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本邦における2019/2020年シーズンのインフルエンザウイルスの臨床疫学解析の結果(概要)

本研究では、バロキサビル・マルボキシル(以下バロキサビル)を投与した19歳未満のインフルエンザA/H1N1pdm09およびB/Victoria系統に感染した小児において、発熱および症状の持続期間を含む臨床効果の比較検討を実施しました.

日本の2019/2020年のインフルエンザシーズンに、11都道府県(北海道、新潟県、群馬県、千葉県、東京都、京都府、山口県、香川県、熊本県、長崎県、沖縄県)の15の外来診療所でプロスペクティブな観察研究をし、バロキサビルが処方された19歳未満のA/H1N1pdm09の66人とB/Victoria系統の34人を選定しました. まず、患者の基本的なベースライン特性を記述し、その後、カプランマイヤー推定法に基づくログランク検定と傾向スコアマッチング法を併用したCox比例ハザード回帰モデルを用いて、A/H1N1pdm09とB/Victoria系統に関する発熱と全症状の持続時間の評価を行いました. 加えて、バロキサビル投与前後に発生したPAのアミノ変異に関連する疫学サーベイランスが実施しました.

結果として、A/H1N1pdm09とB/Victoria系統では、発熱期間(中央値14.2時間(95%CI: 10.5、24.0時間)対中央値13.6時間(95%CI: 10.0、25.5時間)、ログランク検定 p = 0.43)と全症状期間(中央値5.0日(95%CI: 4.0、5.0日)対中央値5.0日、ログランク検定 p = 0.06)に統計学的に有意な差は観察されませんでした. さらに、年齢、性別、2019/2020年シーズンのインフルエンザワクチンの接種有無、発症から初診までの経過時間、初診時の発熱体温、解熱剤の使用などの潜在的な交絡因子で調整した多変量解析でもA/H1N1pdm09とB/Victoria系統の間で、発熱や全症状の持続時間に統計学的に有意な差は認められませんでした(発熱期間はp = 0.11、全症状期間はp = 0.21). バロキサビル投与前にはPA置換のインフルエンザウイルスの小児は確認されなかったが、バロキサビル投与後にPA/E23K置換のA/H1N1pdm09が1例(1.5%、1/66)検出されました. B/Victoria系統においては、バロキサビル投与後にPA変異は検出されませんでした.

複数の先行文献では、B型インフルエンザにおけるノイラミニダーゼ(NAIs)治療後の発熱期間が約1日程度長くなることが報告されているが、本研究の結果では、バロキサビル治療後のA/H1N1pdm09およびB/Victoria系統のインフルエンザに感染した19歳未満の小児において、発熱期間や全症状期間の持続時間が同等であることが示され、バロキサビルの臨床的有用性が示唆されました. 抗ウイルス薬治療の適切なガイドラインを提示するためには、小児におけるバロキサビルによる治療効果を臨床疫学およびウイルス学を併用することで複合的に評価し、今後も継続的に治療効果を検証することが重要となると考えられます.

新潟大学大学院・医歯学総合研究科・国際保健学分野(公衆衛生)

我妻 奎太、Irina Chon、Wint Wint Phyu、孫 宇陽、李 佳銘、吉岡 沙耶加、渡部 久実、齋藤 玲子