携帯型脳波計で肝硬変患者の「気づかれにくい睡眠障害」を客観的に可視化 −自覚症状が乏しくても、入眠遅延・中途覚醒・REM睡眠異常が明らかに−
新潟大学医歯学総合病院消化器内科の内山敦司医師(研究当時)、新潟大学医歯学総合研究科消化器内科学分野の上村博輝准教授、寺井崇二教授らの研究グループは、筑波大学体育系/国際統合睡眠医科学研究機構の薛載勲助教、大藏倫博教授らのグループ、および株式会社S’UIMINの小久保利雄研究支援室長(筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構 ハイクラスリサーチアドミニストレーター併任)との共同研究により、肝硬変患者に潜在する“自覚されにくい睡眠障害”を、在宅で測定可能な携帯型脳波計(portable electroencephalogram:EEG)を用いて客観的に明らかにしました。本研究成果は1月5日に科学誌「BMJ Health & Care Informatics」に掲載されました。
肝硬変患者では睡眠障害が高頻度にみられることが知られていますが、これまでの多くの研究は質問票などの主観的評価に依存しており、睡眠構造そのものを評価する終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)は、入院や専門設備を要するため、臨床研究・日常診療の双方で実施のハードルが高いという問題がありました。本研究は、携帯型脳波計を用いた在宅測定という新しい手法により、これまで見逃されてきた睡眠構造の異常を可視化することに成功しました。
【本研究成果のポイント】
・質問票では大きな睡眠障害を訴えない肝硬変患者でも、脳波上では明確な睡眠の質低下が認められました。
・肝硬変患者では健常者と比較し、入眠までの時間が長くなり(入眠潜時の延長)、中途覚醒(WASO)が増加し、睡眠効率が低下していました。
・睡眠段階では、浅い睡眠(N1)が増加し、REM睡眠が減少、さらにREM潜時(入眠から最初のREM睡眠までの時間)が著明に延長していました。
・携帯型脳波計は、肝硬変患者の睡眠評価において、実用的かつ拡張性の高い新しいスクリーニング手段となる可能性を示しました。
Ⅰ.研究の背景
肝硬変では、睡眠・覚醒リズムの乱れや睡眠の質の低下が高頻度にみられ、QOL(生活の質)や日中の活動性、認知機能にも影響を及ぼします。しかし、臨床現場では質問票による評価が中心で、患者自身が「眠れている」と感じている場合には、睡眠障害が見過ごされやすいという課題がありました。
そこで本研究では、入院や大型設備を必要とせず、自宅で日常の睡眠を評価できる携帯型脳波計に着目し、肝硬変患者の睡眠構造を客観的に解析しました。
Ⅱ.研究の概要
新潟大学医歯学総合病院に通院中の早期肝硬変患者(Child-Pugh A)20名を対象とし、睡眠時無呼吸、強い掻痒、明らかな肝性脳症、飲酒など睡眠に影響する要因を可能な限り除外したうえで、携帯型脳波計を用いて自宅で7日間連続の睡眠測定を実施しました。
比較対象として、筑波大学の健常高齢者コホートから年齢・性別・BMIを一致させた対照群を抽出し、両群で同一デバイス・同一基準により睡眠指標(入眠潜時、睡眠効率、睡眠段階、REM潜時など)を比較しました。
Ⅲ.研究の成果
質問票では多くの肝硬変患者が「大きな睡眠の問題はない」と回答していましたが、脳波解析では健常対照群と比較して以下のような明確な差が認められました。
・入眠までに要する時間(入眠潜時)が有意に延長
・中途覚醒(WASO)が増加
・睡眠効率が低下
・浅い睡眠(N1)の割合が増加およびREM睡眠が減少
・REM睡眠が出現するまでの時間(REM潜時)が顕著に延長
これらは、肝硬変患者において「眠れているつもりであっても、脳波上では浅い睡眠が多く、REM睡眠が乱れている」という“睡眠誤認”が高頻度に存在することを示しています。
Ⅳ.今後の展開
携帯型脳波計は、入院を必要とせず、日常生活下の睡眠を評価できる点で、従来のPSGを補完する新しいツールです。本研究は、肝硬変患者の睡眠評価をより身近で実践的なものにし、睡眠異常を早期に発見し介入につなげる可能性を示しました。
今後はより大規模な集団を対象として、睡眠指標と血中アンモニア値、肝性脳症、QOL、予後との関連を明らかにし、肝硬変診療における「睡眠評価」の標準化を目指します。また、在宅でデータ取得が可能という特性を活かし、遠隔医療やデジタルヘルスとの統合も期待されます。
Ⅴ.研究成果の公表
本研究成果は、2026年1月5日、科学誌「BMJ Health & Care Informatics」に掲載されました。
【論文タイトル】Unrecognised sleep disturbances in patients with cirrhosis diagnosed with a portable electroencephalogram device
【著者】Atsushi Uchiyama, Hiroteru Kamimura, Suguru Miida, Hiroki Maruyama, Takafumi Tonouchi, Jaehoon Seol, Toshio Kokubo, Tomohiro Okura, Yusuke Watanabe, Naruhiro Kimura, Hiroyuki Abe, Akira Sakamaki, Takeshi Yokoo, Shuji Terai
【doi】10.1136/bmjhci-2025-101526
Ⅵ.謝辞
本研究は、世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)AMEDの助成金(JP21zf0127005)、および文部科学省科学研究費助成事業(科研費:20K08326)の支援を受けて行われました。
本件に関するお問い合わせ先
【研究に関すること】
新潟大学医歯学総合研究科消化器内科学分野
准教授 上村博輝
筑波大学体育系/筑波大学高等研究院(TIAR)
国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)
教授 大藏倫博(おおくらともひろ)
E-mail:okura.tomohiro.gp@u.tsukuba.ac.jp
URL:https://okuralab.jp/
株式会社S'UIMIN 事業本部
研究支援室長 小久保 利雄
E-mail:t.kokubo@suimin.co.jp
【広報担当者】
新潟大学広報事務室
E-mail:pr-office@adm.niigata-u.ac.jp
筑波大学高等研究院(TIAR)
国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)広報担当
E-mail:wpi-iiis-alliance@ml.cc.tsukuba.ac.jp
URL:https://wpi-iiis.tsukuba.ac.jp/japanese/
株式会社S'UIMIN 事業本部
研究支援室長 小久保 利雄
E-mail:t.kokubo@suimin.co.jp









