肝胆膵チーム

肝胆膵チームは、肝臓・胆道・膵臓・脾臓・門脈に関する外科診療と研究を行っています。悪性疾患の治療から良性疾患の治療、膵・肝移植まで幅広い領域を担当し、患者様の治療成績向上に努めています。ここでは、当チームの過去・現在・未来について述べることでその紹介に替えさせていただきます。

従来の成果および現況

新潟県は世界的にも胆道癌の好発地域であり、1980年代初頭から精力的にその診療・研究に取り組んできました。胆道癌には、胆嚢癌、胆管癌、十二指腸乳頭部癌があります。

胆嚢癌に関しては、初期の研究において、深達度が固有筋層(mp)までの癌は早期癌であること、早期癌には表面型が多いこと、深達度判定が術式を決定する際に重要であること等を示しました。次いで、胆嚢癌根治手術の際の至適リンパ節郭清範囲、適正な肝切除範囲を報告しました。当科で考案された拡大胆嚢摘出術(Glenn手術変法)はT2および一部のT3胆嚢癌でリンパ節転移が2個までの症例に有効であること、拡大肝右葉切除や膵頭十二指腸切除などの拡大根治手術は一部のStage IV症例において長期生存を可能とすることを示しました。良性疾患に対する胆嚢摘出後に偶然発見された潜在性胆嚢癌に対する二期的根治術の有用性も示しました。これらの結果、当科の胆嚢癌治療成績は格段に向上し、世界でもトップクラスとなりました。特に、至適な範囲のリンパ節郭清を徹底・確実に行うことにより、予後不良とされるリンパ節転移陽性例においても長期生存者を継続して輩出しております。以上の成果は国際的にも評価されています。

肝門部領域胆管癌においても、手術法を改良・定型化し、癌の遺残のない手術を追及することで手術成績が格段に向上しました。また、肝門部領域胆管癌における術前の胆汁中の細菌と手術部位感染との関連、術前胆管炎と在院死亡の関連を明らかにし、短期成績向上や手術部位感染を減らすための対策を示しました。最近では、肝門部領域胆管癌の根治手術の際の至適リンパ節郭清範囲を報告しました。十二指腸乳頭部癌に対しても、適切な術式選択、リンパ節郭清の有用性、至適なリンパ節郭清範囲を提案・報告し、その成果を臨床応用することにより手術成績は向上しました。最近では、非乳頭部の原発性十二指腸癌における術式選択や至適なリンパ節郭清範囲を提案・報告し、臨床応用しております。

これらの成果により胆道癌の治療成績は改善してきましたが、進行胆道癌の成績は未だ十分ではありません。近年では、進行胆道癌症例に対して術前化学療法を導入し、更なる治療成績の向上を目指しております。形成外科にご協力を頂き、肝門部領域胆管癌では肝動脈再建を伴う根治切除にも取り組んでおります。また、近年では、再発胆道癌症例に対しても、手術、化学療法を含む集学的治療を積極的に行うことで生存期間の延長を目指すとともに、非切除例に対してもconversion surgeryを狙って集学的治療を行っております。

肝臓癌には原発性と続発性(肝転移)とがあります。原発性肝癌では門脈内の転移が再発の主要因ですが、門脈内の癌細胞除去を目的とした系統的肝切除を多用することにより手術成績を飛躍的に向上させました。肝癌発生の原因である肝炎ウイルスと切除後再発との関連も示しました。大腸癌肝転移に関しては、門脈血流が転移巣の局在に及ぼす影響を示し、CT上の腫瘍形態についても検討しました。免疫組織化学法により検出される肝内微小転移巣は切除後肝内再発の良い指標であることも報告しました。肝切除術の有効性、再発に対する再切除術の有用性、肝・肺転移に対する切除の適応についても報告しました。近年の進歩の著しい抗癌剤や分子標的薬による治療と積極的な肝切除を組み合わせることで、肝切除後の5年生存率は、従来40%程度であったのが、今では70%を超えるようになってきております。原発性肝癌や大腸癌肝転移に対する手術では、腹腔鏡を用いた低侵襲手術を積極的に取り入れ、患者さんのすみやかな社会復帰を実現しております。

膵臓癌は極めて予後不良であり、根治切除後の再発も多い疾患です。初期の研究では、大動脈周囲リンパ節郭清を伴う積極的手術治療や、FOLFIRINOX療法やnab-PTX+GEM併用療法が承認される以前では、肝再発予防のための抗癌剤の肝動注+門脈内投与を実施しておりました。いずれも良好な成績を示しましたが、十分とは言えませんでした。現在、当科では手術治療だけでなく化学療法や放射線療法を含めた集学的治療を行っております。当科では、切除可能膵がん患者に対する術前化学療法としてのゲムシタビン+S-1併用療法の有効性、安全性を比較検証したPrep-02/JSAP-05試験に参加し、術前化学療法という標準治療の確立に貢献しました。切除可能膵癌では、積極的な術前化学療法、切除可能境界膵癌では、術前化学療法または術前化学放射線療法を行い切除率の向上に努めております。さらに、再発症例に関しても化学療法および手術を含めた集学的治療を行い、大動脈周囲リンパ節転移症例や局所進行切除不能症例においても5年生存を得るなど、良好な成績を報告しました。また、膵頭部癌に対する膵頭十二指腸切除術においてSMA first approach(Left posterior approach)を確立し、良好な手術成績を報告しました。膵体尾部癌においては、症例に応じて腹腔鏡下膵体尾部切除術を導入しております。

以上、悪性腫瘍を中心に述べてきましたが、当チームには胆石症、膵炎、門脈圧亢進症など良性疾患の外科治療に関しても診療、研究の長い伝統があり、有効で、かつ、患者様に優しい外科治療の提供を行っております。また、胆石症や脾疾患に対する内視鏡下手術は、侵襲の少ない外科治療法として定着しつつありますが、適応疾患の拡大と新しい手技の開発を目的に診療を実践しています。さらには、膵移植を2016年から再開し、年2例ずつ実施して軌道に乗りつつあります。また、一旦中断しておりました肝移植も再開の準備が整いました。

今後の展望

引き続き、肝・胆・膵領域悪性腫瘍の外科腫瘍学(surgical oncology)的研究を継続し、胆嚢癌において提唱した如くの外科治療戦略を胆嚢癌以外の悪性腫瘍(胆管癌、乳頭部癌、原発性肝癌、転移性肝癌、胆管細胞癌、膵臓癌等)各々において確立していく予定です。私共は、従来の「画一的手術」から「癌の個性に応じた手術」への転換の必要性を痛感しています。すなわち、早期癌には縮小手術、進行癌にはステージ(癌の進展度)に応じた過不足のない切除、高度進行癌には化学療法・放射線療法を含めた集学的治療というようなオーダーメイド治療への道を模索したいと考えています。そのゴールは治療成績向上であり、悩める患者様のために総力を挙げてこのゴールを目指し続ける所存です。

臨床・研究の抱負

臨床医学の一分野である外科学の研究は臨床から遊離してはなりません。"患者様の利益を第一に"をモットーとして臨床に励み、治療成績向上を目指すことからすべてがスタートします。その過程において生ずる諸問題を、時には基礎医学の力も借りながら一つ一つ解決していくのが外科学研究本来の姿であると考えます。すなわち、臨床・研究が渾然一体となり発展すべきであります。

当チームでは、各構成員がライバルとして競い合いながらレベル向上を目指しています。得られた研究成果を発表することも重要です。新潟発の情報を全世界に発信していきたいと願っています。

グループ症例検討会のご案内

毎週金曜日、午後4時30分から新潟大学医歯学総合病院・西8階カンファレンス室にて、肝胆膵疾患の画像診断と治療方針の決定を行っています。

受診を希望される患者の皆様へ

消化器外科の外来診察日は月、水、金であり、いずれの日に受診していただいても結構です。受付は午前11時までです。当院は特定機能病院であり、紹介状を持参していただく方が検査の重複を避け治療を早く開始するためには望ましいと思われますので、かかりつけ医より以下にご連絡いただけるようご手配ください。

〒951-8520 新潟市中央区旭町通1番町754番地 新潟大学医歯学総合病院
患者総合サポートセンター 予約センターFAX:025-227-0984 / TEL:025-227-0374

セカンドオピニオンを希望される患者様も歓迎いたします。

関連施設の先生方へ

診療に難渋する肝・胆・膵疾患症例がありましたらご相談ください。症例のご紹介も歓迎いたします。上記の患者サポートセンター宛てに電話またはFAXでご予約いただくか、外来担当医に直接お電話またはメールでご相談いただければ幸いです。

医学生、研修医の皆様へ

肝胆膵外科は外科の中でも歴史が浅く、未知の領域も多い発展途上の分野です。その成長には若い君達の情熱(エネルギー)が必要です。外科医を志す医学生、研修医の皆さん、肝胆膵外科は面白い分野です!私共と一緒にその発展に貢献してみませんか?

施設認定

  • 日本肝胆膵外科学会高度技能専門医制度 認定修練施設(A)
  • 日本肝臓学会 認定施設
  • 日本胆道学会認定指導医制度 指導施設
  • 日本膵臓学会認定指導医制度 指導施設

文責:肝胆膵チームチーフ 坂田 純