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下部尿路について
尿路は上部尿路と下部尿路に分かれ、排尿には下部尿路が関わっています。下部尿路に関する臓器は膀胱と尿道(男性では前立腺も含む)であり、尿を貯める働き(蓄尿)と尿を排出する働き(排尿)があります。この働きが上手くいかなくなった状態を排尿障害といいます。この原因として、膀胱の病気、尿道の病気、男性では前立腺の病気があり、その結果頻尿・尿失禁・排尿困難・尿閉といった症状が出現します。以下各疾患について説明します。
過活動膀胱
過活動膀胱とは、膀胱の活動が異常に亢進するために、尿意切迫感(急に生じる我慢できない強い尿意)・頻尿(尿が近い)を必須症状とし、時に切迫性尿失禁(トイレに間に合わず尿が漏れる)などの症状も出現する疾患です。過活動膀胱の原因は蓄尿期における膀胱の異常収縮といわれており、脳血管障害や脊髄障害、後で触れる前立腺肥大症などの疾患と関係していると考えられています。治療は、薬剤内服療法であり、膀胱を拡張させて尿が貯まりやすくする薬剤(β3受容体作動薬)、膀胱の異常収縮を抑える薬剤(抗コリン剤)を使用します。
神経因性膀胱(低活動膀胱)
神経障害が原因で生じる排尿障害です。排尿する際に膀胱が十分に収縮しなかったり、膀胱の収縮と尿道の筋肉の弛緩との連係が上手くいかないことで起こります。主な病因には、糖尿病による神経障害と骨盤内手術による末梢神経損傷があります。特に後で述べます前立腺肥大症などがなくても尿を出しにくく、高度な場合には自分で全く尿を出せないこともあります。治療は薬剤内服療法であり、後で述べますように前立腺肥大症の治療にも使われる、尿道を広げることで尿を出やすくする薬剤(α1受容体遮断薬)、膀胱の収縮を強める薬剤(コリンエステラーゼ阻害剤)を使用します。しかし、薬剤内服療法無効例では、尿道の出口から管(カテーテル)を入れて尿を出すような治療(尿道カテーテル留置、間欠的導尿)が必要です。状況に応じて、膀胱や尿道の働きを詳しく調べるための検査法である膀胱内圧測定を含めて詳細な病態を把握します。
前立腺肥大症
前立腺肥大症は、男性の尿道の周りを取り囲んでいる前立腺の内側(移行域といいます)に良性の腫瘍ができるため、腫瘍による尿道の圧迫が原因で尿道がつぶされ狭くなることで尿が出にくくなる病気です。また、腫瘍が膀胱の中に飛び出して膀胱を刺激するために、頻尿症状もみられることがあります。治療は薬剤内服療法と手術療法に分けられます。薬物療法では前立腺部の尿道を緩め尿道を広げることで尿を出やすくする薬剤(α1受容体遮断薬)、前立腺腫瘍を小さくすることで尿道の圧迫や膀胱への刺激を和らげる薬剤(5α還元酵素阻害剤)、膀胱の出口や前立腺部の尿道を緩め、かつ膀胱の血液の巡りを良好にすることで症状を和らげる薬剤(PDE5阻害剤)などがあります。手術療法では内視鏡で前立腺の腫瘍を細かく削ることで尿道を広げ、尿を出やすくする経尿道的前立腺切除術(TUR-P)や、前立腺被膜下摘出術等があり、薬剤内服療法無効例に選択されます。 しかし、夜間におこる頻尿症状を主とする場合、この原因が必ずしも前立腺肥大症であるとは限らず、睡眠前まで水分を多く摂取することでおこる夜間多尿、睡眠障害などによる場合もあります。そこで患者さんに3日間程度の排尿日誌(排尿時刻・1回排尿量・尿失禁量・残尿感の有無・飲水量等)を記載して頂くことで排尿パターンを把握できますので、夜間頻尿の原因を調べるために有用です。
腹圧性尿失禁
咳やくしゃみ、重いものを持ったりなどした際にお腹に力が入ることで尿が漏れてしまう疾患です。通常は女性に特有の病気で、出産経験の多い方や閉経後の方によく認められます。女性の尿道を挙上支持している骨盤底筋が、出産・加齢・女性ホルモン低下などで弱くなることがこの疾患の原因と考えられています。男性では、前立腺癌や前立腺肥大症の手術を受けたあとに、尿道を締める筋肉の働きが低下するために起こることもありますが、頻度は女性と比べますとはるかに少ない状態です。治療は骨盤底筋を強化する運動(骨盤底筋訓練)と手術療法に分けられます。薬剤内服療法はそれのみでは効果が期待できず、骨盤底筋訓練を主として行い、薬剤を補助的に使用します。手術療法では、経膣的にテープ状に切り出した自分の筋膜(腹直筋や大腿長筋)や人工線維(ポリプロピレン)で出来たテープで尿道を支える経膣的尿道スリング手術が薬剤内服療法無効例に対して選択されます。前膣壁の小切開創から穿刺針を挿入して、恥骨後面の骨盤腔を通して下腹部にポリプロピレンテープを引き出すTVT手術や、テープを閉鎖孔に通すTOT手術があります。