2026年9月、早くもインフルエンザが流行ー詳細解説
― 香港・台湾でA(H1N1)pdm09が流行、沖縄でも注意報 ―
2026年9月、例年の「冬のインフルエンザシーズン」を待たずに、東アジア各地でインフルエンザの流行が活発になっています。
特に香港と台湾ではインフルエンザA(H1N1)pdm09(以下、H1N1またはH1と表記)が、現在の流行の中心となっています。一方、日本でも沖縄県で患者数が増加し、9月11日にはインフルエンザ注意報が発令されました。
現在の早い時期からの流行には、一つの原因だけではなく、東アジアでのA(H1N1)pdm09の流行、夏休みの国内外の大きな人の移動、ウイルスの遺伝的・抗原的変化、気象条件、そして夏休み後の学校再開などが重なっている可能性があります。
2026年9月上旬の状況
| 地域 | 最新の状況 |
|---|---|
| 香港 | 第36週(8月30日~9月5日)、A型陽性1,150検体。亜型判定された1,106検体中、H1が942検体(約85%) |
| 台湾 | 第35週に流行閾値を超え、流行期入り。現在のA型のうちH1N1が79.4% |
| 沖縄県 | 第36週(8月31日~9月6日)、定点当たり10.34人となり、注意報基準の10人を超えてインフルエンザ注意報発令 |
香港では、7月頃にはH3N2の割合が高かったものの、8月に入ってH1N1が急速に増加しました。第36週には亜型判定されたA型の約85%がH1となっています。台湾でもA型H1N1が79.4%を占めており、9月上旬には流行期入りが発表されています。
沖縄県でも、第36週のインフルエンザ患者報告数は455人、定点当たり10.34人となり、注意報基準を超えました。南部保健所管内13.17人、八重山保健所管内13.33人など、一部地域ではさらに高い値となっています。
一方、沖縄県では現在の流行ウイルスがH1N1主体であるとまではまだ公表データから確認できませんが、8月末から9月初めという非常に早い時期に注意報レベルまでインフルエンザ患者が増加していることは重要です。
香港衛生防護センター:2026年インフルエンザウイルス検出状況
台湾疾病管制署:2026年9月8日発表
沖縄県:インフルエンザ注意報発令(2026年第36週)
1.香港・台湾、タイでA(H1N1)pdm09が流行
現在注目されるのは、香港と台湾、タイという日本と人の往来が非常に多い地域で、ほぼ同時期にA(H1N1)pdm09が優勢になっていることです。
香港では第32週(8月2~8日)には亜型判定されたA型965検体のうちH1が576検体でしたが、第35週には935検体中760検体、第36週には1,106検体中942検体まで増えています。つまり、夏の間にH3N2優勢からH1N1優勢へと大きく置き換わったことが分かります。
台湾でも9月8日の疾病管制署発表で、A型H1N1が流行ウイルスの79.4%を占めています。9月1~7日の新規インフルエンザ重症例105例のうち97例がH1N1で、流行の中心がH1N1であることが明瞭です。
さらに、タイでも、A型H1N1が7月以降に多数検出されています。
2.夏休みに香港・台湾・沖縄との人の移動が大幅に増加
インフルエンザウイルスは、人の移動とともに地域を越えて運ばれます。
日本政府観光局(JNTO)によると、2026年7月の訪日外客数は344万2,100人で、7月として過去最高でした。特に台湾からは76万3,800人が訪日し、単月として過去最高を記録しました。香港からも27万2,500人が訪日しています。台湾は前年同月比26.4%増、香港は54.8%増でした。JNTO自身も、台湾・香港について「スクールホリデー」や航空座席数の増加などを訪日客増加の要因として挙げています。
沖縄への移動も非常に活発でした。沖縄県によると、2026年7月の入域観光客数は96万3,900人で、7月として過去最高でした。このうち国内客69万3,800人、外国客27万100人で、外国客は前年同月より11.0%増加しています。国内線でも旅行需要に対応した増便・臨時便が設定されていました。
したがって、この夏は、海外から日本へ、また日本国内から沖縄へ、多数の人が移動する条件がそろっていました。これだけで感染経路を証明することはできませんが、ある地域で流行しているウイルスが別の地域へ持ち込まれる機会は増えると考えられます。
日本政府観光局(JNTO):2026年7月 訪日外客数
沖縄県:2026年7月 入域観光客数概況
3.2024/25シーズンからA(H1N1)pdm09のHA遺伝子はさらに変化
もう一つ重要なのが、A(H1N1)pdm09そのものが変化していることです。
2024/25シーズンの北半球ワクチンでは、WHOはH1N1成分としてA/Victoria/4897/2022類似株(鶏卵培養ワクチン)またはA/Wisconsin/67/2022類似株(細胞培養・組換えワクチン)を推奨していました。
ところが、その後A(H1N1)pdm09のHA(ヘマグルチニン)遺伝子はさらに分化し、現在は5a.2a.1クレードから派生したD.3.1およびD.3.1.1が世界的に流行しています。特にD.3.1.1は、西太平洋地域、東南アジア、アフリカなどで優勢となっています。
さらにWHOのヒト血清を用いた解析では、従来のA/Wisconsin/67/2022類似株に対する抗体価と比較して、最近のD.3.1、D.3.1.1ウイルスの一部に対するワクチン接種後抗体価が有意に低下していました。こうしたウイルスの変化を受けて、WHOは2026/27シーズンのH1N1ワクチン株をA/Missouri/11/2025類似株へ変更しています。
これは、2024/25シーズンに感染した人が現在のウイルスに全く免疫を持たないという意味ではありません。しかし、感染から時間が経過することによる免疫の低下に加えて、ウイルス側のHA抗原も変化しているため、「2年前にH1N1pdmにかかったから今回は大丈夫」とは言えません。再感染は十分に起こり得ます。
WHO:2024–2025年北半球インフルエンザワクチン株推奨
WHO:2026–2027年北半球インフルエンザワクチン株推奨
WHO:2026–2027年ワクチン株選定・遺伝子/抗原性解析 詳細報告
4.インフルエンザは「寒く乾燥した冬」だけに流行するとは限らない
日本では長い間、インフルエンザは「寒く乾燥した冬に流行する病気」というイメージが強くありました。しかし、世界的に見ると必ずしもそうではありません。
熱帯・亜熱帯地域では、インフルエンザが雨期に増加する地域があります。世界78地点を解析した研究では、インフルエンザ流行に関連する気象条件には、温帯地域でみられる**「cold-dry(低温・乾燥)」型だけでなく、熱帯・亜熱帯地域にみられる「humid-rainy(高湿度・多雨)」型**が存在することが示されています。
一方、日本の気候自体も変化しています。気象庁によれば、日本の年平均気温は1898~2025年の長期的な傾向として100年当たり1.44℃の割合で上昇しています。また、1時間降水量50mm以上の大雨の発生頻度は、1976~1985年と2015~2024年を比較すると約1.5倍となり、さらに強い大雨ほど増加率が大きくなっています。
したがって、日本でも今後は「冬でなければインフルエンザは流行しない」という前提だけでは流行を説明しにくくなる可能性があります。高温・多湿で降雨の多い夏から初秋でも、ウイルスの持ち込み、人の接触、集団の免疫状態などの条件がそろえば流行が成立することを考えておく必要があります。
ただし、今回の早期流行を地球温暖化だけで説明することはできません。気象条件は、人の移動、ウイルスの変異、集団免疫、学校などでの接触と組み合わさる複数の要因の一つと考えるのが適切です。
気象庁:日本の年平均気温の長期変化
気象庁「日本の気候変動2025」―大雨の変化
Tameriusら:温帯・熱帯におけるインフルエンザ流行と気象条件の研究
5.夏休みの人の移動に続いて学校が再開
8月までの夏休み期間には、国内旅行や海外旅行によって人が広い地域を移動します。一方、9月に入ると学校が再開し、子どもたちが再び教室などで長時間接触するようになります。
2009年のA(H1N1)pdm09流行時に英国で行われた研究では、学童の接触人数は学校休暇中に学期中より約40%減少し、それに伴ってインフルエンザの再生産数も約35%低下したと推定されています。そして学校再開後には接触が増え、流行が再び拡大しました。
このことから考えると、2026年の日本では、
夏休み中の大規模な国内外の人の移動 → 各地域へのウイルスの持ち込み → 9月の学校再開による子ども同士の接触増加 → 家庭・地域への感染拡大
という流れが起こりやすい時期に入ったと考えられます。
もちろん、この研究だけで今年の日本の流行を直接説明できるわけではありませんが、「夏休みにウイルスが広い地域へ運ばれ、学校再開後に地域内で増幅される」ことは、インフルエンザの疫学からみて十分に考えられるメカニズムです。
Eamesら:学校休暇・接触行動と2009年H1N1流行の研究
今回の早期流行をどう考えるか
2026年9月のインフルエンザ流行は、一つの原因によって説明するよりも、複数の条件が同じ時期に重なった結果と考えるのが妥当です。
香港・台湾ですでにA(H1N1)pdm09が活発に流行していること、夏休みに日本との国際往来や沖縄を含む国内旅行が非常に多かったこと、2024/25シーズンからH1N1のHA遺伝子と抗原性が変化してきたこと、夏から初秋でもインフルエンザ流行が成立し得る気象環境があること、そして9月に学校が再開して子ども同士の接触が増えたこと——これらが重なって、例年より早い流行につながっている可能性があります。
特に、2024/25シーズンにA(H1N1)pdm09に感染した人でも、今回は再び感染する可能性があります。さらに、A(H1N1)pdm09は、ウイルス性肺炎を起こしやすいことが知られています。
「一度かかったから大丈夫」「インフルエンザは冬になってから」と考えず、今後の流行状況に注意する必要があります。
(2026年9月12日現在。流行状況は毎週更新されるため、最新情報をご確認ください。)













