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2026/02/10 研究成果
慢性腎臓病患者における代謝性アシドーシスの評価・治療の実態を解明 −慢性腎臓病患者包括的縦断データベース(J-CKD-DB-Ex)より−

代謝性アシドーシス(注1)は慢性腎臓病(chronic kidney disease: CKD)の合併症であり、腎機能低下の独立した危険因子とされ、骨代謝異常やインスリン抵抗性の増大、筋肉量の減少と関連することが知られています(参考文献 1)。しかしながら、日本のCKD患者における代謝性アシドーシスの評価や治療実態については明らかではありませんでした。そこで、新潟大学大学院医歯学総合研究科博士課程の田中舞さん(大学院生)、同大学病態栄養学講座の細島康宏特任准教授、蒲澤秀門特任講師、川崎医科大学高齢者医療センター柏原直樹病院長、同大学腎臓・高血圧内科学教室の長洲一准教授、新潟大学大学院医歯学総合研究科腎研究センター腎・膠原病内科学分野の山本卓教授らの研究グループは、慢性腎臓病患者包括的縦断データベース(Japan Chronic Kidney Disease Database: J-CKD-DB-Ex)を活用し、リアルワールドデータによる「慢性腎臓病における代謝性アシドーシスの評価と治療:レジストリ研究」を実施しました。その結果、CKD患者における血清重炭酸濃度(注2)の測定率は低く、代謝性アシドーシスの診断および治療も十分ではない現状が明らかになりました。
 
【本研究成果のポイント】
・血清重炭酸濃度の測定率は各年10%を下回っており、代謝性アシドーシスそのものの評価が十分ではない可能性が示されました。
・CKDステージの進行に伴い代謝性アシドーシスの有病率は上昇していましたが、診断や治療が十分に行われていない可能性が示されました。
 
Ⅰ.研究の背景
CKD患者において、代謝性アシドーシスの合併頻度は腎機能が低下するほど高くなることが知られています。そのような中で、代謝性アシドーシスを合併するCKD患者において、重曹やクエン酸Naなどのアルカリ化療法薬が腎機能低下の抑制および末期腎不全のリスクを低下する可能性が示唆されていることから、日本国内のガイドラインにおいても血清重炭酸濃度22mEq/L未満を治療開始の基準としてアルカリ化療法が推奨されています(参考文献 2)。しかしながら、北米における検討ではCKD患者において重炭酸濃度が低下しているにもかかわらず、代謝性アシドーシスと診断を受けている者は全体の20〜45%のみであり、さらに重曹による治療を受けた患者は8〜18%のみであることが示されていました(参考文献 3)。これらの報告はすべて欧米の検討であり、日本を含むアジアにおける代謝性アシドーシスの診断および治療の実態は明らかではありませんでした。そこで、本研究は、日本における全国規模の電子カルテデータであるJ-CKD-DB-Exを用いて、血清重炭酸濃度の測定率、また、代謝性アシドーシスの有病率、診断率および治療率を調査しました。
 
Ⅱ.研究の概要
2014〜2021年にJ-CKD-DB-Exに登録され、推算糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate:eGFR)(注3)が15以上60ml/分/1.73 m2未満を満たす症例を対象としました。各年における代謝性アシドーシスの評価の指標として血清重炭酸濃度の測定率を検討しました。また、血清重炭酸濃度が測定されていた症例のうち、22mEq/L未満または重曹の処方があった症例の割合を有病率、保険病名のあった割合を診断率、および重曹が処方されていた割合を治療率として評価しました。
 
Ⅲ.研究の成果
2014〜2021年において各年平均58,010人における血清重炭酸濃度の測定率は7.87〜9.01%でした(図1)。

また、血清重炭酸濃度が測定されていた症例における代謝性アシドーシスの有病率は、それぞれCKDステージG3a 31.8%、G3b 46.4%、G4 65.8%であり、CKDステージの進行に伴い増加しました(図2 (A))。一方で、代謝性アシドーシスの診断率および重曹による治療率は、CKDステージ別にそれぞれ4.8%、6.9%、13.7%および3.6%、5.2%、13.4%にとどまりました(図2 (B))。

Ⅳ.今後の展開
日本のCKD患者における代謝性アシドーシスの評価および治療実態を検討した結果、血清重炭酸濃度の測定率は低く、診断や治療についても十分に行われていない可能性が示されました。これにより、代謝性アシドーシスの評価に関する現状の課題を明示できたと考えられ、今後のさらなる検討が期待されます。
 
Ⅴ.研究成果の公表
本研究成果は、2026年1月13日、科学誌「Scientific reports」に掲載されました。
【論文タイトル】Assessment and Treatment of Metabolic Acidosis in CKD: A Registry-Based Study
【著者】Mai Tanaka, Michihiro Hosojima, Hideyuki Kabasawa, Shin Goto, Seiji Itano, Seiji Kishi, Hajime Nagasu, Naoki Kashihara, Suguru Yamamoto
【doi】10.1038/s41598-026-35335-6
 
 
【用語解説】
(注1)代謝性アシドーシス
血液中の重炭酸イオンが低下して血液が正常よりも酸性に傾くような状態のことです。
 
(注2)血清重炭酸濃度
体内の酸塩基平衡(酸とアルカリのバランス)を評価する指標の一つで、血液検査で測定されます。
 
(注3)推算糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate:eGFR)
血清クレアチニン値と年齢と性別から推算される指標で、腎臓の働きを示しており、この値が低いほど腎臓の働きが低下していることを意味します。
 
参考文献
1. Chen W, Abramowitz MK. Metabolic acidosis and the progression of chronic kidney disease. BMC Nephrol. 2014;15:55.
2. Essential points from evidence-based clinical practice guideline for chronic kidney disease 2023. Clinical and Experimental Nephrology 28, 473-495
https://doi.org/10.1007/s10157-024-02497-4 (2024).
3. Raphael KL, Zhang Y, Ying J, Greene T. Prevalence of and risk factors for reduced serum bicarbonate in chronic kidney disease. Nephrology (Carlton). 2014;19(10):648-54.
 
 
本件に関するお問い合わせ先
【研究に関すること】
新潟大学大学院医歯学総合研究科
腎研究センター 病態栄養学講座
特任准教授 細島 康宏(ほそじま みちひろ)
E-mail:hoso9582@med.niigata-u.ac.jp
 
【広報担当】
新潟大学医歯学系総務課
E-mail:shomu@med.niigata-u.ac.jp

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