2026年9月17日 手足口病・呼吸器感染症におけるエンテロウイルス・ライノウイルスの調査
手足口病・呼吸器感染症におけるエンテロウイルス・ライノウイルスの調査
― 2026年5月25日~7月30日に収集した検体の解析結果 ―
今回の調査で分かったこと
新潟大学大学院医歯学総合研究科 国際保健学分野では、感染症予報協会の先生方のご協力を得て、手足口病および呼吸器感染症の患者さんから検出されるエンテロウイルス・ライノウイルスの調査を行っています。
今回は、2026年5月25日から7月30日までに協力医療機関で収集された検体について、ウイルス遺伝子の解析を行いました。
主な結果は以下の通りです。
- 手足口病31例から検体を収集し、29例でエンテロウイルス/ライノウイルスの遺伝子が検出されました。遺伝子型を判定できた24例のうち、22例(91.7%)がコクサッキーウイルスA6(CV-A6)でした。
- 風邪様症状があり、SpotFireでライノウイルス/エンテロウイルス陽性となった9例では、9例すべてでPCRが陽性となりました。遺伝子型を判定できた7例は、すべてヒトライノウイルスでした。
- 今回の検体からは、重症手足口病との関連が知られるエンテロウイルスA71(EV-A71)および、呼吸器感染症に加えて急性弛緩性脊髄炎との関連が知られるエンテロウイルスD68(EV-D68)は検出されませんでした。
背景と目的
手足口病(Hand, Foot and Mouth Disease:HFMD)は、主に乳幼児にみられるウイルス感染症で、口の中や手のひら、足の裏などに発疹や水疱がみられます。多くの場合は軽症で、自然に回復します。
手足口病の主な原因ウイルスには、コクサッキーウイルスA6(CV-A6)、A10(CV-A10)、A16(CV-A16)、エンテロウイルスA71(EV-A71)などがあります。これらはいずれもエンテロウイルス属のウイルスです。
多くの手足口病は軽症ですが、一部では髄膜炎や脳炎などの神経系合併症を伴うことがあります。特にEV-A71は、重症手足口病との関連が知られているウイルスであり、海外では重症例や死亡例を伴う流行も報告されています。
一方、同じエンテロウイルス属に含まれるエンテロウイルスD68(EV-D68)は、主に咳、鼻汁、発熱、喘鳴などの呼吸器症状を起こします。多くは一般的な呼吸器感染症として経過しますが、まれに、四肢の筋力低下などを特徴とする急性弛緩性脊髄炎(acute flaccid myelitis:AFM)との関連が報告されています。
EV-D68感染症の軽症例は一般的な風邪と区別することが難しいため、臨床症状だけからその流行状況を把握することは困難です。
そこで当教室では、手足口病患者と呼吸器感染症患者から検出されるエンテロウイルスおよびライノウイルスの種類を明らかにし、重症化に関連するウイルスを含め、その流行動向を継続的に把握することを目的として調査を開始しました。
調査方法
今回の解析対象は、2026年5月25日から7月30日までに協力医療機関で収集された検体です。
調査への同意をいただいた以下の患者さんから、咽頭ぬぐい液を採取しました。
- 臨床的に手足口病と診断された患者さん
- 風邪様症状を呈し、BioFire® SpotFire®(以下、SpotFire)による検査で「ライノウイルス/エンテロウイルス陽性」となった、手足口病ではない患者さん
採取した検体を新潟大学へ輸送し、エンテロウイルスとライノウイルスに共通するVP4/VP2遺伝子領域(約470塩基)をRT-PCR法で増幅しました。
さらに、増幅されたウイルス遺伝子の塩基配列を解析し、エンテロウイルスかライノウイルスかを判定するとともに、その遺伝子型を調べました。
なぜSpotFireではエンテロウイルスとライノウイルスを区別できないのでしょうか?
ライノウイルスとエンテロウイルスはいずれもピコルナウイルス科エンテロウイルス属に分類される、遺伝学的に近縁なウイルスです。
SpotFireでは両者を個別には判定せず、「Human rhinovirus/enterovirus(ライノウイルス/エンテロウイルス)」としてまとめて報告されます。
そのため本調査では、SpotFireで陽性となった検体について、さらにウイルス遺伝子の塩基配列を解析することにより、ライノウイルスなのかエンテロウイルスなのか、さらにどの遺伝子型なのかを調べています。
結果
1.手足口病患者から採取した検体
検体収集期間:2026年5月25日~7月30日
| 解析項目 | 結果 |
| 検体数 | 31 |
| VP4/VP2 RT-PCR陽性 | 29 |
| 遺伝子型を判定できた検体 | 24 |
| コクサッキーウイルスA6(CV-A6) | 22 |
| ヒトライノウイルスC4 | 1 |
| ヒトライノウイルスA19 | 1 |
| 型別不能 | 5 |
手足口病患者31例のうち、29例でエンテロウイルス/ライノウイルスの遺伝子が検出されました。
このうち24例で遺伝子型を判定することができ、22例(24例中91.7%)がコクサッキーウイルスA6(CV-A6)でした。
残る2例からは、ヒトライノウイルスC4とヒトライノウイルスA19がそれぞれ1例ずつ検出されました。
2.SpotFireでライノウイルス/エンテロウイルス陽性となった呼吸器感染症患者
検体収集期間:2026年5月25日~7月30日
風邪様症状を呈し、SpotFireでライノウイルス/エンテロウイルス陽性となった9例について解析しました。
| 解析項目 | 結果 |
| 検体数 | 9 |
| VP4/VP2 RT-PCR陽性 | 9 |
| 遺伝子型を判定できた検体 | 7 |
| ヒトライノウイルスA49 | 3 |
| ヒトライノウイルスA19 | 1 |
| ヒトライノウイルスA7 | 1 |
| ヒトライノウイルスA61 | 1 |
| ヒトライノウイルスA66 | 1 |
| 型別不能 | 2 |
9例すべてでVP4/VP2 RT-PCRが陽性となり、このうち7例で遺伝子型を判定することができました。
検出されたウイルスは、ヒトライノウイルスA49が3例、A7、A19、A61、A66がそれぞれ1例でした。
遺伝子型を判定できた7例は、すべてヒトライノウイルスでした。
今回の呼吸器感染症9例からはエンテロウイルスは検出されず、特に注目していたEV-D68も検出されませんでした。
考察
1.2026年の手足口病ではCV-A6が中心
今回の調査で最も特徴的だったのは、手足口病患者からCV-A6が高い割合で検出されたことです。
遺伝子型を判定できた24例のうち22例(91.7%)がCV-A6であり、2026年5月25日から7月30日までに今回の調査で収集された手足口病例では、CV-A6が中心となっていたと考えられます。
国立健康危機管理研究機構(JIHS)の2026年の病原体検出情報でも、手足口病患者からCV-A6が多く検出されており、今回の結果は全国的な傾向とも概ね一致しています。JIHSも、手足口病から検出されるウイルスの種類は年によって変化することを示しています。
2.海外ではEV-A71による重症手足口病に注意 ― ベトナムの状況
一方、海外に目を向けると、2026年にはベトナムで手足口病患者が大きく増加し、EV-A71に関連した重症例が問題となっています。
ベトナム保健省によると、2026年の最初の約3か月間に全国で25,094例の手足口病が報告され、前年同期の約5倍となりました。このうち約72%がベトナム南部からの報告でした。また、この時点で4例の死亡が報告されています。
その後、4月中旬までの報告では約26,000例、死亡8例となり、患者検体からEV71(EV-A71)の流行が確認されていること、EV71が重症化リスクと関連していることについて、ベトナム保健省が注意を呼びかけています。ホーチミン市など南部では、EV71が検出された重症の小児例も報告されています。
日本とベトナムの間では観光、帰省、仕事などによる人の往来があります。このため、ベトナムを含む海外で流行しているEV-A71などのエンテロウイルスが、旅行者などを介して日本国内へ持ち込まれる可能性も念頭に置いておく必要があります。
特に小児診療の現場では、海外渡航歴や海外からの帰国・入国後に手足口病を発症した症例、神経症状などを伴う重症例について、病原ウイルスの動向に注意することが重要です。
今回、2026年5月25日から7月30日までに本調査で収集した手足口病31例からはEV-A71は検出されませんでした。
また、JIHSの病原体検出情報でも2026年初頭に少数のEV-A71が報告されていますが、この時期は日本で手足口病が流行しておらず、海外からの持ち込みの可能性が否定できません。今回の調査期間は、日本で手足口病が流行している時期で、流行の原因となっている病原体を調べることを目的としていますが、本調査の症例数や対象地域は限られており、今回EV-A71が検出されなかったことだけから、今後国内へEV-A71が持ち込まれる可能性や流行の可能性が低いと判断することはできません。
海外での流行状況と国内の病原体動向をあわせて継続的に監視することが重要と考えています。
3.風邪様症状の患者からは多様なライノウイルスを検出
SpotFireでライノウイルス/エンテロウイルス陽性となった呼吸器感染症患者では、A49、A7、A19、A61、A66と、複数の遺伝子型のヒトライノウイルスが検出されました。
ヒトライノウイルスは、いわゆる「風邪」の主要な原因ウイルスの一つです。非常に多くの遺伝子型が存在するため、一度ライノウイルスに感染しても、異なる型のライノウイルスに繰り返し感染することがあります。
今回の結果からも、同じ時期に複数の異なる遺伝子型のライノウイルスが循環していたことが分かりました。
4.EV-D68についても継続した監視が必要
EV-D68は呼吸器感染症を起こすエンテロウイルスで、多くの場合は通常の風邪様症状として経過します。
一方、まれに急性弛緩性脊髄炎などの神経症状との関連が報告されており、通常の呼吸器感染症患者の中でEV-D68が流行していないかを把握することも、本調査の重要な目的の一つです。
今回、2026年5月25日から7月30日までに、SpotFireでライノウイルス/エンテロウイルス陽性となった呼吸器感染症9例からは、EV-D68は検出されませんでした。
ただし、現時点では対象症例数が9例と少ないため、今後さらに症例を蓄積し、EV-D68を含むエンテロウイルスが呼吸器感染症患者の中でどの程度流行しているのかを継続して調べる必要があります。
まとめと今後の調査
2026年5月25日から7月30日までに協力医療機関で収集した検体を解析した結果、手足口病患者ではCV-A6が主要なウイルスとして検出されました。
一方、SpotFireでライノウイルス/エンテロウイルス陽性となった風邪様症状の患者からは、複数の遺伝子型のヒトライノウイルスが検出されました。
今回の検体からは、重症手足口病との関連が知られるEV-A71や、呼吸器感染症および急性弛緩性脊髄炎との関連が知られるEV-D68は検出されませんでした。
しかし、海外では2026年にベトナムで手足口病が増加し、EV-A71に関連した重症例が報告されています。日本と海外との人の往来が活発な現在、海外で流行しているエンテロウイルスが国内へ持ち込まれる可能性も含めて、病原体の動向を継続的に監視することが重要です。
今後も協力医療機関の先生方とともに、手足口病および呼吸器感染症患者から検体を継続的に収集し、エンテロウイルス・ライノウイルスの種類や流行状況の変化、ならびにEV-A71やEV-D68など重症化との関連が知られるウイルスの出現について調査を継続していきます。
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