ヨーロッパ留学記①:イタリア・パドバ大学、オランダ・Amsterdam UMC
【ヨーロッパ留学記①:留学まで】
2026年6月12日から7月12日の1か月間、ロボット支援膵切除の技術および若手教育システムの修得と、国際多施設共同研究の打ち合わせを目的として、ヨーロッパの2か国・2施設(イタリア・パドバ大学、オランダ・アムステルダム大学医療センター(Amsterdam UMC))に留学させていただきました。この貴重な機会をいただいた若井俊文教授、坂田純先生、滝沢一泰先生はじめ、肝胆膵グループ、医局、秘書の皆様に感謝申し上げます。
今回の留学には、研究面と臨床面の二つの目的がありました。まず、研究面の背景からご説明します。2025年、新潟大学および新潟県内6施設による、IPMN関連膵癌の多機関共同研究を立案いたしました。私が2023年3月まで2年間、癌研有明病院のレジデントとして在籍したご縁から、肝胆膵外科部長 髙橋祐先生・井上陽介先生(現・帝京大学教授)・大庭篤志先生(現・コロラド大学スタッフ)のご厚意で、癌研有明病院にもご参加いただき、「新潟―癌研プロジェクト」として開始しました。また、2025年から、癌研時代の後輩である前川彩先生(東京科学大学)がイタリア・パドバ大学の膵臓外科Giovanni Marchegiani(ジョバンニ・マルケジャーニ)教授のもとにご留学されていました。そこで、前川先生を通じて、Giovanni教授に本研究へのご協力をお願いしました。Giovanni教授は、IPMN研究の世界的権威であり、ヨーロッパ・アフリカ肝胆膵外科学会(E-AHPBA)の理事や研究部門責任者、British Journal of Surgery Open誌の肝胆膵外科部門のsection chiefを務める、次世代のヨーロッパを牽引する外科医です。Giovanni教授からは、「世界各国のhigh-volume centersに参加を呼びかけ、日本・新潟発の国際多機関共同研究にすべきだ」、と助言をいただきました。その後、国際多機関共同研究のご経験豊富なGiovanni教授のご指導のもと、研究プロトコール作成や欧米各国の倫理申請に必要な書類を作成し、世界各国のhigh-volume centersへ参加を呼びかけた結果、10か国20施設以上から参加する巨大プロジェクトへと発展しました。今回パドバ大学を訪問した目的は、この研究について打ち合わせを行うことでした。
臨床面では、ロボット支援膵切除の技術および若手教育システムを学びたいという強い希望がありました。ロボット支援膵頭十二指腸切除(以下、ロボットPD)は、精緻な手術操作が可能である一方、技術的難易度が非常に高い手術になります。若井教授、坂田先生、滝沢先生のご厚意により、癌研有明病院の井上陽介先生のご指導のもと、2025年から新潟大学でロボットPDを導入し、ありがたいことに術者を担当させていただいております。井上陽介先生のご指導により、ロボットPDは安全に遂行できておりますが、さらに見識を深めるため、海外の手術も見学したいと考えておりました。Amsterdam UMCのMarc Besselink教授は、国際共同研究と低侵襲膵手術を世界的に牽引する膵臓外科医で、2030年には国際肝胆膵外科学会(IHPBA)の会長をされる方です。1日に2件のロボットPDを施行される体制を構築しており、その手術環境・手術手順・教育方法を直接学びたいと考えておりました。
また、ロボットPDには、手術技術だけでなく若手教育の問題があります。肝胆膵外科は、腹部外科の中でも手術難易度が高く、「肝胆膵高度技能専門医」を取得するまでにも長い期間を要します。さらにその先にある、ロボットPDを安全に行える外科医を育成することは、容易ではありません。ロボットPDの対象は、やせ型・血管合併切除が不要・良性または低悪性度腫瘍など、いわゆる「手術しやすい」症例に偏る傾向があります。その結果、従来は若手外科医の修練に適していた症例を、上級医がロボット手術で担当する機会が増え、若手の手術経験が減少する可能性があります。Amsterdam UMCでは、ロボット支援膵切除術に関する体系的な教育システムを確立し、その成果をAnnals of Surgery誌などで報告しています。この教育システムを直接学ぶことも、今回の留学の重要な目的でした。
若井教授に短期留学についてご相談させていただいたところ、留学費用を助成金で工面できれば、ご許可いただけることになりました。そこで、公益財団法人 オリンパス医学振興財団(旧:内視鏡医学研究振興財団)の「内視鏡医学研究医海外短期留学助成」に応募し、ご採択いただきました。同財団は、1982年(偶然ですが私の生まれ年になります)に田坂定孝先生によって設立され、これまで19億円もの医学研究助成を行ってきた歴史ある財団です。お分かりになる先生もいらっしゃるかと思いますが、田坂定孝先生は、新潟大学第一内科第四代教授で、のちに東京大学教授に就任された先生です。2026年3月には、東京駅近くの東京會館で開催された授与式に出席し、東京大学肝胆膵・人工臓器外科准教授の高本健史先生をはじめ、多くの高名な先生方とご一緒させていただきました。実は、助成金の申請時点でBesselink教授から留学の承諾を得られておりませんでした。Besselink教授は非常に多忙で、面識のない先生がご連絡しても、お返事をいただくことは難しいと伺っていました。Besselink教授のもとには、常に30人ほどの大学院生がおりますが、そのおひとりであるThomas Stoop先生は、癌研時代のメンターである大庭篤志先生とColoradoご留学中から親交があり、そのご縁からThomas先生と私が直接連絡を取るようになりました。Thomas先生からBesselink教授にご相談していただいた結果、偶然にも2026年6月中旬から約1か月間の受け入れ枠が空いており、薄氷の留学が実現しました。ただ、助成金でまかなえる費用には限りがあり、若井教授のご厚意で、現地での宿泊費をご支援いただきました。改めて深く感謝申し上げます。
(文責:助教 廣瀬雄己)


