細菌学

1.研究概要

 細菌、特に抗酸菌を対象とし、生物現象や感染現象の理解と、難病の制圧に資する研究を行う。
 詳しい研究内容については、細菌学ホームページをご覧ください。

2.研究テーマ
  • 細菌の病原性や生命現象、および感染に対する宿主防御機構の理解を目指す基礎研究
  • 創薬・ワクチン開発等、結核・抗酸菌症、およびその他の難病の制御を目指す研究
  • アジア・アフリカなど結核流行地の調査と国際協力
3.研究の成果

[分野] 細菌学分野
[研究テーマ] 抗酸菌分子の基礎的研究と創薬

[内容]
抗酸菌の遅発育性や増殖制御に関わるDNA結合性蛋白質MDP1(A)を同定した。MDP1の発現が増強すると菌は増殖を停止する(B)。このことは、結核菌MDP1の発現を維持/増強させることで、結核の発症を抑止できる可能性を示唆する。
 鉄は殆どの生物に必須の元素であるが、MDP1は鉄を貯蔵したり、鉄の毒性(二価の鉄と過酸化水素の存在でフェントン反応が生じる。その結果、最も障害性の強い酸素ラジカル、ヒドロキシラジカルが発生する)を二価の鉄を酸化することで阻害する活性を併せ持つ。この活性は、休眠結核菌が長期間生きながらえるしくみを一部説明するだろう。
 MDP1は遺伝子の発現を調節するが、支配遺伝子の一つに、カタラーゼ(KatG)があり、その発現抑制により主力結核薬イソニアジド抵抗性を付与する(C)。MDP1は鉄の酸化に過酸化水素を利用し水に分解するが、この活性はカタラーゼと類似するためKatGとMDP1は抗酸菌において相反して発現が調節され、その結果生じる現象であるのだろう。
 1/3の人類に結核菌は潜伏しているが、潜在期においても結核菌はMDP1を産生/含有しており、MDP1の結核菌感染診断や再燃を抑止する結核ワクチンへの応用も期待される。
 これら分子の解析過程で確立した抗酸菌の解析技術をもって、新しい結核・抗酸菌薬の開発にも平行して取り組んでいる。

[写真など]

[分野] 細菌学分野
[研究テーマ] 難病の制御技術の開発

[内容]
 牛型結核菌の弱毒株BCGは、最も多くの人に接種されてきたワクチンで、小児の播種性結核やハンセン病の予防効果や抗がん作用を発揮する。BCGの利点、すなわち生ワクチンで効果が持続することや強いアジュバント活性を発揮するなど、を利用し、抗酸菌遺伝子組み換え技術を駆使して難病の対策に役立てることを目的とする。これまで難病の予防抗原を発現する組み換えBCGを作成し、AIDS、マラリア、癌等などに対して予防や治療に効果を発揮することを示した。
 一方、BCGは、肝心の成人肺結核に対する効果が低いことが次第に明らかとなってきた。日本では、2002年よりBCGの再接種はとりやめとなっている。現在、成人の肺結核はおもに内因性再燃により生じる。一方、例外はあるが、結核菌のすみかは人に限定されており、またこの菌は発症なくして世代を継ぐことができないことから、内因性再燃を含む発症を抑止できれば、結核を制圧することも可能と考える(上図)。それを達成するための新しい手法(ワクチンや薬剤)の開発を試みている(下図)。

Matsumoto S et al, J Exp Med, 1998. Matsumoto S et al, 2000, Vaccine, Yamada H et al, J Urol, 2001, Ami Y et al, J Viol, 2005, Kanekiyo M et al. J Viol, 2005, Matsumoto S et al J Immunol, 2005. Ozeki Y et al Vaccine, 2011.

[写真など]

[分野] 細菌学分野
[研究テーマ] アフリカにおける感染症の調査と国際協力

[内容]
 アフリカケニア共和国において、長崎大学熱帯医学研究所やケニア中央医学研究所との共同研究により、各種ウイルス、細菌、寄生虫感染症の有病率や無症候感染率、さらに戸籍のない地域における人口動態、気候、家屋等の情報、対象者の血液、便、尿中等の成分と各種病原体との感染や発症リスクの相関を調査中。これまで一部の寄生虫や栄養成分と結核菌の無症候感染との相関を明らかにしている。前向き研究により、流行地における結核菌感染や発症リスクの特定を行う。

Nagi S et al, PLOS Negl Trop Dis 2014
Fujii Y et al, PLOS Negl Trop Dis 2014
Chadeka EA et al, PLOS Negl Trop Dis 2017
Inoue M et al, 投稿中。

[写真など]