新潟大学腎・膠原病内科

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研究について

分子生物学研究グループ

 

分子生物学研究は当初、核酸や蛋白質などの分子レベルの視点から生命現象を解明する研究分野でしたが、現在ではこういった分子レベルでの病態解明は、新たな知見を得るために必須の手段となりました。さらに実験技術の飛躍的な発展に伴い、我々研究グループがカバーする領域も、患者を対象とした疾患原因遺伝子の同定から、疾患モデルマウスや臨床病理と予後との関連に至るまで、あらゆる分野に広がっています。

IgA腎症の発症、進展様式に関する研究

IgA腎症は、腎糸球体メサンギウム細胞へのIgAの沈着と、メサンギウム細胞増生、基質増加を病理学的特徴としますが、IgAがどのような機序で産生され、メサンギウム領域に沈着するか、依然として解明されていない点も残っています。そこでIgA腎症研究グループでは、以下の研究テーマに沿って研究を行っています。

1. 家族性IgA腎症の原因遺伝子同定

IgA腎症は孤発例が大部分を占めますが、一部には遺伝性を持った家族内発症のIgA腎症が存在します。家族性IgA腎症を発症した数十家系の遺伝子サンプルを対象に、全ゲノム塩基配列同定を次世代シーケンサーにて行い、同一家系内でIgA腎症を発症した患者にはみられるが、非発症者にはみられない数十個の病因候補遺伝子を同定しました。その一部については現在、同定された遺伝子変異がもたらす機能異常の有無につき、培養細胞に遺伝子導入を行い、機能解析を行っています。

2. IgA腎症患者摘出扁桃のマイクロバイオーム解析による扁桃細菌叢の同定

IgA腎症においては扁桃感染により一時的な増悪を認めたり、IgA腎症の治療としての扁桃摘出術の有効性が報告されたりしていることから、扁桃に存在する細菌叢が、粘膜免疫を介して何らかの免疫学的修飾をもたらし、IgA腎症の発症に結びついていることが推察されています。しかしこれまでは、扁桃に存在する細菌叢の同定は、細菌培養による単離を行わなければならず、しかしながら99%の細菌は単独では培養できないという問題点がありました。そこでIgA腎症患者の摘出扁桃を用い、細菌に特異的なDNAをPCR法にて増幅させ、塩基配列を同定するマイクロバイオーム解析を行い、IgA腎症患者扁桃に特異的な細菌叢を同定するべく、解析を行っています。

3. 腎糸球体メサンギウム細胞上のIgA受容体の機能解析

メサンギウム細胞上のIgA受容体としては、これまでトランスフェリン受容体などが候補として挙げられていましたが、培養ヒトメサンギウム細胞を用いてIgAとの結合条件を検討した結果、インテグリンα1/β1およびα2/β1ヘテロダイマーを新たなIgA受容体の候補として同定しました。現在はメサンギウム細胞上のインテグリンα1/β1とα2/β1ヘテロダイマーで機能に違いがあるか否か、あるいはIgAの糖鎖による違いがどのような機能的異常をもたらすかについて、培養メサンギウム細胞を用いて研究を進めています。

4. IgA腎症の腎病理所見と予後の関連

当院で腎生検を行ったIgA腎症患者を対象に、Oxford分類の病理4項目(M, E, S, T)に加え、細胞性半月体ならびに線維細胞性半月体といった管外増殖病変、および細動脈硝子化といった病理パラメーターが腎予後に関連するか否かにつき、後方視的な研究を行い、管外増殖病変および細動脈硬化が腎予後に大きく関連することを明らかにしました。この結果は、Oxford分類に採用されなかった管外増殖病変ならびに細動脈硬化の、予後因子としての重要性を示すとともに、糸球体病変のみならず間質の血管病変もIgA腎症の予後に影響を及ぼすことを示しています。この結果をまとめた論文はClin Exp Nephrol誌オンライン版に掲載されました。

IgA腎症患者における腎予後と管外増殖病変ならびに細動脈硬化との関連

細胞性半月体および線維細胞性半月体を含む管外増殖病変あり(Ex1)は同病変なし(Ex0)に比較して腎予後は不良であり、同様に細動脈硬化あり(A1)は同病変なし(A0)に比較して腎予後は不良である。糸球体病変だけではなく、間質の血管病変もIgA腎症の予後に大きく関連する。

家族性非定型溶血性尿毒症症候群の原因遺伝子同定

幼少時に発症する家族性非定型溶血性尿毒症症候群の家系で、発症者と非発症者の全エクソンの塩基配列を解読し、その中で遺伝形式に合致し、アミノ酸変異をもたらす補体C3の遺伝子異常を、原因遺伝子の候補として同定いたしました。遺伝子異常をもつ補体C3の機能解析を進めています。

肥満と腎炎に関する研究

肥満状態においては脂肪細胞からレプチンとよばれるサイトカインが放出され、中枢神経系に働いて食欲を抑えるほか、炎症を惹起させる作用も報告されています。レプチンを遺伝子的に欠損したマウスに糸球体基底膜抗体腎炎を惹起させ、対照マウスと比較することにより、レプチンの存在が腎臓内でTh17細胞を誘導し、免疫反応を促進させることを明らかにしました。この研究をまとめた論文は、Int Immunol誌オンライン版に掲載されました。

マウス腎炎モデルにおける、レプチンによる免疫修飾作用

レプチンを遺伝的に欠損したマウスob/obに食事制限を加え、野生型マウス(WT)と体重を揃えた食事制限レプチン欠損マウス(FR-ob/ob)を用い、ヒツジIgGを前免疫した後にヒツジ抗糸球体基底膜抗血清を投与して抗糸球体基底膜抗体腎炎を惹起させた。レプチン欠損マウスでは腎炎発症は抑えられている(図A,B)。その原因はヒツジIgGに対するマウスIgG抗体の産生抑制によるものであり(図C)、レプチン欠損により糸球体上皮細胞のIL23産生が抑えられ、腎臓内でTh17細胞が誘導されず(図D)、結果的に胚中心形成と抗体のクラススイッチが滞り、液性免疫反応が抑制されたためと考察される。