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19th International Conference on Emerging Infectious Diseases in Seoul

2017年2月7-8日にソウルのノボテルアンバサダーホテルで、第19回International Conference on Emerging Infectious Disease会議が行われました。
今回は、細菌、寄生虫に対する薬剤耐性が中心のテーマで、米国、日本、アジア各地から300人近くの参加者がありました。
発表の中で印象に残ったものをいくつか紹介します。
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東邦大学の舘田先生より、日本全体として細菌の耐性の頻度は下がっており、なかでもMRSAは低下傾向にあることが報告されました。カルバペネム耐性は低下しているそうですが、キノロン耐性は逆に上がっているそうです。

ベトナムの研究者から、ベトナムでは、キノロン耐性の赤痢菌が流行していることが報告されました。

米国CDCの研究者から、四川省で従血吸虫が再上昇している地域があり、一人の人からずっと検出されることがありその原因をさぐっているという発表がありました。人や村で従血吸虫の遺伝子に固有の違いがあるものの、従血吸虫は、雌雄つがいから子供が生まれるので、細菌やウイルスのように単一クローンを追いかけるのが難しいのだそうです。いわば家系図を作らねばならないそうで、この女性研究者は、「いとこ」同士の従血吸虫を最近見つけたといっていていました。

北大の鈴木定彦先生は、ミャンマーのDMR(Department of Medical Research)との共同研究で結核の調査を進めているそうです。ミャンマーのMDR(multi-drug resistance)多剤耐性結核はほとんど北京型で耐性の遺伝子配列を調べるとかなりバラエティに富んでいるため、薬の使い方がかなりルーズになっている可能性を指摘していました。鈴木先生は、ミャンマー国境のタイ側からもアプローチしているそうですが、そちらのMDRの遺伝子型は、ミャンマー国内(ヤンゴン?)のものと違っているそうです。結核は伝播が遅いので、インフルエンザのように同じような株が同時にはやるというより、地域固有種があるようです。特にミャンマーでは治療のストラテジーをしっかりたてるのが大事と、鈴木先生は強調していました。結核は、治療が半年以上かかるので、患者にいかに薬を持続するかが、薬剤耐性を作らない大きな鍵なのですが、私たちのミャンマー新潟大プロジェクトのメディカルオフィサーが、特に、田舎のひとが治療を継続する重要性をまったく理解せず、ちょっと症状がよくなると結核の治療をやめてしまうと嘆いていたことを思い出しました。

結核の薬剤耐性がらみで、WHOの指導でリファンピシン耐性かどうかをGenXpertというリアルタイムPCRを使ってMDR結核のスクリーニングをする国が多くなっています。ミャンマーもその一つです。新しく4種の蛍光を使った、GeneXpert Ultraというものが開発されたそうです。XDR(extended drug resistance)も検出できるという報告がありました。ううーん、検出のコストがどんどん上がり、あまり途上国向きでないような・・。

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マラリアの薬剤耐性についてもいくつか発表がありました。
クロロキン、メフロキン耐性は、アジアに端を発してアフリカに広がったのだそうです。

これらの先行薬剤への耐性が出現したため、WHOはアルテミシンという中国ヨモギからの抽出物をマラリアの治療として使うことを推奨しています。そしてこのアルテミシンの発見により、中国の科学者がノーベル医学賞を取りました。近年、大きな話題となったのが、アルテミシン耐性です。このEID会議では、パスツール研究所のグループが、カンボジアのマラリア検体を中心とした東南アジアの、アルテミシン耐性について発表していました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27332904
アルテミシン耐性はクロモソーム13にある変異と関連しているそうです。
耐性の定義には、
*臨床的な耐性(微生物の排泄が長引く、経過が長引く、重症化するなど)
*実験室的な薬剤耐性(IC50値の上昇など)
*遺伝子マーカー(遺伝子変異)
の3つを証明する必要がある、というコッホの3原則のような決まりがある、ということを説明していました。
今まで私もインフルエンザの薬剤耐性を研究してきて、なんとなくそうかなと、思っていたことがここで、ぴしゃっと理解できました(腑に落ちたというやつです)。

アルテミシン耐性は、東南アジアに多く、タイとカンボジアでは50%以上が耐性だそうです。
まだアフリカには少ないそうです。しかし、この耐性がアフリカに伝わるのも時間の問題で、アジアより衛生環境が格段に悪いアフリカでは、もし、アルテミシン耐性が広がったら、このせいでまたマラリアの患者が再上昇してしまうのかもしれません。

今回は、抗菌薬耐性という大きなくくりだっため、細菌、マラリア、結核、リューシュマニアなど多種多様な微生物をカバーしており、分子疫学的な話が案外多く、あらためてその大事さを感じました。

さて、堅い話から、ソウルのちょい観光にうつります。
ソウル観光の定番、景福宮(キョンブックン)。
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王宮なのだそうで、広大な敷地に建物が配置されています。北京の故宮に似ています。
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なぜか、韓国歴史ドラマのような出で立ちの若者がたくさんいます。
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旧正月がすぎたばかりなので、韓国の成人式なのかもしれません?
思い思いのポーズをとる若者に、民族衣装はその国の人を一番美しく見せるというのは本当だとおもいました。

日本軍に 1895年10月8日に暗殺された閔妃の特別展示もありました。当時の状況としては日本の国力増強のためであったのでしょうが、なぜこのようなことになったのか、韓国に進出せねばならなかったのか、と思いました。
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さて、隣接する国立民族博物館にも行きました。
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韓国の伝統的な暮らしを有史前から現代まで紹介していてとても見応えがあります。
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たぶん、これはかなり裕福な人の暮らし。
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医者のようです。チャングムを思い出しました。
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日本に似た家屋。
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まだ、ソウルは寒くて梅も咲いていませんが、春が待ち遠しいですねえ。

そして、実はCOEXなのですが、水族館のチンアナゴ。
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病院勤務時代に、韓国に行ったことがありましたが、まだ韓流ブームのまえで、韓国の人も日本人におっかなびっくり、という感じでした。
今回は、韓国の人たちの日本に対するフレンドリーさを強く感じました。
かなり日本語が通じてびっくりしました。
ふりかえって、私たちはどのぐらい韓国語が分かるのでしょうか?
両国の友好が末永く続きますように。

(齋藤玲子)

2017-02-11 | Posted in ブログ|BlogComments Closed