腎・膠原病内科学

1.研究概要

 腎・膠原病内科学分野、以下の通り活発な臨床、基礎研究を行なっている。
 腎膠原病内科学分野は、腎臓内科学とリウマチ膠原病内科学に分かれ、さらに腎臓内科学は腎ゲノム分子生物学研究グループ、腎組織研究グループ、糖尿病性腎症・腎代謝研究グループ、慢性腎臓病(CKD)病態研究グループに分かれる。各グループは分子生物学・遺伝学・生化学・病理組織学・疫学などの多彩な手法を用いて専門性の高い研究を進めており、また互いに研究テーマを共有して横断的な研究も行っている。
 腎ゲノム分子生物学研究グループでは、腎疾患の発症と進展の分子機構を解明し、病態の進展を阻止することを研究テーマとしており、ゲノミクス、プロテオミクスの研究手法も取り入れ、疾患の分子・細胞レベルの機能障害から生体全体の機能障害までを理解しようと試みている。
 腎組織病理研究グループは、新潟県内の関連施設も含めた腎生検病理を担当し、診断を行っている。また泌尿器科と連携して移植腎病理研究を行っている。さらに病理診断に基づく新たな病態を研究している。
 糖尿病性腎症・腎代謝研究グループは、腎代謝の面から糖尿病の病態・合併症に対してアプローチを行い、特に近位尿細管細胞の役割を研究している。エンドサイトーシス受容体分子の解析と、それらを基盤にして糖尿病性腎症やメタボ関連腎症の病因を研究している。
 慢性腎臓病(CKD)病態研究グループは、CKDとそれに合併する多彩な病態についての研究を進めている。CKDの進行に伴う骨折、心血管系イベントなどを臨床研究、基礎研究の両面から解明し、CKD患者のQOLならびにADLの改善を目指す。ファブリ病の遺伝子解析・遺伝子治療も研究している。
 リウマチ膠原病グループは、関節リウマチ患者における反応性アミロイドーシスによる腎障害の病態および治療法の研究、膠原病患者の血管病変および動脈硬化病変の研究、ビスホスホネート製剤内服中膠原病患者の微小骨折の研究が進行中である。リウマチ・膠原病患者の疼痛、身体症状の増悪寛解因子についての心身医学的研究も行なっている。
 詳しい研究内容については、腎・膠原病内科学ホームページをご覧ください。

2.研究テーマ
  • 腎ゲノム分子生物学研究グループ
  • 腎組織病理研究グループ
  • 腎糖尿病研究グループ
  • CKD病態研究グループ
  • リウマチ膠原病研究グループ
3.各研究グループの研究テーマ

研究チームとして以下のサブグループを有している。

1) 腎ゲノム分子生物学研究グループ

研究テーマ

  • 腎疾患(IgA腎症を中心として)の発症・進展におけるゲノム解析研究
  • 動物モデルを用いた腎炎の発症・進展に対する加齢の影響に関する研究

2) 腎組織病理研究グループ

研究テーマ

  • 腎生検の病理診断
  • 原発性糸球体腎炎および続発性腎症の発症・進展に関する臨床病理学的研究
  • 移植腎の拒絶反応、再発性およびde novo腎炎の発症・進展に関する臨床病理学的研究
  • IgA腎症の予後調査

3) 糖尿病性腎症・腎代謝研究グループ(機能分子医学講座病態栄養学講座と連携)

研究テーマ

  • 糖尿病性腎症に関する基礎的・臨床的研究
  • 近位尿細管に発現するメガリンの機能解析と臨床応用
  • CKDの食事療法の研究
  • CKDにおけるタンパク質・脂質代謝の研究
  • 薬剤性腎障害の研究
  • 腎内レニン-アンギオテンシン系の解析

4) CKD病態研究グループ

研究テーマ

  • 慢性腎臓病の進展に影響する因子についての臨床研究
  • 慢性腎臓病患者の予後・合併症についての臨床研究
  • 尿毒症病態での動脈硬化促進メカニズムの解明
  • 尿毒症病態での骨粗鬆症進展メカニズムの解明
  • 透析アミロイドーシスの病態解析
  • 尿毒症物質を効率的に除去する血液浄化療法システムの開発
  • 災害時に役立つ簡易血液浄化システムの開発
  • 血液透析カテーテルの機能評価

5) リウマチ膠原病研究グループ

研究テーマ

  • 関節リウマチに合併する反応性アミロイドーシスに関する研究
  • 特発性大腿骨頭壊死に関する研究
  • ビスホスホネート製剤内服中の膠原病患者における微小骨折に関する研究
  • 全身性エリテマトーデス、ANCA関連血管炎の長期予後
  • ANCA関連中耳炎の臨床像
4.研究の成果

[分野] 腎・膠原病内科学分野(腎ゲノム分子生物学研究グループ)
[研究テーマ] IgA腎症患者における扁桃細菌叢の解析

[内容]
 IgA腎症は、腎糸球体メサンギウム細胞への糖鎖異常IgAの沈着と、メサンギウム細胞増生、基質増加を病理学的特徴とするが、糖鎖異常IgAがどのような機序で産生され、メサンギウム領域に沈着するか、依然として解明されていない点も残っている。
 IgA腎症においては扁桃感染により一時的な増悪を認めたり、IgA腎症の治療としての扁桃摘出術の有効性が報告されたりしていることから、扁桃に存在する細菌叢が、粘膜免疫を介して何らかの免疫学的修飾をもたらし、IgA腎症の発症に結びついていることが推察されている。しかしこれまでは、扁桃に存在する細菌叢の同定は、細菌培養による単離を行わなければならず、しかしながら99%の細菌は単独では培養できないという問題点があった。そこで、当院耳鼻咽喉科の協力の下、IgA腎症患者の摘出扁桃を用い、細菌に特異的なDNA配列をPCR法にて増幅させ、東京工業大学、国立遺伝学研究所、順天堂大学との共同研究にて、塩基配列を同定するメタゲノム解析を行い、IgA腎症患者扁桃に特異的な細菌叢を同定するべく、解析を行った。結果はIgA腎症患者の扁桃細菌叢と習慣性扁桃炎患者の細菌叢の組成に違いはなく、宿主の免疫応答の違いがIgA腎症の発症に関与しているであろうとの結論に達した。この結果はNephrology Dialysis Transplantation誌に掲載された。

[図表]

IgA腎症患者(IgAGN)、習慣性扁桃炎患者(RT)、小児扁桃肥大患者(TH)由来の扁桃における細菌叢の分布

3群におけるHaemophilus spp., Prevotella spp., Porphyromonas spp., Treponema spp., の検出率

[分野] 腎・膠原病内科学分野(腎組織病理研究グループ)
[研究テーマ] IgG4関連腎臓病の光学顕微鏡的特徴について

[内容]
 IgG4関連腎臓病(IgG4-RKD)とは、血清IgG4濃度高値と組織中へのIgG4陽性形質細胞浸潤を特徴とする本邦発の新しい疾患概念であるIgG4関連疾患の腎病変であり、尿細管間質性腎炎を呈することが多い。我々は、IgG4-RKDと他の尿細管間質性腎炎との光学顕微鏡的な相違を明らかにするために、金沢大学・神戸大学・上越教育大学・長岡赤十字病院と多施設共同研究を行ったところ、間質の特異な線維化(storiform fibrosis, 右図)と腎被膜を超える細胞浸潤がIgG4-RKDだけに観察されたことから、これらの所見が他の間質性腎炎からIgG4-RKDを鑑別する有力な組織所見であると結論付けた。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22228836

[図表]

Fig. 3. Interstitial fibrosis of IgG4-related TIN and non-IgG4-related TIN. Characteristic storiform fibrosis is evident in IgG4-related TIN (A) but not in non-IgG4-related TIN (B) (PAM–Masson trichrome, X400).

[分野] 腎・膠原病内科学分野(CKD病態研究グループ)
[研究テーマ] 尿毒症病態での動脈硬化促進メカニズムの解明と治療法の開発

[内容]
 腎臓病が進行すると血管石灰化とともに動脈硬化が進展するため心血管イベントが増加することが知られている。
 動脈硬化病変内ではマクロファージの泡沫細胞化が進行しプラークを形成するため、腎臓病による泡沫細胞促進のメカニズムの解明と治療法の解明が求められる。当グループでは尿毒症物質であるインドキシル硫酸に着目して基礎・臨床研究を行った。
 インドキシル硫酸は腎障害マウスの動脈硬化病変に高度に沈着し動脈硬化を増悪させる (Yamamoto S, Nephrol Dial Transplant 2011, 図1)。マクロファージはインドキシル硫酸と反応すると炎症性サイトカインとROSの産生を増加させた。またインドキシル硫酸と反応したマクロファージのHDLコレステロールによる細胞内脂質引き抜き能が低下した (Matsuo K, Toxins 2015)。一方、腎臓病患者由来のHDLはマクロファージからの脂質引き抜き能を低下させ、炎症性サイトカインの産生を増加させる(Yamamoto S, J Am Coll Cardiol 2012)。以上から腎臓病、特に尿毒症物質の蓄積がマクロファージやHDLの機能に影響し、泡沫細胞化を促進している可能性が示唆された (Yamamoto S, Clin Chem Acta 2016, 図2)。
 現行の透析療法では除去されにくい尿毒症物質も多く、それらの除去効率を上げることが透析患者のQOLや生命予後を改善する可能性が期待できる。私たちは透析患者のインドキシル硫酸など蛋白結合性の高い尿毒症物質をより除去するために、現行の透析療法に加えて経口吸着炭薬 (Yamamoto S, Sci Rep 2015, 図3)やヘキサデキル基固定セルロースビーズによる直接血液還流 (Yamamoto S, Artificial Organs in press)の効果を示したが、現在より効果的な透析療法を考案している。

[図表]

[分野] 腎・膠原病内科学分野(リウマチ膠原病グループ)
[研究テーマ] AA及びALアミロイドーシス患者の腎生検標本におけるアミロイドの沈着パターン及び腎機能との相関

[内容]
 腎臓は全身性アミロイドーシスにおける主要な標的臓器の1つである。今回我々は、58名のAAアミロイドーシス患者と61名のALアミロイドーシス患者の腎生検組織標本及び腎機能などの臨床所見をretrospectiveに解析し、その関連について検討した。AAアミロイドーシス群ではアミロイド沈着領域量と血清Cr値、24時間クレアチニンクリアランス、及びeGFRとの相関を認めた一方、ALアミロイドーシス群ではアミロイド沈着領域量と1日尿蛋白量との相関が認められた。両群間では腎糸球体のメサンギウム領域、基底膜、血管への沈着パターンに差異が認められ、これらの沈着パターンの差がAAアミロイドーシスとALアミロイドーシスの腎障害パターンの違いにつながっている可能性が推測された。(Kuroda T et al. Amyloid. 2017 Jun;24(2):123-130.)

[図表]

図1. AAアミロイドーシス患者の腎生検組織

図2. ALアミロイドーシス患者の腎生検組織