論文紹介 肝胆膵②
当科 三浦 要平先生の論文が、European Journal of Surgical Oncology誌よりpublishされました。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0748798324006668?via%3Dihub
今回は、この論文の内容について、三浦先生に解説いただきました。
要旨
本研究は進行胆嚢癌に対する膵頭十二指腸切除術(Pancreaticoduodenectomy:P D)の適応と限界を明らかにすることを目的とした多施設共同研究である.
57例のP D症例を癌の局所進展様式よって分類し,手術成績を比較検討した.
その結果,膵頭十二指腸領域への癌の進展様式が,臓器・組織進展またはリンパ行性進展のどちらか一方のみであればP Dの適応となり得るが,臓器・組織進展とリンパ行性進展の両方を認める場合は著しく成績が不良であり,P Dの適応は望ましくないと考えられた.
背景と目的
悪性腫瘍診療における薬物療法や放射線治療などの非手術治療の進歩が目覚ましい今日でも,胆嚢癌においては,外科的切除のみが根治を期待しうる唯一の治療法である.当科で開発されたGlenn手術変法(胆嚢摘出術,胆嚢床切除術,領域リンパ節郭清,肝外胆管切除術)に代表される拡大胆嚢摘出術が進行胆嚢癌に対する標準術式とされているが,胆嚢癌の局所進展様式は多様であり,診断時にこの標準術式の切除範囲外にまで癌が及んでいる症例も少なくない.P Dはそのような高度進行症例に対して選択される拡大術式の一つであるが,その手術成績を進展様式別に詳細に検証した報告はこれまでになく,胆嚢癌に対する本術式の適応や限界に関しては一定の見解が得られていない.
進行胆嚢癌に対するP Dの手術成績を進展様式別に評価し,その適応と限界を明らかにすることを本研究の目的とした.
方法
新潟大学及び4つの関連施設で胆嚢癌の根治を目的にP Dが施行された60例中,膵頭十二指腸領域への癌の進展が病理学的に証明された57例を対象とした.
膵頭十二指腸領域への癌の進展様式を,臓器・組織進展,リンパ行性進展,その両方を有する両進展の3群に分類し(図1),それぞれの群の術後成績を比較検討した.

結果
両進展群(n=24)では臓器・組織進展群(n=16),リンパ行性進展群(n=17)と比較して癌遺残の割合が高かった(62.5 vs. 12.5% vs. 5.9%; P<0.001).
全生存率は両進展群(5年生存率 8.3%)が臓器・組織進展群(5年生存率 37.9%; P<0.001)やリンパ行性進展群(5年生存率 29.4%; P=0.011)と比較して不良であった(図2).
また両進展群の遠隔転移のない症例の成績は遠隔転移症例と同等であった(5年生存率 16.7% vs 8.7%;P=0.605).
多変量解析の結果,進展様式(両進展,HR 3.523,P=0.002)は,独立予後因子であった.

5年以上の長期生存例11例のうち,肝外胆管浸潤を有する3例は,いずれも胆嚢管原発腫瘍であった.
胆嚢原発腫瘍では肝外胆管浸潤を有する長期生存例は認められなかった.
11例中,臓器・組織進展単独群は4例で,そのうち3例がpT3(肝臓以外の1か所の臓器浸潤)N0M0の病期であった.リンパ行性進展単独群は5例で,そのうち4例がpT2(漿膜下層までの浸潤)症例であった.両進展群を2例認めたが,いずれの症例も5年以上生存した後に原病死していた.
1年以内の早期死亡例17例のうち,12例(70.6%)が両進展群であった.
考察と結論
膵頭十二指腸領域への癌の進展様式に基づいて分類すると,進行胆嚢癌に対するPD施行例のうち,臓器・組織進展単独群の成績が最も良好であった(5生率 37.9%).この群の長期生存例の大半はpT3N0M0の病期であり,臨床的には,膵頭十二指腸領域の1臓器/組織に直接浸潤した胆嚢底部原発腫瘍(肝浸潤軽度),進展範囲が肝外胆管までに留まる限局した胆嚢管原発腫瘍がこの病期に該当し,このような進展様式を有する腫瘍がPDの最良の適応と考えられた.
また,リンパ行性進展単独群に対するPDも比較的良好な成績であった(5生率 29.4%).この群の17例中5例が長期生存し,この長期生存例のうちの4例がpT2腫瘍であった.原発巣が胆嚢に限局していれば,膵頭周囲リンパ節転移陽性症例に対するPDの実施は許容されると考えられた.
一方,両進展群に対するPDの成績は非常に不良であった(5生率 8.3%).この群では,3分の2の症例で癌が遺残し,遠隔転移がない症例でも遠隔転移症例と成績が同等であった.また1年以内の早期死亡例の7割がこの群であった.臓器・組織進展とリンパ行性進展の両進展様式が疑われる症例に対するPDによる手術先行治療は推奨されないと考えられた.
以上より,進行胆嚢癌において,膵頭十二指腸領域への進展様式が臓器・組織進展またはリンパ行性進展のどちらか一方のみであればPDは腫瘍学的に適応となり得るが,両方の進展様式を有する症例に対するPDの適応は望ましくないと結論づけた.
近年では,高度進行胆道癌に対するupfront surgeryは安全性や腫瘍学的有効性の観点から回避される傾向にあります.
その代わりとして集学的治療,特に術前化学療法が注目されており,当科でも高度進行胆道癌に対して積極的に導入しています.
本研究における両進展群のような予後不良例も,集学的治療戦略による治療成績の改善が期待されます.
進行胆嚢癌は稀少な疾患ですが,35年という非常に長い対象期間に新潟県内の多機関で,PDによる手術治療が行われた貴重な臨床データをまとめて,世界に発信した素晴らしい研究であると思います.
三浦要平先生は,こちらの論文を主論文として,先日学位審査に臨まれました.大変お疲れ様でした.
文責: 宗岡