論文紹介 下部消化管①
当科 山井大介先生の論文が、International Journal of Clinical Oncology誌よりpublishされました。
https://link.springer.com/article/10.1007/s10147-023-02391-1
今回は、この論文の内容について、山井先生に解説いただきました。
要旨
下部直腸癌における側方リンパ節領域のリンパ節転移および壁外非連続性癌進展病巣の臨床的意義について検討した研究.
結果として,側方領域転移の病巣個数が,側方領域の壁外非連続性癌進展病巣の有無および側方領域転移の有無よりも,予後層別能に優れていることが明らかとなった.多変量解析でも,側方領域転移の病巣個数が,病理学的腫瘍深達度・直腸間膜内リンパ節転移と共に,独立した予後不良因子であり,壁外非連続性癌進展病巣を含む側方領域転移の病巣個数は,下部直腸癌の予後層別化に有用であると考えられた.
背景と目的
直腸癌においてリンパ節転移(LNM)は予後不良因子である.特に,側方リンパ節(LPLN)転移の存在は下部直腸癌の予後不良因子であることが知られている.また,結腸癌では壁外非連続性癌進展病巣(EX)が予後不良と関連することが示されている.これまでの研究では,結腸癌におけるEX数の増加が予後不良と関連することが示されているが,LPLN領域のEX数の臨床的意義は十分に解明されていない.本研究は,LPLN領域におけるLNMとEXを含む転移病巣数に注目し,EXの臨床的意義を明らかにすることを目的とした.
方法
側方郭清を伴う治癒切除を施行されたcStage II/III下部直腸癌226例を対象とした.
術後病理診断により,リンパ節転移なし(No-LNM),直腸間膜内リンパ節転移あり(Mesorectal LNM),側方領域転移あり(LP-M)に分類した.さらに,LP-M群を側方領域EXの有無および側方領域転移の病巣数(側方領域LNMと側方領域EXの合計)で分類した.それぞれ5年無再発生存率(5y-RFS)および5年全生存率(5y-OS)を求め,赤池情報量基準(AIC)およびHarrell’s concordance index(c-index)を用いて予後予測モデル評価を行った.
結果
対象226例中,No-LNMは88例,Mesorectal LNMは89例,LP-Mは49例であった.LP-M群のうち,15例に側方領域EXを認めた.
予後解析の結果,側方領域病巣数での分類では,No-LNM vs Mesorectal LNM vs LP-M 1-3個 vs LP-M 4個以上の4群間で有意に予後が層別化された(5-RFS, p < 0.001)(図1).

また,側方領域転移の病巣個数での分類(AIC, 758;c-index, 0.668)は,側方領域EXの有無での分類(AIC, 761;c-index, 0.664)およびLP-Mの有無での分類(AIC, 759;c-index, 0.665)と比較して,予後層別化に優れていた(図2).

単変量解析では,病理学的腫瘍深達度(pT因子),直腸間膜内LNM,LP-Mの数がRFSの有意な予後因子であった.
また,腫瘍径,pT因子,直腸間膜内LNM,LP-Mの数がOSの有意な予後因子であった.
多変量解析では,pT因子,直腸間膜内LNM,LP-Mの数がOSとRFSの独立した予後因子であった.
考察
本研究の結果,下部直腸癌における壁外非連続性癌進展病巣を含む側方領域転移の病巣個数は,LP-Mの存在やLP-Mの病理組織学的分類よりも優れたリスク層別化能を有していることが明らかとなった.また,LP-Mの数はRFSとOSの独立した予後因子であることが明らかとなった.これは,LPLN領域のLNMとともにEXの個数をカウントすることで,LPLN領域のEXの臨床的意義が最大になる可能性を示唆している.
結論
EXを含む側方領域転移の病巣個数は,下部直腸癌の予後層別化に有用である.
直腸癌の側方リンパ節領域のリンパ節転移および壁外非連続性癌進展病巣という病理学的所見を詳細に検討し,その臨床的意義を検証した素晴らしい研究であると思います.
現在,直腸癌の病期分類は日本と欧米で異なっており,それに応じて治療戦略も異なっています.
本研究の結果は,今後の国際的な病期分類の統一や予後層別化の精度向上に寄与する可能性があると考えます.
また,これらの知見が個別化医療や治療戦略の策定に活用されることが期待されます.
山井先生はこの論文を主論文とし,年明けに学位審査に臨まれます.
無事,博士号を取得されることを祈念しております.
文責:宗岡悠介