サーベイランスは行われていないため、血清型についても、遺伝子型もよくわかっていません。

RSウイルス

これまで、私たちのグループは、RSVの分子疫学的解析を行い、新しい遺伝子型をたびたび報告しています。A型RSVの新しい遺伝子であるNA1、NA2と、B型のBA7、BA 8、BA 9、BA 10型を国際誌に報告しました(Shobugawa et al. JCM, 2009、Dapat et al., JCM, 2010)。ここ数年、世界的に流行している型のほとんどがNA1とBA9に分類されており、我々の研究の重要性を示しています。さらに、2012年に、カナダの研究者が、ON1という新しい遺伝子型を報告したため、本邦でも流行の有無が注目されており、臨床型とあわせて監視することが重要です。

RSウイルス

これらの結果は、10年以上にわたり、新潟市内の小児科で調査を継続してきた成果です。さらに2012年より、私たちは、日本外来小児科学会の協力を得て、全国十数カ所、北海道~沖縄の小児科医と独自のネットワークを形成し、RSV検体の採取と、臨床症状や経過を調査しています。

当教室で取り組んでいる、RSVの分子疫学や、RSV感染症の臨床経過とウイルス量の評価は、ワクチンの効果や治療薬の導入のための、大事な基礎資料になります。米国では、治療薬の開発も進み、ワクチンも治験段階です。我が国でも、ワクチンが導入されれば、流行規模が小さくなったり、遺伝子型のシフトが起こったりする可能性が高く、現状を把握することは重要です。また、治療薬の効果を評価するためには、無治療の臨床経過とウイルス量の観察が必要です。現段階においてRSVの臨床経過やウイルス量を、遺伝子型の違いに関連づけて詳しく検討した研究は限られており、我々の研究は貴重な基礎資料となります。

また、我々の主導する、アジアの感染症プロジェクト(ミャンマー、マレーシアなど)を通じて、東南アジアのRSウイルスを調査することにより、世界各国での疾病負荷、世界的な伝播経路や速度についても検討したいと思っています。

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