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第69回新潟日報文化賞(学術部門)
難聴は、我が国の人口の1割が苦しむ深刻な疾患です。難聴の多くは内耳の障害に依りますが、その治療法はまだ十分に開発されていません。この課題に取り組むには、臨床医学的な点からだけでなく、内耳における「聴こえ」の仕組みを基礎医学の側面から解明し、難聴の成り立ちを理解する必要があります。かつて耳鼻咽喉科医として診療に従事していた際、治すことのできない多数の内耳性難聴の患者さまを前に悔しい思いをしたことを契機として、日比野教授は内耳の基礎研究に精力的に携わってきました。特に近年は、研究に数理学や工学の知見・技術も取り入れて、顕著な業績を挙げています。
内耳には、音の物理的な振動を脳が感知可能な電気信号に変換するための特殊な細胞や組織が存在します。これらは、電気部品・回路になぞらえることができます。その装置を動かすための「生体電池」が内耳には備わっていますが、日比野教授は、繊細な電気生理学的な実験により、この電池がカリウムを活用した2つの特殊な電池から成ることを見出しました。また、内耳の電気現象を電気回路に置き換え、数理学的なシミュレーションにより、電池が障害によると想定されていた難聴(虚血性難聴や遺伝性難聴)の発生する詳細なメカニズムを示しました。最近では、こうした電池を構成する細胞のさらなる電気的特性や、難聴に関連するタンパク質の候補を同定しました。一方、音は内耳の感覚細胞をナノレベルで振動させますが、その動作は生体内で大きく増幅されるので、小さな音まで聴くことができます。この増幅の仕組みを知ることを目指し、日比野教授は、本学工学部と共に、新たな振動イメージング装置を開発するための基礎技術を創りました。以上の研究成果は、難聴の発症機序のより深い理解や、新たな難聴治療薬・人工聴覚器の創出に貢献すると期待されています。このような研究には、工学部をはじめとした様々な学術分野の方々と活発に議論し、協働作業を通じて新たな技術を生み出すとともに、お互いの理解を深め合うことが肝要です。そのために、日比野教授は、科学者のみならず企業の方々や若い学生さんも集える場として、「聴覚よろずの会」など複数の研究会を設立・運営し、異分野連携を進めています。
こうした優れた実績が、受賞事由「内耳の聴覚機能の基礎研究を通して難聴の仕組み解明に前途」として認められることとなりました。受賞を通じて日比野教授は、「教室員と、これまでご支援いただいた方々に、心より感謝いたします。難聴は、加齢に従って患者数が増えていくため、高齢化が進む新潟県のみならず我が国にとっても重大な病気です。この賞を励みに、今後とも、県民・国民の健康と福祉に少しでも貢献するため、難聴の克服を目指して教室員と一丸となり研究にますます打ち込む決意です。」と述べています。