教室だより

ヨーロッパ留学記③:イタリア・パドバ大学、オランダ・Amsterdam UMC

【ヨーロッパ留学記③:オランダ・Amsterdam UMC篇】

 6月17日にオランダへ移動し、6月18日から7月10日まで、Amsterdam UMCで研修しました。この時期、ヨーロッパ全体を熱波が襲い、フランスでは40℃を超える地域もありました。オランダは比較的涼しい地域ですが、例年であれば夏の最高気温が25℃ほどのところ、35℃まで上昇し、現地でも異常気象として大きく報道され、エアコンを朝から多くの人が買い求めるニュースで賑わっていました。私はホテル住まいでしたので、夜はエアコン生活でしたし、病院内はエアコンが利用できましたので、暑さを感じたのは主に病院への通勤時や土日の外出時でした。滞在期間中はほぼ毎日快晴でしたが、現地の先生によると、夏でも曇りの日が多く、これほど快晴が続くことも異常なのだそうです。また、滞在中はワールドカップの会期中でした。オランダ人には、他のヨーロッパ諸国と同様、熱心なサッカーファンが多く、代表戦の日には街中にオランジェのユニフォーム姿の人々があふれていました。また、巨大なパブリックビューイングが開催されるロッテルダムに向かう電車では、見知らぬ人同士が大声で歌っていました。私がオランダに到着する数日前に日本対オランダ戦が行われ、結果は引き分けでしたので、日本が勝たなくてよかったと思って過ごしていました。

 Amsterdam UMCは、Newsweek誌の病院ランキングでオランダトップ、世界でも30位台に位置する医療機関です。もともとアムステルダムには、アムステルダム大学系のAMCと、アムステルダム自由大学系のVUmcの二つの大学病院がありました。2018年に経営・運営面で両者が統合され、合計1700床のAmsterdam UMCとなりました。現時点では、機能をある程度分担しながら二つの病院拠点で運営されており、肝胆膵外科はVUmcに集約されています。7年後をめどにVUmcの機能をAMCへ集約する方針が私の留学中に決まり、テレビでも大きく報道されていました。

 私は肝胆膵外科での研修でしたので、VUmcで3週間を過ごしました。肝胆膵外科の医局は南館7階にあり、廊下の両側に14~16室ほどの部屋が並び、各部屋に2名ほどのスタッフが配置されていました。私と一緒に留学していたパドバ大学のGiulia先生とボローニャ大学のVincenzo先生は、私と同じ留学生用の部屋に配置されました。毎朝7:30から、肝胆膵外科のスタッフ・レジデント・大学院生・留学生50名ほどが集合し、直近の手術症例について消化管・救急手術部門の医師たちと合同Webカンファレンスに行っておりました。オランダ人は、医療者だけでなく一般の方も英語が堪能で、日常生活や回診、手術中の会話にはほとんど困りませんでした。ただし、朝のカンファレンスと新患のカンファレンスはオランダ語で行われるため、画像所見や会話の雰囲気から内容推測をしていました。朝のカンファレンスが終わると、毎日Besselink教授と留学生3名で回診を行いました。Besselink教授は、平均身長183cmのオランダ人男性の中にいても長身で、190cm以上あると思われます。長身とオールバックの外観とは対照的に、とても明るく、ときに冗談を交えながら回診されていました。経過表、採血、画像結果は携帯端末で確認でき、Besselink教授も携帯を見ながら回診していました。一方、カルテ記載や指示出しは外科医ではなく専門職が担当しており、外科医は電話やメール、直接の会話を通じて依頼していました。

回診後は手術室に移動します。肝胆膵外科の手術枠は、月・火・木曜が2部屋、金曜が1部屋でした。大きな手術は月・火・木曜に行い、胆摘などの小さな手術は金曜にロボットで縦2~3件続けて施行していました。ロボット膵切除を行えるのは月曜とのことで、Besselink教授は限られた手術枠を効率的に使用するため、1日に2件のロボットPDを縦で行うシステムを構築していました。手術の詳細は、別の機会にご紹介したいと思いますが、簡単に説明すると、テーブルサイドの脚間にBesselink教授が座り、外科スタッフまたは外科上級レジデントがロボットを操作します。手術場面ごとに、テーブルサイドとロボット側の役割を定型化して分担することで、手術を効率化しておりました。ロボットの配置・ポート配置も特徴的で、ダブル術者のシステムを効率的に行うために考え抜かれた形になっておりました。肝門部領域胆管癌や肝内胆管癌に対する拡大右葉切除も見学する機会がありました。肝切除は、Geert Kazemier教授、Joris Erdmann先生、Rutger-Jan Swijnenburg先生、Babs Zonderhuis先生を中心に行われていました。肝門部胆管癌手術に関しては、日本、とくに名古屋大学の論文をよく研究されており、基本的な切除コンセプトは日本と共通していました。一方、使用する器具やデバイスの使い方、切除ラインの設定が日本と異なる部分があり、興味深く感じました。とくに片葉切除では、日本のように中肝静脈を根部から露出するのではなく、ある程度の切離ライン設定で肝実質に切り込み、中肝静脈は最終的に露出した根部処理するという方法が印象的でした。

   若手の肝胆膵外科レジデントの教育のため、日本と同様、レジデントができる部分は積極的に任せていました。胆摘、肝部分切除、瘢痕ヘルニア手術などから始め、学年と技術に応じて膵尾部切除、膵頭十二指腸切除、肝解剖学的切除へと段階的に進んでいました。日本との大きな違いは、保険制度により、ロボット支援手術を行える術式や疾患の範囲が異なることです。Amsterdam UMCでは、胆嚢摘出術や横隔膜ヘルニア修復術もロボットで行われていました。そのため、レジデントは比較的難易度の低い胆嚢摘出術からロボット操作を経験し、十分に習熟した後、膵体尾部切除、ロボットPD、肝切除へと進むことができます。一方、日本では、これらの比較的簡単な手術はロボット支援手術として保険収載されておらず、開腹または腹腔鏡で行います。若手外科医が段階的にロボット手術を経験できる点は、オランダの大きな利点だと感じました。また、高難度のロボット手術を担当する前に、必要な知識、手術手順、手術技術を修得するための体系的な教育システムがありました。Amsterdam UMCがIntuitive社と共同開発したアプリには、各術式に必要な知識や手順に関する課題が掲載されています。レジデントは、アプリ上の課題、da Vinciに内蔵されたシミュレーター、ウェットラボでの膵切除や各種吻合を順に修了し、教育担当外科医の承認を得る必要があります。Besselink教授のご厚意により、教育担当のRawin Amiri先生から、実際のアプリを見せていただきました。日本でロボット手術の助手を担当する前に行うWeb上の知識試験に似ていますが、各術式の手順や使用器具まで、より体系的にまとめられていました。このアプリをそのまま日本に導入することは困難ですが、ドライラボやウェットラボなど、日本でも実施可能な方法を体系化し、教育プログラムとして実践したいと考えています。将来的には、その成果を論文として報告することを目標としています。

(文責:助教 廣瀬雄己)

写真1:Amsterdam UMC

写真2:Besselink教授と筆者

写真3:Besselink教授のご自宅にて。中央奥は膵臓の首飾りをしたBesselink教授

写真4:Amsterdamの水路

写真5:Amsterdam UMCオペ室前にて