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2024/06/04 研究成果
全身性エリテマトーデスの自己抗体産生を抑制する機構を解明 − 副作用の少ない新たな治療ターゲットとして期待 −

新潟大学大学院医歯学総合研究科腎研究センター腎・膠原病内科学分野の金子佳賢医学部准教授、同大学自然科学系(理学部)の内海利男名誉教授らの研究グループは、東京医科歯科大学、日本大学との共同研究で、全身性エリテマトーデス(SLE)(注1)患者にみられる自己抗体の一種、リボゾーム(注2)に対する抗体に着目し、正常の状態では、抗体を産生する能力を持つ免疫細胞の一種、Bリンパ球(注3)に発現するCD72(注4)と呼ばれる受容体を介して、抗リボゾーム抗体が作られないように抑制がかけられていることを明らかにしました。本研究は動物実験による結果ですが、SLEにおける自己抗体産生を抑える新規治療ターゲットとしての可能性を開くものであり、臨床応用が期待されます。
 
【本研究成果のポイント】
・D72とB細胞受容体がともにリボゾームと結合することで、B細胞受容体からのシグナル伝達が減弱し、細胞の活性化が弱まりました。
・CD72遺伝子を欠いたマウスでは、血液中にリボゾームに対する自己抗体が自然発生しました。
・CD72の機能を増強させることで、病原体への免疫応答を抑制せずに自己免疫反応のみを抑制する、新たな治療法の開発が期待されます。
 
Ⅰ.研究の背景
SLEは免疫系の異常により、特に核酸や核酸を含む自己抗原に対して免疫反応を示す自己抗体が産生され、皮膚、関節、腎臓、脳神経など様々な臓器に障害を引き起こします。東京医科歯科大学難治疾患研究所分子構造情報学分野の鍔田武志名誉教授、伊藤暢聡教授らの研究グループは、Bリンパ球の細胞表面に発現する抑制性の膜分子CD72が、SLEで検出される自己抗体の一種、Sm/RNP(注5)に結合し、自己抗体の産生を抑制する働きがあることを明らかにしました。新潟大学の研究グループでは、これまでリボゾームに対する自己抗体の研究を行っていましたが、リボゾームに対する自己抗体産生を抑える働きも、CD72を介して行われているかどうかについて明らかにするため、共同研究を行いました。
 
Ⅱ.研究の概要
リボゾームに反応するBリンパ球が発現するB細胞受容体がリボゾームに結合した際に、B細胞受容体シグナルが細胞内に伝わるのを抑制するため、Bリンパ球上のCD72がリボゾームに同時に結合し、B細胞受容体シグナルをストップさせる機構が備わっていることが想定されています(図1)。そこで、リボゾームを使ってBリンパ球を刺激し、リボゾームに対する反応がCD72を介して抑制されるか否かについて調べました。
 
Ⅲ.研究の成果
マウスにおける実験では、リボゾームによりBリンパ球がB細胞受容体シグナルを介して活性化しますが、CD72が存在するとB細胞受容体シグナルが抑制され、リボゾームによるBリンパ球の活性化が弱くなりました。また、CD72を欠損したマウスでは、生後1年ほどで血液中にリボゾームに対する自己抗体が自然発生し、検出されるようになりました(図2)。CD72による抑制が入らないことで、リボゾームに反応するBリンパ球が増殖し、リボゾームに対する自己抗体を産生するようになった可能性が示唆されました。

Ⅳ.今後の展開
今回の成果により、SLEに特異的な自己抗体の産生を選択的に抑制する仕組みが明らかとなりました。従来の治療に使われていた免疫抑制薬は、病原体に対する免疫機能も低下させてしまいますが、CD72の機能を増強させることで、自己抗原に反応するBリンパ球だけを選択的に抑制することが可能となり、より副作用の少ない治療法としての開発が期待されます。
 
Ⅴ.研究成果の公表
本研究成果は、2024年5月15日、科学誌「Journal of Autoimmunity」(impact factor 12.8)のオンライン版に掲載されました。
論文タイトル:CD72 is an inhibitory pattern recognition receptor that recognizes ribosomes and suppresses production of anti-ribosome autoantibody
著者:Chizuru Akatsu, Takahiro Tsuneshige, Nobutaka Numoto, Wang Long, Toshio Uchiumi, Yoshikatsu Kaneko, Masatake Asano, Nobutoshi Ito, Takeshi Tsubata*
*: corresponding author
doi: 10.1016/j.jaut.2024.103245
 
 
【用語解説】
(注1)全身性エリテマトーデス(SLE)
免疫系の異常により、自分自身の体に対して免疫が反応し、様々な臓器に障害を及ぼす疾患。
(注2)リボゾーム
細胞内でメッセンジャーRNAを翻訳し、蛋白質を合成する器官。多数の蛋白質とリボゾームRNAで構成される。リボゾームに対する抗体はSLEで検出される。
(注3)Bリンパ球(B細胞)
免疫に働く白血球細胞の一種。病原体などの抗原とB細胞受容体を介して反応し、抗体を産生する能力を有する。
(注4)CD72
Bリンパ球細胞の細胞膜上に発現する蛋白。チロシン脱リン酸化酵素によりB細胞受容体シグナルを抑制する。
(注5)Sm/RNP
Sm: 蛋白質の複合体。RNP: 蛋白質とRNAからなる複合体。主に細胞の核内に存在し、RNAのプロセッシングに関わる。Sm/RNPに対する抗体はSLEで検出される。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
【研究に関すること】
新潟大学大学院医歯学総合研究科 腎研究センター
腎・膠原病内科学分野
医学部准教授 金子 佳賢(かねこ よしかつ)
E-mail:kanekoy@med.niigata-u.ac.jp
 
【広報担当】
新潟大学医歯学系総務課
E-mail:shomu@med.niigata-u.ac.jp

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