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はじめに
前立腺がんは、日本人の高齢化や食生活の欧米化、血中腫瘍マーカーであるPSA(前立腺特異抗原)検査の普及に伴い、近年急速に増加しています。男性における、がん罹患数(新たにがんと診断される数)の推移をみると、2010年の集計では前立腺がんは胃がん、肺がん、大腸がんに続いて第4位でしたが、2015年の集計では前立腺がんが初めて第1位となることが予測されています。
検査、診断および治療方法
PSA値あるいは肛門からの触診(直腸指診)で前立腺がんが疑われる方には、前立腺生検を行うことを勧めています。できるだけ無駄な生検を行わなくてすむように、年齢、PSAの上昇の程度、前立腺の大きさなど様々な面から前立腺がんが疑われる場合に前立腺生検を行うようにしています。
当院では生検の前日に入院、生検後問題がなければ翌日の退院(2泊3日)で行っています。検査は30分程度です。合併症としては、血尿(おしっこに血が混じる)、血便、頻尿や排尿時の痛みなどがありますが、ほとんどの場合3、4日で軽快します。非常にまれですが、急性前立腺炎を生じ高熱が出ることがあります。
治療法には大きく分けて、手術、放射線療法、薬物療法(内分泌療法またはホルモン療法と呼びます)の3つがあります。 一般的に、前立腺がんは比較的進行が遅いがんといわれています。平均余命が10年未満(日本人男性ではおおむね75歳以上)の患者さんでは、前立腺がんを根治しなくとも寿命を全うできるとも考えられるため、前立腺にとどまるがんが見つかった場合でも手術や放射線治療を行わず、内分泌療法(ホルモン療法)あるいは経過観察で様子をみることも少なくありません。 がんが前立腺にとどまり、余命が10年以上期待できる患者さんではがん細胞を全て退治できれば再発や転移を避けることができます。 下記の治療法にはそれぞれ長所と短所がありますので、当院では医師から現在の病状(病期とがんの悪性度)と各治療法についてお話しし、患者さんご自身の考えで治療法を決めていただいております。
治療方法
がんのある前立腺を精嚢とともに摘除する治療法です(前立腺全摘除術と言います)。前立腺周囲のリンパ節も取り除くことがあります(リンパ節郭清)。摘出後に、膀胱と尿道をつなぎます。がん細胞が前立腺の中に限局していれば根治の可能性の高い治療法です。ただし、がん細胞が前立腺の外側まで浸潤している場合はがん細胞が残る可能性があります。
★ ロボット支援手術(ダヴィンチ) ★
新潟大学医歯学総合病院では、2014年2月に「ダヴィンチSi (米国Intuitive Surgical社)」という手術支援ロボットを導入し、同時期より前立腺がんに対するロボット支援前立腺全摘除術を積極的に行っています。従来の開腹手術による前立腺摘除術では、創(きず)が大きく術後の痛みや体力の低下だけでなく、出血や膀胱と尿道の吻合不全などの合併症、前立腺周囲にある尿道括約筋や神経の損傷により術後の尿失禁や勃起不全が大きな問題でした。これらの問題がロボット支援手術で大幅に改善しました。手術支援ロボットには、3次元カメラによって実物の10倍の拡大視野で手術を行うことができ、また手の関節以上に繊細な動きが可能で、手ブレ防止機能も付いていることから、がんの根治性、安全性、機能温存の側面において高い精度で手術を実現できるようになりました。ロボット支援手術の基本的なやり方は、通常の腹腔鏡手術と同じで、小さな皮膚切開で手術が行えることから術後の痛みの軽減や早い社会復帰が得られるだけでなく、手術中にお腹の中(腹腔といいます)に二酸化炭素で膨らませて、手術を行いますので、出血量を少なくすることができ、体にやさしい手術であると言えます。手術支援ロボットの導入で短所は大幅に減りましたが、手術後に男性機能障害を来すことが多いこと(勃起を調整する神経は前立腺の外側に接しています。そのため、手術後は勃起障害が起こります。ただし、がんの広がりが限局している場合には、患者さんの希望により勃起神経の温存を行っています。)尿が漏れやすくなること(尿道を閉じておく尿道括約筋は手術により多少の障害を受けます。手術直後は一時的に尿失禁の状態になりますが、通常は時間の経過とともに失禁量が減少していきます。)また、出血、感染、全身麻酔による危険性は他の手術と同様にあります。
がん細胞が放射線に弱いことを利用して、がん細胞を死滅させる方法です。近年、コンピュータを利用して照射領域を正確に狙うことができるようになり、大幅に改善されてきています。手術と異なり、心臓や肺などの臓器に負担をかけないため、持病で手術が受けられない方でも治療を受けることができます。 勃起障害や尿失禁などの合併症が手術よりも少なくすみます。ただし、前立腺の隣の膀胱や直腸の正常細胞の血行が悪くなるため、炎症を起こし、出血や痛みが出ることがあります。 治療中または治療後しばらく経ってから起こることがあります。時に輸血が必要なほど出血することもあります。これらの副作用は、治療終了後数年たってからも出現しますので注意が必要です。
新潟大学医歯学総合病院では、前立腺がんに対する放射線療法として体の外から放射線を前立腺にあてる外部照射(3次元原体放射線治療、強度変調放射線治療(IMRT))や、麻酔をかけて前立腺に直接放射線を出す針を刺入する高線量率組織内照射療法を行っています。
★高線量率組織内照射療法★
前立腺に留置した中空の針(アプリケータ)を通して前立腺の内部に線源を送り込むことによって、前立腺全体に照射を行う方法です。外照射では照射中における前立腺の生理的移動により前立腺周囲の正常臓器に放射線が当たってしまうことが問題となりますが、組織内照射では前立線の移動の心配がないため、高い線量での照射を行うことが可能です。
当院では外部照射と高線量率組織内照射療法を組み合わせて行っています。まず、外来または入院で骨盤部(前立腺部)に平日1日1回合計13回の外部照射を行い、その後に前立腺高線量率組織内照射療法を入院にて行います。入院期間はおよそ1週間です。2つの治療の良いところを合わせた治療と言えます。ただし、直接針を前立腺に刺入しますので、血尿や出血、また感染症といった副作用が出ることがあります。また、外部照射による、照射中、照射治療後の早期副作用(排尿症状(尿がでにくい、排尿時に痛みが出る、下痢、排便時のいたみなど急性障害)、数か月〜数年後にでる尿道狭窄、直腸出血にも注意が必要です。
前立腺がん細胞は男性ホルモンがあると増える(増殖)することがわかっています。ですので、薬物療法の基本は体内の男性ホルモンを減らし、がんの増殖を抑える内分泌療法です(ホルモン療法とも呼ばれます)。一般的には、がんが前立腺にとどまらず広がった場合(局所進展や転移と言います)、あるいは他の重大な合併症があり手術や放射線治療ができない患者さんに対して行われます。また、放射線治療における補助療法として内分泌療法が併用される場合があります。
内分泌療法には、両側の精巣を手術で摘除する方法(去勢術)と、皮下注射の薬(LH-RHアナログあるいはアンタゴニスト)により男性ホルモンの分泌を抑える方法があります。男性ホルモンは脳の一部である下垂体から出る黄体ホルモン(LH)による刺激を受け、精巣から分泌されます。LH-RHアナログあるいはアンタゴニストを使用すると、下垂体からLHが分泌されなくなり、その結果、精巣からのアンドロゲンの分泌が抑えられます。この注射は1-3か月に一度行うことが普通です。治療効果は去勢術も薬による方法も差がありません。
また、男性ホルモンの作用を抑える飲み薬を併用する場合もあります。前立腺がんの大半は増殖に男性ホルモンを必要とするがんであるため、80%以上の患者さんにおいてはこの内分泌療法が有効です。内分泌療法は比較的副作用の軽い治療法とはいえ、ほてり感、気分の変調、勃起不全、筋力低下などが起こる場合があります。
しかしながら、一部の前立腺がんでは内分泌療法に反応しない場合があり、また始めは反応しても何年か経つとこの治療に抵抗して増殖するがん細胞が優勢になってくるため、内分泌療法だけでは前立腺がんを完全に治すことはできません。その場合、点滴で抗がん治療薬による治療を行う場合があります。
新潟大学医歯学総合病院では一般の保険診療の他に、前立腺がんに対する新薬開発(開発治験)を数多く行っておりますので、もう治療法がないと言われた方であっても、適応がある可能性もありますので、まずはかかりつけの先生にご相談をされてみてください。