教室だより

論文紹介 乳腺外科① 

Clinical Utility of Targeted Next-Generation Sequencing for Determining Human Epidermal Growth Factor Receptor 2 Status and Optimizing Targeted Therapy in Breast Cancer

当科乳腺班の原 佳実先生の大学院論文がWorld journal of Oncology (https://doi.org/10.14740/wjon2583)に掲載されました。 World journal of OncologyはRoswell Park Comprehensive Cancer Centerの高部和明先生がEditor-in-Cheifをされており、Web of Science (ESCI) Impact Factor 2.2 (2024)の雑誌です。今回、Targeted next-generation sequencing (NGS) technologiesを用いたHER2 IHC評価の検討および41症例における乳癌再発治療戦略を検討しました。

背景
 乳癌の治療方針は腫瘍の性質や進行度により大きく異なり、特に切除不能進行乳癌では治療戦略が複雑化している。最適な治療選択には複数のバイオマーカー評価が必要であり、より簡便な手法の確立が望まれている。HER2/ERBB2は乳癌における主要な遺伝子の一つで、その増幅や蛋白過剰発現は予後不良と関連する。診断には免疫組織化学(IHC)法およびfluorescence in situ hybridization(FISH)法が用いられ、抗HER2療法の選択に必須である。近年はHER2以外にも標的となり得る遺伝子変異が同定され、新規分子標的薬が承認されつつある。本研究ではTargeted next-generation sequencing(NGS)を用いて、①ERBB2コピー数変異(CNA)とIHC法でのHER2発現の相関、②遺伝子変異解析を基盤とした最適治療法の選択、について検討した。

対象
2016~2020年に新潟大学医歯学総合病院で乳癌手術を受けた41例。

方法
手術標本から採取した腫瘍組織を対象に、IHC法でHER2(clone 4B5, Ventana Roche diagnosis)を評価した。IHCスコア2+の症例についてはFISH法でERBB2増幅を判定した。さらに、NGS(CANCERPLEX, KEW inc)によりERBB2 CNAおよび分子標的薬関連遺伝子変異を解析した。

結果
IHCスコアとERBB2 CNAとの間に有意な相関を認めたが、スコア0と1+の間には有意差を認めなかった。治療方針の観点では、15例でT-DXd、7例で他の分子標的薬の適応が示唆された。

考察
ERBB2 CNA >1をカットオフとすることでIHCスコア1+以上を識別できる可能性がある。しかし、スコア1+の一部症例はCNA ≤1であり、NGSのみでIHCスコア0と1+を区別することは困難であった。HER2低発現例ではIHCでのheterogeneityが頻繁に認められるとの報告があり、これがCNAとIHCの不一致の一因と考えられる。一方でNGSは複数の分子標的薬の適応となる遺伝子変異を同時に検出可能であり、治療選択に有用である。進行乳癌における治療最適化のため、さらなる研究が必要である。

また41症例の治療戦略の検討では、単施設での限られた数の検討ですが、個々の症例においても様々な治療戦略があることが明らかにされました。

ご指導頂きました若井俊文教授、市川 寛助教、その他共著の先生方、誠にありがとうございました。(文責:諸)