
全身状態不良の小細胞肺がん患者における化学免疫複合療法の安全性と有効性を証明
新潟大学医歯学総合病院呼吸器・感染症内科の才田優助教、渡部聡医学部准教授、菊地利明教授、順天堂大学医学部附属順天堂医院呼吸器内科の朝尾哲彦医師らの研究グループは、全身状態が不良で日常生活に制限のある(Performance Status(PS):日常生活活動度(※1)で評価)小細胞肺がん患者さんにおいても、免疫チェックポイント阻害薬(※2)と抗がん薬の併用療法は、安全かつ有効であることを報告しました。
【本研究成果のポイント】
・日常生活活動度が低い進展型小細胞肺がん患者さんに対し、抗がん薬の用量を調整したうえで免疫チェックポイント阻害薬と併用する治療法について、その安全性と有効性を検証しました。
・導入療法を完了できた患者さんの割合および1年以上の生存期間を得られた患者さんの割合は、いずれも事前に想定されていた水準を上回る結果となりました。
・本研究により、全身状態が悪化した進展型小細胞肺がん患者さんにも、強度の高い初回薬物療法の選択肢が広がりました。
Ⅰ.研究の背景
小細胞肺がんは国内で約20,000人が罹患するがんで、進行が早い一方、抗がん薬や放射線治療が効きやすい腫瘍です。進行に伴って体力が落ち治療が難しくなる患者さんが多く、免疫療法を安全かつ有効に使用できるかは不明でした。
Ⅱ.研究の概要
本研究の目的は、全身状態が不良な進展型小細胞肺がんに対する、デュルバルマブ(免疫チェックポイント阻害薬)+カルボプラチン+エトポシド(いずれも抗がん薬)併用療法の安全性と有効性を検証することでした。強い副作用を避けるため、カルボプラチンとエトポシドを減量して開始し、副作用の程度に応じて各コース毎に用量を調整し、個々の患者さんに最適な投与量を決定しました。本研究は、北東日本研究機構(NEJSG)の所属施設による共同研究として実施されました。
Ⅲ.研究の成果
本研究には、57名の患者さん(PS 2:43名、PS 3:14名)が参加しました。そのうち、PS 2の26名(67%)、PS 3の5名(50%)が導入療法を完了しました。副作用により治療を中止したのは全体で12名(21%)にとどまりました。がんが明らかに縮小した割合は51%でした(図1、青色棒グラフ)。無増悪生存期間(※3)の中央値は4.7か月、全生存期間の中央値は全体で9.0か月、PS 2では11.3か月と良好な結果でした。日常生活の制限は29名(55%)で改善しました。


これらの結果から、全身状態が悪化した進展型小細胞肺がん患者においても、免疫チェックポイント阻害薬と抗がん薬の併用療法は、一定の安全性と有効性を示すことが明らかとなり、強度の高い初回治療の選択肢が広がりました。
Ⅳ.今後の展開
今後は、より適切な治療選択ができるよう、長期に効果を維持できる患者さんや、副作用が強く出やすい患者さんの特徴を検討していく予定です。
Ⅴ.研究成果の公表
本研究成果は、2025年9月28日、科学誌「Lancet Respiratory Medicine」に掲載されました。
【論文タイトル】Durvalumab, carboplatin, and etoposide in treatment-naÏve patients with extensive-stage small cell lung cancer and poor performance status: A single-arm phase II NEJ045A study
【著者】朝尾哲彦, 才田優, 渡部聡, 木曽原朗, 岸一馬, 守田亮, 中川拓, 突田容子, 古屋直樹, 宮脇太一, 石川暢久, 山田忠明, 田中崇裕, 森田智視, 菊地利明, 前門戸任, 小林国彦
【doi】10.1016/S2213-2600(25)00240-1
Ⅵ.謝辞
本研究は、アストラゼネカ社の支援を受けて行われました。
【用語解説】
(※1)・・・Performance Status(PS):日常生活活動度
全身状態の指標の1つで、患者さんの日常生活の制限の程度を示します。PS 2は「歩行可能で、自分の身のまわりのことはすべて可能だが、作業はできない。日中の50%以上はベッド外で過ごす。」、PS 3は「限られた自分の身のまわりのことしかできない。日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす。」と定義されます。
(※2)・・・免疫チェックポイント阻害薬
がんによる免疫のブレーキを解除し、がんに対する免疫を活性化する薬剤です。活性化した免疫細胞ががんを攻撃して、がんを縮小させます。肺がんだけでなく、胃がん、乳がん、悪性黒色腫など、様々ながんの治療に用いられています。
(※3)・・・無増悪生存期間
治療開始からがんの進行が認められるまで、またはあらゆる原因による死亡までの期間。
本件に関するお問い合わせ先
【研究に関すること】
新潟大学医歯学総合病院
呼吸器・感染症内科
医学部准教授 渡部 聡(わたなべ さとし)
E-mail:satoshi7@med.niigata-u.ac.jp
【広報担当】
新潟大学医歯学系総務課
E-mail:shomu@med.niigata-u.ac.jp



