特色ある活動詳細

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第70回新潟日報文化賞(学術部門)
脳は、進化の過程で高度に発達した器官の一つで、ヒトをヒトたらしめる器官であると言えます。竹林教授は、この複雑で精緻な脳神経系が形成される仕組みについて研究を行っています。特に力を入れているのが神経細胞以外の「グリア細胞」の一つであるオリゴデンドロサイトの発生です。オリゴデンドロサイトは、神経細胞の「軸索」という電気信号を伝える突起の周りに「髄鞘(ミエリン)」と呼ばれる絶縁体の働きをする脂質に富む構造をつくるグリア細胞です。竹林教授は、オリゴデンドロサイトの発生に必須のOlig転写因子を同定した研究者の一人です。Oligファミリー転写因子は、Olig1, Olig2, Olig3の3つのファミリーメンバーからなりますが、特にOlig1, Olig2遺伝子がオリゴデンドロサイト系譜に発現しています。竹林教授は、Olig2がオリゴデンドロサイトと脊髄運動ニューロンの発生に必須であることを、Olig2遺伝子を欠失したOlig2ノックアウトマウスの作製により明らかにしました。さらに、胎生期のOlig2陽性細胞が、将来どのような細胞に分化するのか調べるため、細胞系譜追跡実験系を構築し、発生期の脳、成体脳、病態脳など、様々な条件下で調べました。成果の一つとして、成体脳においても、オリゴデンドロサイト前駆細胞から成熟オリゴデンドロサイトへの分化が継続していることを実証したことが挙げられます。最近では、成体脳でのオリゴデンドロサイト新生が、運動学習に関わっていることが判ってきています。さらにOlig2は、脳のがんであるグリオーマの幹細胞に発現し、その増殖を制御していることが明らかとなり、神経発生学分野のみならず、病理学分野、幹細胞生物学分野でも重要な因子として知られるようになってきました。Olig転写因子の機能を明らかにすることにより、運動ニューロン病である筋萎縮性側索硬化症(ALS)や、オリゴデンドロサイトの異常によって発症する多発性硬化症(MS)の再生医療、さらにはグリオーマの治療にも役立てられるのではないかと期待されています。
以上のような業績により、この度、受賞事由「脳内グリア細胞の発生と機能に関する研究」として認められることとなりました。受賞に際して竹林教授は、「これまで一緒に研究してきた仲間、ご支援頂いた方々、そして、教室員に支えられて今回の受賞に至りました。心より感謝申し上げます。今後は、さらに研究を進めて、神経発生や神経難病発症のメカニズムを明らかにすると共に、その成果を神経難病の治療に役立てられるようにしたいと考えております。また,新潟大学には脳研究所があり、早くからグリア細胞の重要性に注目し、研究を続けてこられた先達がおられます。その伝統をさらに発展できるように、若い人に研究の面白さを伝えていきたいと思います。」と述べています。