教室だより

論文紹介 肝胆膵①

当科 安部 舜先生の論文が、European Journal of Surgical Oncology誌よりpublishされました。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0748798323007606?via%3Dihub

今回は、この論文の内容について、安部先生に解説いただきました。

     

要旨

非乳頭部十二指腸癌(NADAC)に対する至適リンパ節郭清範囲を明らかにすることを目的とした多施設共同研究.
結果として,腫瘍占拠部位によらず,No. 5, 6, 8, 12, 13, 14, 17リンパ節を,
第1部の腫瘍では加えてNo. 3, 4d, 9リンパ節を領域リンパ節として郭清することが妥当であると考えられ,
NADACに対する基本術式は膵頭十二指腸切除術
であると考えられた.

背景と目的

NADACは稀な疾患であり,根治切除の際の至適リンパ節郭清範囲は未だ確立していない.
UICC TNM分類ではNo. 5, 6, 12, 13, 14, 17リンパ節が領域リンパ節と定義されている一方で,AJCC TNM分類ではNo. 8, 12a, 13, 14, 17リンパ節が領域リンパ節と定義されている.
本研究では,NADACに対する至適リンパ節郭清範囲を明らかにすることを目的とした.

方法

対象は1988年11月から2021年6月の間に,新潟大学および6つの関連病院で根治切除術が施行されたNADAC 85例を対象とした.
R2切除例・姑息手術例・遠隔転移陽性例・他臓器進行癌合併例は除外した.
リンパ節郭清が施行されたpT2-pT4 NADAC 63例を対象として,腫瘍占拠部位ごとに各々のリンパ節における転移頻度を算出した..

結果

考察

本研究では,リンパ節郭清の目的の1つはStagingであり,転移頻度が高いリンパ節は郭清もしくはサンプリングすべきであるという観点から至適リンパ節郭清範囲を検討した.

No. 13, 14, 17リンパ節は腫瘍占拠部位によらず16.7-52.3%と高い転移頻度を示し,領域リンパ節として郭清するのが妥当である.一般的に,これらのリンパ節は膵頭十二指腸切除術を行わずに郭清することは困難であり,NADACに対する基本術式は膵頭十二指腸切除術であると考える.

No. 5, 6, 8, 12リンパ節は,第一部を主座とする腫瘍では9.1-50.0%と高い転移頻度を示し,第2部を主座とする腫瘍ではNo. 5リンパ節を除き7.3-17.1%と比較的高い転移頻度を示した.これらのリンパ節は通常膵頭十二指腸切除術で郭清されるリンパ節であり,Stagingの観点から領域リンパ節として郭清することが妥当であると考える.

No. 3, 4d, 9リンパ節は,第一部を主座とする腫瘍において16.7-22.2%と比較的高い転移頻度を示しており,第一部を主座とする腫瘍ではStagingの観点から領域リンパ節として郭清することが妥当であると考える.

結論

NADACにおいて,Stagingの観点から,腫瘍占拠部位によらず,No. 5, 6, 8, 12, 13, 14, 17リンパ節を,
第1部の腫瘍では加えてNo. 3, 4d, 9リンパ節を領域リンパ節とすることが妥当であると考えられ,
NADACに対する基本術式は膵頭十二指腸切除術である.

     

非乳頭部十二指腸癌という稀少疾患に対する,新潟県内の多機関の長期間にわたる臨床データをまとめて,世界に発信した素晴らしい研究であると思います.共同研究に携わっていただいた先生方に感謝申し上げます.

この研究結果を踏まえ,進行十二指腸癌に対する当科の現在の基本術式は,膵頭十二指腸切除術を原則としております.
第1部を主座とする腫瘍においては,No. 3, 4d, 9リンパ節を郭清すべくWhipple手術(PD)を,
第2〜4部を主座とする腫瘍においては亜全胃膵頭十二指腸切除術(SSPPD)を選択しております.

安部先生はこの論文を主論文とし、本年3月に学位を取得されておられます.
この度は大変おめでとうございました.

文責:宗岡悠介