形成外科学

研究テーマ
  • 『島状側頭筋移行術を用いた顔面神経麻痺再建術における神経可塑性と神経再支配機序』
    • 顔面神経麻痺の再建に用いる新しい側頭筋移行術式として2000年にLabbeにより発表された島状側頭筋移行法は側頭筋全体を翻転することなく順行性に下方鼻唇溝部まで移動させることで口角部の動きを得るものであり、口角部の動きの方向がより生理的で自然な動きが可能となるなど、多くの利点を有している。
      側頭筋は三叉神経運動枝により支配されるため、移行された側頭筋を動かすためには「咬む」動作が必要であるが、Labbe法での再建後は「咬む」動作を意識しなくても健側と同期した自然な口角運動が可能となったり、術後長期経過した若年例などでは口角部のみならず眼瞼周囲の動きまで改善する場合があり、筋肉が移行されることで側頭筋が解剖学的位置のみならず機能的にも顔面表情筋へと「組み込まれる」現象が起こり得る。
      これらの中枢レベルでの神経可塑性や、側頭筋からの顔面表情筋への再支配の存在を証明するため、ラットの側頭筋を顔面表情筋に広く接するような形として移行するモデルを作成、側頭筋もしくは顔面表情筋への逆行性神経トレーサー注入による神経回路解析や電気生理学的評価を加え、本術式の有用性を検証・証明する。
  • 『端側神経縫合と複数の神経源を用いた顔面神経再建』
    • 耳下腺悪性腫瘍切除に伴う広範な顔面神経欠損に対する再建術として、我々は以前より端側神経縫合を用いた再建術を報告し、また動物モデルによる本術式の有用性の検証も行い、報告してきた。
      また、さらなる神経機能回復を目指して顔面神経に加えて舌下神経や三叉神経運動枝を神経源として用いる顔面神経再建術式も報告している。これらの術式においては一本の移植神経に複数の神経源を縫合することとなり、再建される神経網も従来報告されてきたものとは異なっている。
      すでに我々が報告したラット顔面神経モデルを元に複数の神経源を用いる本術式のモデルを作成、逆行性神経トレーサー注入による神経回路解析や電気生理学的評価を加えて術式の有用性の検証を行う。
  • 『ストレスと創傷治癒』
    • 難治性潰瘍発症の一因である糖尿病において病態に、ストレスによる各種ホルモンが影響し、症状を増幅している可能性は高い。動物実験では、拘束ストレス下に、血漿のコルチコステロンなど各種ホルモンや放出因子、IL-6などのサイトカイン、カテコールアミン、血糖値、中性脂肪の上昇を認めている。
      臨床では、糖尿病患者には、神経を栄養する血管も障害され、神経因性疼痛も見られるため、抗うつ薬が鎮痛目的に投与されている。また、ストレスを心理的にケアすることで、治癒が促進することが確認されている。一方、うつ病においては、ストレスが血中グルココルチコイドの増加をもたらし、脳内の神経細胞死を誘発させ、ひいては神経回路網の破壊を進行させる病態が推察されている。
      脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor : BDNF)は、神経細胞の発達・生存に大きな役割を担っているが、抗うつ薬投与によりBDNF産生が増加すること、神経細胞への分化が促進されることが判明し、抗うつ薬とBDNF、そして神経回路網の修復・形成促進の相互の関連が示唆されている。
      このようにストレスと組織傷害、抗ストレス薬と組織再生との関連は深く、創傷治癒に影響しているとの着想に基づき、「ストレスは創傷治癒を遷延させ、抗ストレス薬は治癒を促進させ得る」との仮説を立て、真偽を立証することを目的に基礎的な動物実験を進めている。
      難治性皮膚潰瘍患者の多くは抑うつ状態にあり、抗ストレス薬として抗うつ薬は抑うつ状態のみならず潰瘍をも改善させ得る可能性について、マウスモデルで検証することを目標としている。
       詳しい研究内容については、形成外科学ホームページをご覧ください。