UWCCCの研修を終え、帰国前日の6月16日に、日本アキュレイ株式会社のご厚意によりマディソンにあるAccuray Inc.(1240 Deming Way, Madison, WI53717)を訪問させていただきました。第3回目となる報告記ではTomotherapyの開発プロセスについて報告させていただきます。
CyberKnifeおよびTomoTherapyが開発されているAccuray Inc.訪問にて、主にTomotherapyの開発プロセスを見学させていただきました。ここで、TomoTheapyとはCT一体型の放射線治療システムであり、UWCCCの前教授のThomas R. Mackie先生により1993年に発案された治療装置です。TomoTherapyの加速器部分はC-arm型リニアック同様、電力供給源・モジュレータ・マグネトロン・電子銃・加速管から構成されています。また、開閉時間制御型のバイナリMLCの動的位置精度の検証も見学させていただきました。照射野移動時間は最大20 msと高速であり、大きな音が室内に鳴り響いていたことが印象に残っています。各プロセスを経て装置が完成した後は、約3週間かけて@初期セットアップ、Aビームアライメント、BMVCT画像、CIMRT、D総合試験の順で検証が行われるとのことでした。C、Dの検証ではTopographic profileなど様々な条件にてフィルム測定等行われていましたが、中でも照射後フィルムに模られたバジャー(ウィスコンシン州のマスコットであるアナグマ)のクオリティの高さには衝撃を受けました。「TomoTherapyはC-arm型のリニアックよりも強度変調の分解能が高い」と伺っていましたが、濃淡のきめ細やかなバジャーが描かれたフィルムを目の当たりにし、百聞は一見に如かずだと感じました。見学中は新型TomoTherapyであるRadixact(現地ではタイタンと呼ばれていました)の詳細についてもエンジニアの方にご教示いただき、大変勉強させていただきました。新潟県内にTomoTherapyが導入された際には、何らかの形で今回の見学で得られた知見を還元させていただければと思っています。改めまして、このような貴重な機会をいただいた日本アキュレイ株式会社の皆様に感謝申し上げます。
高精度放射線治療が著しく普及している昨今、医学物理士が担うべき臨床業務は多岐に渡っています。本研修を通して、医学物理学の専門家として臨床業務に貢献するために、レジデントコースをはじめとした臨床研修が非常に重要であることを再認識致しました。2週間という短い期間の中で数多くの有益な知見を得ることができたことは私にとって大きな財産であり、今後の臨床業務の中でそれらを還元していく所存です。
海外派遣研修の機会を与えてくださった日本医学物理士認定機構に深く感謝申し上げます。また、研修を快く受け入れていただいたUWCCCのDr. John E. Bayouth教授をはじめ、献身的にご指導いただきましたDr. Bayliss, Dr. Frigo, Dr. Labbyに深く感謝申し上げます。最後に、海外研修を快く認めてくださった青山英史教授に深く感謝申し上げます。
棚邊 哲史


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研修報告記第1回目は放射線治療装置と医学物理士の臨床業務を中心に報告させていただきました。第2回目は医学物理士レジデントプログラムに関する報告をさせていただきます。
UWCCCにおける医学物理レジデントプログラム(clinical medical physics residency program)は2004年にCAMPEPの正式認可を受け、これまで計12名が本研修プログラムを修了しています。世界で最初に医学物理博士課程を設置した大学ということもあり、年によってレジデント倍率は数十倍と非常に狭き門のようです。在籍していた計3名(1年目2名、2年目1名)のレジデントはいずれも博士号を取得しており、原著論文を何本も書いている優秀な方々でした。レジデントプログラムは、2年の期間中に計8つのセクション(Introduction to Clinic, Treatment Planning, Commissioning & Shielding, TomoTherapy, Advanced Treatment Planning, Brachytherapy, Special Procedure, Elective)に大別されます。レジデントは3カ月毎にローテーションを行い、その都度、口頭試験とレポート提出が課せられます。驚いたことに、口頭試験は1人当たり約2時間にわたり行われるとのことで、最初の30分はセクションの学習内容をまとめたプレゼンテーション、その後30分間は試験官(医学物理士Faculty)による質疑応答(1問当たり4~5分)、そして残りの1時間は試験官がテーマを与えてその内容についてディスカッションを行うという内容でした。当院でも4ヶ月毎にレジデントに対して口頭試験(1時間強)を行っていますが、あるテーマを与えるディスカッション方式は取り入れたいと感じました。さらに驚いたことに、1年目のレジデントの方が作成していたレポートを拝見した際、頁数はすでに100を超えており、非常に内容の濃い研修であることが伺えました。
UWCCCの医学物理士レジデントは3カ月毎のローテーション業務に加えて、1年目はMonthly QA、Annual QA(参加)、IMRT QA(1回/wks)、3DCRT治療計画の業務を、2年目はWeekly Chart Check、POD/PIC参加、高精度放射線治療計画、小線源治療、Annual QAなどの業務を行います。IMRT QAについては主に医学物理博士課程の大学院生が中心となって行っており、その指導を2年目のレジデントが行っていました。大学院生や医学物理士スタッフ各々からひっきりなしに呼ばれる場面も散見され、とても忙しそうな日々を送っていました。ちなみに2年目のレジデントに1日当たりの勤務時間を聞いたところ、平均6.5時間位とのことでした。
UWCCCの医学物理士レジデントは関連病院においても研修を積んでいました。幸いにも、レジデント3名と一緒にEast UWHealth Clinic(UWCCCより車で30分程度)を訪問し、TrueBeamのMonthly QAを行わせていただきました。QA項目はMechanical check, Dosimetry constancy check, On board imaging check, Respiratory gating check, MLC checkの5つに大別され、全ての項目をレジデント自身が自発的に行っていたのが印象的でした。Dosimetry constancy checkの際には、AAPM TG51 addendumの線質指標である%dd(10)xと標準計測法の線質指標であるTPR20,10の相違と各々の長所をテーマに、有意義なディスカッションができました。途中からAssociate Program DirectorもQAに参加し、レジデントに対して熱心に指導されておりました。
訪問中にレジデントと接する中で一番強く感じたことは、UWCCCでは体系化されたシステムにより、レジデントひとりひとりが自発的に業務を遂行できる環境が整っているということです。具体的には、各セクションの目的・達成目標・業務内容・レジデント評価項目等の詳細は全て医学物理士スタッフが作成したWikipedia上で管理されており、レジデントはWikiを参照しながら3カ月間毎にスケジュールを計画し実行していました。患者さんに直結する臨床業務以外はあまり口を出さないと医学物理士スタッフが仰っていたのは意外でしたが、それだけレジデント自らが目標を持って業務に取り組んでいる証拠だと思いました。
当院では2015年10月に医学物理士レジデントコース開設され、まもなく1年が経とうとしています。当然のことながら、医学物理士のマンパワーはUWCCCに比べて圧倒的に劣ります。しかしながら当院では、医学物理士に加えて、放射線腫瘍医や診療放射線技師の皆様が三位一体となってレジデント教育を行っており、その教育体制はUWCCCと引けをとらないと感じています。むしろ、腫瘍医による臨床的指導、放射線技師による技術的指導を受けられるという意味では、UWCCC以上かもしれません。海外研修を通して、海外のレジデントプログラムを踏襲することも大事ですが、当院ならではの特長を活かしていくことも重要だと考えるようになりました。これからも周りの方々のサポートをいただきながらレジデント教育体制を強固なものにしていきたいと思います。
棚邊 哲史

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