教室だより

論文紹介 上部消化管①

     

加納陽介先生の論文が、International Journal of Clinical Oncology誌にacceptされました。
https://link.springer.com/article/10.1007/s10147-024-02496-1

     

今回は、この論文の内容について、加納先生に解説いただきました。

     

要旨

胃癌の腹水洗浄細胞診陽性症例に対して化学療法先行治療の有効性を見出すことを目的とした多施設共同研究.
結果として非4型胃癌では,手術先行治療に対する化学療法先行治療の有効性が示された

背景

Stage IV胃癌の標準治療は化学療法であるが,腹水洗浄細胞診陽性のみ(CY1)の場合は手術先行治療(Initial-S)が許容されている.この理由としては化学療法先行治療(Initial-C)がInitial-Sに比べて良好な治療成績がえられるという報告がほとんどなく,本邦で行われた後方視的多施設共同研究においてもInitial-CのInitial-Sに対する優位性は示されなかった.

4型胃癌は他の肉眼型に比べ,生物学的悪性度が高く,抗癌剤治療の効果も乏しいとされている.また,CY1症例では4型胃癌の割合が多いため,4型の成績がCY1症例全体の結果に強く影響している可能性がある.
以上のことから,CY1胃癌症例において4型と非4型にわけて比較することで新たな知見が得られると考えられるため,本研究では,胃癌の肉眼型に着目し,CY1胃癌の治療成績について解析した.

患者・方法

対象は2007年1月から2018年12月まで新潟県内の4施設でCY1胃癌に対して,Iniital-CまたはInitial-Sを施行された189例.これらの症例を4型(48例)と非4型(141例)にわけ,それぞれのグループにおいてIniital-Cの予後への影響について検討した.

結果

4型胃癌においてIniital-Cの5年生存率(OS)は11.6%,Initial-Sの5年OSは7.7%であり,多変量解析ではIniital-Cは予後良好因子とはならなかった.
一方で,非4型胃癌においてはIniital-Cの5年OSは48.4%,Initial-Sの5年OSは29.0%であり,多変量解析でIniital-Cは予後良好因子であった(ハザード比, 0.591; 95% confidence interval, 0.375–0.933: P=0.023).

結論

Iniital-Cは,非4型胃癌において予後を改善する可能性がある.
4型胃癌ではより効果的な化学療法レジメンや革新的な治療戦略が必要である.

     

これまでの本邦の大規模臨床試験においても,「大型3型・4型胃癌」というキーワードで,予後不良な集団が表現されることが多かったですが,大型3型と4型を一括りにすることに一石を投じた論文だと思います.

新潟県内の多機関のハイボリュームセンターの臨床データをまとめて,世界に発信した素晴らしい研究であると思います.

この研究結果を踏まえて,CY1胃癌に対する当科の現在の治療戦略として,非4型では化学療法先行治療を原則としております.
4型では,CYが陰性化し,Conversion手術によるR0切除に持ち込める症例・タイミングを逃さないよう化学療法を行なっております.
今後はそのエビデンスを蓄積し,発信していきたいと思います.

最後になりますが,加納先生をはじめ,共同研究に携わっていただいた先生方におかれましては,誠におめでとうございました.

文責:宗岡悠介