研究について

腎・病理・組織研究グループ

 組織班では、日本ではじめての腎生検が1954(昭和29)年に当科で施行されて以来、約17,000症例の腎生検組織診断を担ってきました。
診断依頼は新潟大学以外にも腎生検を施行する各関連病院からもいただいており、毎年400例ほどの標本を作製し、光顕、電顕、蛍光抗体法での観察を行って報告書をお返ししています。近年の特徴としては、腎移植症例が増加し、全体の4分の1を占めています。
非移植症例では腎硬化症や半月体形成性腎炎、膜性腎症などが増加しており、患者の年齢層の上昇を反映しているものと思われます(図1)。

(図1)1954年〜2013年までの腎生検症例の病型分類

組織所見では原発性糸球体腎炎の所見に加え、糸球体肥大や動脈硬化、内皮細胞傷害など高血圧や肥満などの要因が加わった複雑な組織像が増加しており、一元論では説明が困難な症例もみられます。
患者さんの病態に最も影響を及ぼしている所見を選び出し、有効な治療に結びつけるためには、臨床医と診断医の連携が不可欠であり、新潟大学以外の主治医とも顕微鏡を見ながらのディスカッションがしやすいように、スマートフォンを利用して大学と遠隔地とを結んだ顕微鏡供覧システムの試験運用も開始しました。それでも答えの出ない症例は学会や研究会で症例発表し、他施設の先生方からも広く御意見をいただいています。
第60回腎臓学会学術集会では病理診断コンサルテーションで、「臨床的にRPGN、TMAを呈し、腎生検でorganized depositを伴うMPGNの症例」を提示させていただきました(図2,3)。

(図2)PAM-masson trichrome染色像 / (図3)電子顕微鏡像

この症例は現在も診断確定のために他施設のご協力を得て、検索を続けています。
 組織班では他の研究グループと連携し、臨床病理学的な研究も行っています。移植腎におけるカルシウム沈着と臨床的パラメーターとの関連1)、移植腎拒絶反応の新規マーカーとしてのペントラキシン3の発現2)、また、IgG4関連腎疾患の詳細な組織学的特徴3)などを報告しています。また、腎生検の組織所見と臨床情報についてのデータベースの構築と、腎生検施行症例の腎予後の追跡調査を計画しています。この計画が実現できたら病理所見と臨床的予後との縦断的解析も検討して行きたいと思っております。
 腎膠原病内科で行っている「新潟夏の腎」では、組織診断の基礎についてのレクチャーを担当しています。代表的腎疾患の典型的な生検標本を、実際に一人ひとりに観察してもらい、診断に至る過程を体験してもらいます。腎組織診断は難解と思われがちですが、できるだけ楽しく、簡単にレクチャーするよう心がけ、好評をいただいております。
 腎生検組織診断は、画像を人の目で読み解く、という極めてアナログな作業です。多種多様な組織の色や形の中から病的な変化を見つけ出すことから始まり、1つ1つの所見の持つ意味を繋ぎ合わせてストーリーを見つけ出します。混沌としてなかなか道筋が見えてこない場合もありますが、臨床情報や、さまざまな組織学的検索方法を組み合わせて答えを導き出すのは組織診断の楽しみともいえる部分です。私たちが目にすることができるのは患者さんの”現在”のみですが、標本から過去や未来を推理し、よりよい治療選択に結びつけて行くことができるよう、今後も知識、経験を積み、センスを磨いていきたいと思っています。
1)腎移植前副甲状腺ホルモン値の異常は移植腎の尿細管腔内石灰沈着に関連する.
河野恵美子, 成田一衛 新潟医学会雑誌 130(12): 691-698, 2016.
2) Pentraxin-3 expression in acute renal allograft rejection.
Imai N, Nishi S, Yoshita K, Ito Y, Osawa Y, Takahashi K, Nakagawa Y, Saito K, Takahashi K, Narita I. Clin Transplant. 2012;26 Suppl:25-31
3) Light-microscopic characteristics of IgG4-related tubulointerstitial nephritis: distinction from non-IgG4-related tubulointerstitial nephritis.
Yoshita K, Kawano M, Mizushima I, Hara S, Ito Y, Imai N, Ueno M, Nishi S, Nomura H, Narita I, Saeki T. Nephrol Dial Transplant. 2012;27(7):2755-61