特色ある活動詳細

放射線医学分野 青山英史特色ある活動一覧に戻る

第71回新潟日報文化賞(学術部門)
がんの3大治療法は手術療法、放射線治療、薬物療法です。このうち放射線治療は体への負担の少なく高齢者でも使用可能であることから、高齢化が進行している新潟県内において、その需要は急速に増加しています。また通常の放射線治療に加え、近年の技術革新によって可能となった高精度の放射線治療を求める声が高まっています。
 
定位放射線治療はがん病巣に対して多方向から放射線を集中して照射することで「がん」が治る可能性を高め、一方で正常組織の障害が起こる可能性を減らす高精度の放射線治療法です。この照射法は従来脳のように動かない臓器に発生した癌に用いられてきました。青山教授は、20年以上前から脳腫瘍に対する定位放射線治療の研究を行い、様々な疾患においてその有効性を明らかにしてきました。特に転移性脳腫瘍については従来の世界標準「全脳照射と定位放射線照射の併用療法」と「定位放射線照射単独治療」を比較した世界初の臨床試験を主任研究者として手掛け、「定位放射線照射単独治療」を世界の標準治療の一つに据えることに貢献してきました。また、すべての患者に同一な治療を行うのではなく、患者個別に最適な治療を選択する「個別化治療」の可能性も示しました。この研究は米国臨床腫瘍学会が選出する2015年の最重要論文の一つに選出されています。
 
また最近になり、同治療法は呼吸性移動がある体幹部臓器のがん(肺がんや肝臓がんなど)の治療へ適応が拡大してきました。ただし動きのない脳腫瘍と同様なミリ単位の精度を保つためには「動体追跡照射法」という特殊な技術を用いる必要があります。2015年6月に魚沼基幹病院が開院し、同地区で初めて放射線治療が可能となりましたが、すべての需要に答えるためには1台の照射装置で通常の放射線治療だけではなく、脳や体幹部の定位放射線治療を可能とする必要がありました。そこで青山教授は,島津製作所との共同研究という形で装置開発を進め、2017年12月に通常の放射線治療と高精度の放射線を本格稼働しました。この研究により放射線治療装置が1台しかない地域でも、最先端の高精度な放射線治療が可能となり、その社会的意義は高く評価されています。
 
青山教授はこのほか、「腫瘍制御」と「治療後の生活の質」を両立させることができる安全な放射線治療の開発に関する研究を継続して推進しています。これについては自身が委員長を務める日本放射線腫瘍学研究機構・脳脊髄腫瘍委員会で複数の臨床研究を手掛け、また、その研究で使用する評価指標には、米国の研究グループと共同で作成したものを使用するなど、常に世界に発信を続けています。これらの臨床研究は、新潟県の放射線治療の臨床研究レベルを国際水準に高めることに貢献してきており、これからの発展もさらに期待されています。
 
こうした優れた実績が、受賞事由「がん治療法としての放射線治療の発展に資する先端研究とその展開」として認められることとなりました。受賞を通じて青山教授は、「教室員と、これまでご支援いただいた方々に、心より感謝いたします。この賞を励みに、県内で最高水準の放射線治療を受けていただけるような体制づくりと研究に、教室員と一丸となり打ち込む決意です。」と述べています。