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新潟大学医学部JA新潟厚生連基金 平成28年度事業実施報告書

新潟大学大学院・消化器一般外科 諸 和樹

はじめに

平成二十八年十月十七日から十一月十三日の四週間、米国BuffaloにあるRoswell Park Cancer Institute(RPCI)乳腺外科髙部和明教授のLabに留学させて頂いた。RPCIは米国で最初に設立されたがんセンターであり、大腸癌のFP療法で有名なRPMIレジメンの他、細胞実験で使用するRPCI培地や前立腺癌の腫瘍マーカーPSAを生み出した世界的にも有名な研究機関でもある。

Ceramide研究

私の研究テーマは「Ceramideの癌細胞における働き」を人間の組織にて解明することである。Ceramideは細胞膜に豊富にある脂質であるが、近年脂質メディエーターとして細胞の生死をコントロールすることが明らかになった。抗癌剤が癌細胞に作用する際、アポトーシスを誘導する物質こそCeramideと言われている。実際の人間の標本を用いた研究はあまり行われておらず、私はCeramideの作用と実際の臨床データを照合させ、Ceramideの働きについて解析した。

最初の一週間は日本で準備したデータから必要な情報を取捨選択してFigure作成を進めた。同じデータでも、何を求めるかによってPositiveデータにもNegativeデータにもなることを身を以て体験した。Ceramide濃度が癌組織で高いことはこれまでの研究で明らかになっていたが、Ceramide合成経路における変化については不明であった。そこで、今回バイオインフォマティシャンとコミュニケーションを図り、mRNAのレベルでの変化をTCGAを用いて調べた。バイオインフォマティシャンは数学者であり、臨床をはじめ研究のことは専門外であり、どういう情報が欲しいか、どういうグラフが欲しいかを英語で的確に伝える必要があり、今回最大の難問であった。周囲の助けもあり、四週間でドラフト作成まで終えることができた。これからの研究はますます他分野の研究者とコミュニケーションを図る機会が増えるだろう。今回そのトレーニングを受ける機会を得ることができ大変勉強になった。

動物実験、細胞実験

出発前に細胞実験と動物実験に加えてもらっていたお陰で、何をしているのか、次に何を行うか予測できた。しかし、まだまだ自分で行うまでには達していないので、帰国後に習得し、大学院卒業までに一通りのことができるようになりたい。

乳腺外科外来、手術の見学

日本と異なり、認定看護師が問診から必要な手続きまで行い、医師が一部屋一部屋を回るシステムであった。医師は医師にしかできないことを時間をかけて行うことができ、素晴らしいシステムに思えた。また、バックアップ体制も整っており、特に乳腺分野においては寄付が充実している模様で、入院グッズからリハビリグッズまで全て寄付によりまかなわれていた。社会全体の関心の高さがうかがえる。日本でも近年ピンクリボン活動が注目されつつあるが、未だ検診率が低い。我々医療人は社会に啓蒙することも仕事であり、RPCIから見習うことがたくさんあると感じた。

手術は乳腺手術初心者のレジデントの執刀であったが、術者が気持ちよく手術ができるように楽しい雰囲気作りがされていた。どうしたら相手が100%の力を出せるか、手術だけでなく、他の場面でも考える必要があると思った。

歴史的瞬間の立ち会い

アメリカ合衆国とキューバとの国交回復に伴い、RPCIが主導でCimaVax(肺癌キューバワクチン)のクリニカルトライアルを行うこととなった。CimaVaxは肺腫瘍の増殖を抑制し、平均4~6ヶ月長く生存させる治療薬である。これまで世界に出回らなかった薬に対する期待は大きく、私が偶然参加することができた記念式典は大盛況であった。そんな式典に立ち会うことができ、人生初のスタンディングオベーションも見ることができ、大変有意義であった。

RPCIの総長であるジョンソン先生と面談する貴重な機会に参加させて頂いた。実はCeramideの大家であるハヌーン先生と知り合いであり、Ceramideに興味を持っていたことがわかり驚いた。ここでCeramideが繋がるとは思わなかった。

+α

最終日に事件が起きた。薬をやっているのではないかと疑われた。数日前にボランティアで採血を受けたが止血が甘く、白衣に血がついたため、クリーニングをお願いしただけであった。日本では特に問題にならないが、英語で状況をうまく伝えられなかったのもあり、薬疑惑となってしまった。「自分で研究室の注射器を使って薬をやっている、我々は証拠がある。血のついた白衣がそれだ」と言われてしまった。最初何を言っているか分からなかった。アメリカと日本の違いを痛感した。

最後に

前回のVCU研修も非常に勉強になったが、今回の1ヶ月は重みが違った。1つ1つのプロセスを自分なりに考え、積み重ねていく経験ができた。更に今回、バイオインフォマティシャンとコミュニケーションを図り、お互い気持ちよく仕事をすることができた。これからの時代は大量のデータを処理し、様々な分野の人達と連携していくことがメインと思われる。その意味で今回の経験は良い土台になったと思う。今回の経験を活かしてステップアップしていきたいと思う。

最後に、今回の留学にあたりお世話になりましたJA厚生連様、留学指導して下さった若井俊文教授、髙部和明教授、永橋昌幸先生ありがとうございました。

スカイプミーティング

英語プレゼンテーション

バイオインフォマティシャン(左:Li Yan氏, 右:Qianya Qi氏)

論文作成でお世話になったEmmanuel Gabriel先生と記念撮影

Takabe Labの皆さん