上部消化管チーム

上部消化管チームは市川寛助教を筆頭に、3名のスタッフと12名の医局員で構成されております。主に食道・胃領域の悪性疾患、良性疾患を担当しております。

食道癌、胃癌の診療は手術が中心ですが、内視鏡治療、薬物療法、放射線療法も重要な治療手段であり、キャンサーボードを中心に消化器内科医、腫瘍内科医、放射線治療医と詳細な症例検討を行っております。大学病院という特性上、高度進行癌や重篤な併存疾患を有する患者さんの診療を積極的に行っております。以下に当グループで治療する代表的な疾患の概略をお示しします。

食道癌

当チームでは常勤の食道科認定医・食道外科専門医および内視鏡外科技術認定医による安全で根治性の高い食道癌治療を提供しております。

食道癌に対する手術療法では、リンパ節郭清とともに胸腹部食道を全摘することが必要です。そのため、頸部・胸部・腹部といった複数の領域に手術操作が及び、消化器癌の外科治療の中でも侵襲が大きく、難易度の高い治療となります。これまで胸部食道癌では右開胸食道切除・3領域リンパ節郭清が標準術式とされてきましたが。2011年からは比較的早期の患者さんに対して腹臥位による胸腔鏡下食道切除術を導入し、患者さんの体への負担を軽減する取り組みを行なってきました。現在では進行した病状の患者さんにも適応を拡大し、全ての患者さんに対して低侵襲かつ根治的な治療を実施しております。さらに、2022年6月からは「ロボット支援下食道切除術」も保険診療として実施しております。頸部食道癌は下咽頭との境界領域であり、耳鼻咽喉・頭頚部外科と連携して治療を行っております。このため下咽頭癌に対する咽頭喉頭摘出術の消化管再建も当グループで担当しております。

また、進行癌では術前補助化学療法の併用を標準治療としているため、化学療法も当科で担当しております。隣接した臓器への浸潤が疑われるような高度局所進行癌に対しては導入化学療法を行うことで根治切除を目指すあきらめない治療を行なっています。また、化学放射線療法後の遺残・再発に対するサルベージ手術も積極的に行っております。化学放射線療法を行う際には、化学療法や栄養状態などの全身管理を当科で担当しています。

このように食道癌治療においては様々な治療手段を組み合わせた集学的治療が重要であり、当チームはその中心的な役割を担っております。食道癌の手術はQOLが大きく損なわれることがあり、根治性とQOLとのバランスを十分に考慮することも食道外科医が担うべき重要な責務と考えております。当院は日本食道外科学会の認定を受けた食道外科専門医を育成するための施設であり、これらの高度な技術を次世代に伝えるための後進への指導も積極的に行っております(https://www.esophagus.jp/public/hospital/hokuriku.html)。

臨床研究としては、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)の参加施設として、以下の臨床試験を行っております(https://jcog.jp/index.html)。

  • 切除不能局所進行胸部食道扁平上皮癌に対する根治的化学放射線療法と導入Docetaxel+CDDP+5-FU 療法後のConversion Surgery を比較するランダム化第III 相試験(JCOG1501)
  • Clinical-T1bN0M0食道癌に対する総線量低減と予防照射の意義を検証するランダム化比較試験(JCOG1904)
  • 臨床病期I-IVA(T4を除く)胸部上中部食道扁平上皮癌に対する予防的鎖骨上リンパ節郭清省略に関するランダム化比較試験(JCOG2013)
  • 食道胃接合部腺癌に対するDOS or FLOTを用いた術前化学療法のランダム化第II/III相試験(JCOG2203)
  • 術前化学療法後に根治手術が行われ病理学的完全奏効とならなかった食道扁平上皮癌における術後無治療/ニボルマブ療法/S-1療法のランダム化比較第III相試験(JCOG2206)

また、術後合併症を予防するためのリハビリテーションや、安全な食道切除後消化管再建の術式開発、術後の嚥下機能や呼吸機能といったQOLを維持するための取り組みをテーマに研究を行っております。さらに、近年では食道癌のリンパ節転移や術前補助化学療法の治療効果に関わるメカニズムの解明や、食道癌の発生や進行に関わる遺伝子異常の解明をテーマとした基礎研究にも着手しております。

胃癌

一般社団法人日本胃癌学会により2023年から施設認定制度が開始されました。当院は認定施設A(施A023-032)に認定され新潟県の胃癌治療の中心を担う施設です(https://www.jgca.jp/facility/shisetsulist_a/)。当科では常勤の内視鏡外科学会技術認定医による安全で根治性の高い手術療法を実施し、消化器内科や腫瘍内科とも連携して質の高い胃癌治療を提供しております。

胃癌の根治治療の中心は手術による胃切除です。しかし、胃切除後は食事摂取量の減少、食事習慣の変化、体重減少を伴うことが知られております。当科では胃癌の根治を目指すとともに、できる限り「胃を温存し胃全摘を回避する」ことを念頭に胃癌の手術療法に取り組んでいます。術前に癌の範囲診断を正確に行い、術中にも胃カメラを併用して癌の部位を確認することで、過不足の無い胃切除範囲を定め、胃の温存に努めております。また、近年では胃の入口(噴門領域)の癌が増加しており、逆流防止機能を有す消化管吻合を行った噴門側胃切除術を導入して、良好な治療成績を上げております。

当チームでは患者さんの身体への負担軽減を目的に2012年から腹腔鏡下胃切除術を導入し、現在では8割以上の患者さんの手術を腹腔鏡下で行っております。2020年8月から「ロボット支援下胃切除術」も開始し、現在は保険診療として実施しております。従来の腹腔鏡下手術では長い鉗子を用いた直線的な動きしかできませんでしたが、ロボット手術では多関節機能をもった鉗子を用いることにより鉗子がヒトの手のように自由に動かすことが可能です。また,手ブレ防止機能や高精細3D画像により、腹腔鏡手術よりも繊細な動作が可能で、合併症を減らすことが期待されています。当科では腹腔鏡下胃切除術に精通した日本内視鏡外科学会が認定する「内視鏡外科技術認定医」がロボット支援下胃切除術を行うことで,安全で質の高い手術を提供できるよう努めております。

一方で病状が高度に進行した患者さんの紹介も多く、手術前後の補助化学療法や、再発に対する治療も積極的に行っております。また、肝不全、腎不全や透析、慢性呼吸不全などの重篤な併存疾患を有する患者さんの治療も、大学病院の責務です。難病指定の膠原病や、精神科病棟への入院を要する精神疾患を有する患者さんなど、医歯学総合病院のリソースを最大限に活用し、一般病院では治療困難な胃癌患者さんに対する治療も行っております。

研究テーマとしては、早期胃癌に対する縮小手術のQOL検討、胃癌術後の栄養評価・骨格筋量変化、高度進行胃癌に対する補助化学療法による予後改善効果の研究や、癌遺伝子解析パネルを用いた遺伝子異常の解明等をテーマとして基礎的な研究にも取り組んでおります。

消化管間葉系腫瘍(GIST:ジスト)

GISTは主に胃や小腸から発生し、粘膜下腫瘍の形態を呈する腫瘍です。病因となる遺伝子が解明され、分子標的治療薬が非常に大きな治療効果を示したため、注目を集めた疾患です。

GISTは年間の発生頻度が100万あたり10-15人と稀な疾患ですが、当チームでは保険診療として承認される以前から分子標的治療を導入して積極的に薬物治療を行ってきた経緯があり、豊富な診療経験があります。特に、転移・再発GISTに対する集学的治療に力を入れており、分子標的治療後の残存腫瘍や耐性腫瘍に対する外科的切除も積極的に検討を行っております。

研究テーマとしては、分子標的治療耐性腫瘍における集学的治療の効果、術前分子標的治療後の手術、分子標的治療薬血中濃度と副作用・効果との関連などがあり、稀少疾患であるため多施設共同研究を中心として研究を行っております。

良性疾患

特発性食道破裂は重篤な縦隔炎をきたし全身状態が急速に悪化する疾患で、当チームで緊急ドレナージ手術を行います。食道憩室や食道アカラシアなどの食道良性疾患に対する手術療法も行っています。胃潰瘍や十二指腸潰瘍による穿孔等、その他の緊急手術も行っております。

文責:上部消化管チームチーフ 市川 寛