Youはどうして臨床病理へ?


『そういえば病理のことあまり知らないなあ・・・。』

『病理医もありかも・・・?』

『病理ってどんな感じなのかな?』

初期臨床研修中、いや、もしかしたら学生のときに、
ふと「病理」が頭をよぎったあなた、または現在進行形で検討中のあなたへ、
ベールに包まれている(?)「病理」について、
現在当教室に在籍している先生たちに、

「なぜここにいるのか?」
「病理学教室はどんなところなのか?」

などなど、生の声を聞きました。

【バックナンバー】

 第8回 田口貴博先生の場合
 第7回 医学研究実習中の医学部3年生のKOさん、KAさんの場合(番外編)
 第6回 アレクセイ・アンネンコフ先生の場合
 第5回 加藤 卓先生の場合
 第4回 渡邉佳緒里先生の場合
 第3回 谷 優佑先生の場合
 第2回 福田 睦先生の場合
 第1回 近藤修平先生の場合

第9回 阿部達也(あべたつや)先生の場合


病理は人の体の中で何が起きているのか、ダイレクトに見えるのが面白い

2011年新潟大学歯学部卒業。1年間の東京大学医学部附属病院口腔顎顔面外科・矯正歯科での臨床研修医(歯科)の後、新潟大学大学院医歯学総合研究科口腔病理学分野にて博士課程を修了。現在は特任助教として当教室に在籍中。

阿部達也先生


-歯学部を卒業してから当教室に来ることになった経緯を教えてください。

学生のときから口腔病理学分野に進むことは決めていたので、病理をやるには臨床を知る必要があると思い、卒業後は他大学で臨床研修をしました。新潟大学にも口腔外科はありますが、ずっと同じところでは視野も広がりませんので県外の大学に行きました。それから新潟大学大学院医歯学総合研究科口腔病理学分野に進学しました。

今後口腔病理専門医の認定試験を受ける予定なのですが、その認定試験を受けるためには全身病理と病理解剖の勉強が必要で、そのために2016年4月からこちらに在籍するようになりました。


-口腔病理はあまり聞きなれないのですが、主にみているものは何ですか?口腔病理医は病理医と同じように少ないのですか?

そうですね。歯学部の口腔病理で診ているのは、基本的に口の中のがん・口腔がんや顎の骨の中にできる病変を診断・研究することが多いです。中でも、口腔がんは最近増えてきているがんの一つで、たばことお酒で増えると言われていますが、最近ではパピローマウイルスと呼ばれるウイルス感染に関連したがんも問題になっています。

口腔病理医の人口はかなり少なく、専門医が現在144名 (2017年10月1日現在)しかおりません。多くは大学の歯学部で診断・研究・教育に携わっていますが、基礎系教室はポストそのものが少ないので、口腔病理を志す人も少ないのだと思います。


-歯学部に入学したのは歯科医を目指していたからだと思いますが、いつ頃から口腔病理に進もうと思われたのですか?

歯学部に入学したのは手に職をつけたいと思ったからです。それが、口腔病理の授業を聞いて面白そうだなあと興味を持ち、学部生の頃から研究室に出入りするようになりました。当時の口腔病理の教授が、研究者は実験関係の作業は自分で全てできなければならないという考え方でしたので(少なくともそのように捉えました)、出入りしながら組織切片の作製や免疫染色の練習をするようになって、それがトレーニングとなり、そのままという感じでした。その頃から(今思うと)自分で立てた仮説に対して実験を計画できるように指導してくれたので、研究を面白いと思うようになったきっかけかもしれません。また、病理は実際の患者さんの検体を主な研究試料としますので、人の体の中で何が起きているのかダイレクトに見えることが臨床にもつながる最大の強みだと思ったことが口腔病理研究に進もうと思った一つの要因だと思います。


-歯医者はよく行く医者の一つですが、あまり病理と関係があると感じたことはありません。どちらかと言えば歯科の先生は職人的なイメージがあります。

確かに一般の歯科医院で虫歯や歯周病の治療をするときに病理診断が関連してくることはほとんどないと思います。けれども、その歯医者が虫歯の病理を理解して削っているのか、そうでないのかは大きく違うと僕は考えています。歯科医院ではレントゲンを撮って、次に治療という流れが多いと思いますが、その間にある“診断”を意識してやっている人は少ないかもしれません。歯科の診断も、病気に対する理解・つまり病理がわからなければできないし、診断が適切でなければ治療ができないというのは、歯科も同じです。こういう考え方ができるかどうかは歯学部でどのような教育を受けたかどういう境遇で育てられたのかで違ってくると思います。

口腔病理の研究を続ける以上、大学に勤めることを考えなければなりませんが、どうしても教育は切り離せません。将来、歯科医を育てる立場になったときは、臨床と基礎学問の間を埋められる口腔病理医になりたいと考えています。


-口腔病理からこちらの臨床病理に来られて、やることは似ていると思いますが、何か違いはありますか?

病理なので基本は同じですが、病理診断は顕微鏡で形をみて判断する形態学診断を基本としていますので、臓器によってこの形態的な特徴、例えばどういう病変を悪性とするのかなどの基準が違うことがあり、そのあたりはまだまだ勉強していかないといけないと思っています。

研究も、これまで”がん”とそうでない部分をどのように見分けるか、また”がん細胞”と”がんではない細胞”の間では何が起きているのか、ということをテーマにしてきました。といってもがん細胞を本当の意味で定義するのは実は難しいところがあり、さらにそれは臓器別の病理診断でも同じです。こういった面をより詳細に追究するうえでも多面的に研究を進めていきたいな、と思っています。


-ところで先生はどちらのご出身ですか?

群馬県です。


-新潟市の住み心地はいかがですか?

冬のどんよりした感じや湿気の多さが最初はだめでした。だけど、もう新潟にきて10年以上経つので今は慣れて、冬はこんなものだと思えるようになりました。


-新潟の魅力はどうですか?

日本酒と食べ物がおいしいです。


-どうもありがとうございました!

(インタビュー日:2017年9月22日)



インタビュー後記 聞き手 教室パート事務員 A子

阿部先生のお話を聞いていて、研究に関する具体的なことは全くわかりませんが、言葉の端々から、研究したいことがたくさんあるのねと感じました。外見は穏やかな雰囲気ですが、淡々としつつ熱量が高いなあと思いました。

歯医者の話の折に、子どもの虫歯の話になりました。今の子どもは6歳までに虫歯を経験している本数は1、2本で、虫歯を全く持っていない子どもも多いと聞き驚きました。生まれたばかりの赤ちゃんの口の中には虫歯菌はいないことも知りませんでした。虫歯が減り、歯医者のあり方も将来は変わっていかざるを得ないだろうという話が面白かったです。

新潟県の12歳児の虫歯数は全国最小で、一人平均虫歯数(治療済の歯を含む)が0.44本。新潟県のサイト


新潟大学医学部 臨床病理学分野は人材募集中です!見学を希望される医学部学生さんや研修医の先生は、総括医長の高村佳緒里までお気軽にご連絡ください。025-227-2096/メール takamura@med.niigata-u.ac.jp)

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