特色ある活動詳細

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第68回新潟日報文化賞(学術部門)
精神疾患は病態が複雑で難治性のものも多く、長く社会の偏見に晒されてきました。しかし、クロルプロマジンという抗精神病薬の発見を契機として治療技術は進歩し、精神疾患の多くが社会復帰可能なものとなってきました。さらに、より客観的で信頼性の高い精神科診断学への改革は、臨床研究や分子遺伝学研究などが進展する基盤となり、精神疾患の成因や病態の理解に大きな変化をもたらしています。こうした診断学の整備と研究推進という正の循環により、例えば、これまで見過ごされてきた「発達障害」という病態が実に高頻度に存在し、これらはいじめやひきこもりなどとも関連することが明らかになるなど、疾患の認識も大きく変化しています。
こうした変革が加速した1980年代から、染矢教授は国際標準の精神科診断システムをわが国に積極的に導入する努力を続けてきました。診断におけるこの世界共通言語は、わが国の精神医学研究に国際化をもたらし、一方でエビデンスに基づいた診断と治療の標準化を推進し、臨床知見の集積、治療技術の向上を促して、医学教育、診療においても大きな貢献を果たしたといえます。
また、精神疾患の病態解明ならびに生物学的診断と治療法開発を目指して研究を進め、精神疾患の薬理遺伝学、分子遺伝学領域で世界的に活躍し、日本トップクラスの成果を収めてきました。特に薬物療法の分野では、副作用のリスクを抑え効果を最大化するための遺伝子情報や臨床指標を特定し、臨床現場において治療技術の向上をもたらしました。国内外の学会の理事長を務めるなど、その業績は高く評価されています。
近年では、急速に社会的な注目を浴びるようになった「発達障害」に対して、「新潟大学こころの発達医学センター」を2007年に立ち上げ、その病態解明、医学的対応の確立を目指して当該分野の研究と専門医育成を推進しています。
また地域の医療構想における必要性から、医療構造の将来予測に関する考察を行い、2009年に「精神病床の統合失調症入院患者数の将来推計」として発表された結果は、「今後の精神保健医療福祉のあり方」など行政の政策立案に活用されるなど、国ならびに地域社会へ多大な貢献をしています。災害支援においても、中越、中越沖、東日本の3度の震災で「心のケア」活動の中心的役割を務め、県内被災地のケアとそのケアにあたるスタッフをサポートする事業を展開し、学会をはじめ様々な場所で復興に向けての提言を行ってきました。
以上のような精神医学分野の多岐にわたる優れた業績が、受賞事由「精神疾患の病態解明と診断・治療法開発に関する研究」として認められ、今回の賞が授与されることとなりました。今回の賞を受賞して染矢教授は「臨床に関する学術活動でこのような栄誉ある賞をいただくことができ、大変嬉しく思っています。臨床や研究を一緒に進めてきた仲間、協力いただいた患者さんに感謝しています。今後も、臨床医として精神疾患の診断や治療につながる重要な所見を見出していきたいと思います。」と述べています。