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2024/02/29 研究成果
透析アミロイドーシスの進展に関連するタンパク質を発見

新潟大学医歯学総合病院血液浄化療法部の山本卓病院教授、同大学大学院医歯学総合研究科腎・膠原病内科学分野の成田一衛教授、同大学同研究科生体液バイオマーカーセンターの山本格名誉教授、大阪大学大学院工学研究科の山口圭一特任准教授(常勤)らの研究グループは、透析アミロイドーシス(注1)の治療で使用する血液浄化器(注2)の性能を調査し、病気の進展に関連するタンパク質を発見しました。
 
【本研究成果のポイント】
・透析患者は長期間の透析治療で透析アミロイドーシスを発症し、骨関節障害を呈します。
・透析アミロイドーシスの治療に原因タンパク質であるβ₂-ミクログロブリン(β2-m)の除去を目的とした血液浄化器が使用されます。
・血液浄化器に吸着したタンパク質を網羅的に解析したところ、β2-m を含め200種類のタンパク質が同定され、そのうち、リゾチームをはじめとするいくつかの分子はアミロイド形成に関与することが示されました。
 
Ⅰ.研究の背景
慢性腎臓病(注3)患者には血液透析(注4)をはじめとする腎代替療法(注5)が必要となります。血液透析患者は、長期間の治療で骨関節症状をはじめとする様々な合併症により生活活動度が低下します。
透析アミロイドーシスは長期透析患者に発症する疾患で、手根管症候群(注6)や脊椎症など骨関節症状を呈します。透析患者で増加するβ2-mが蓄積することでアミロイド線維を形成し組織に沈着しますが、その発症メカニズムは十分解明されていません。
透析アミロイドーシスの治療にβ2-mを効率的に除去する血液浄化器(β2-m吸着カラム)が使用されます。β2-m吸着カラムは血中β2-m値が低下するだけでなく、骨関節症状を改善することから、β2-m以外のタンパク質を吸着している可能性が議論されていました。しかし、これまで吸着されるタンパク質の種類とそれらのアミロイドーシスへの関連は明らかではありませんでした。
そこで、β2-m吸着カラムに吸着されたタンパク質を網羅的に解析し、アミロイド形成に関連する分子を調査しました。
 
Ⅱ.研究の概要
透析アミロイドーシスを発症している血液透析患者14名にβ2-m吸着カラムを使用し、使用後のカラムから吸着したタンパク質を取り出し、質量分析で吸着タンパク質を網羅的に解析しました(図)。その結果、β2-mを含め200種類のタンパク質が検出されました。
そのなかで、アミロイド組織に含まれ、かつβ2-m吸着カラムにより高度に吸着されるタンパク質4種(リゾチーム、アンギオジェニン、マトリックスGlaタンパク質、補体因子D)が同定されました。β2-mを試験管内で反応させると重合の結果、アミロイド線維が形成されますが、それらのタンパク質はその反応に作用しました。

Ⅲ.研究の成果
β2-m吸着カラムはβ2-m以外の多彩なタンパク質を吸着除去することが明らかになりました。そしてその一部は透析アミロイドーシスの病態に関与する可能性が示されました。
 
Ⅳ.今後の展開
β2-m吸着カラムの多面的な効果が示されたため、透析アミロイドーシスの症例に対し、より積極的な臨床使用が望まれます。
透析アミロイドーシスに関連するタンパク質に治療介入することで予防、進展抑制に応用できる可能性があります。
今後は、リゾチーム、アンギオジェニン、マトリックスGlaタンパク質、あるいは補体因子Dと透析アミロイドーシス発症の関連を大規模な臨床研究で解明する必要があります。
 
Ⅴ.研究成果の公表
本研究成果は、2024年2月11日、科学誌「Amyloid:Journal of Protein Folding Disorders」に掲載されました。
論文タイトル:Mass spectrometry-based proteomic analysis of proteins adsorbed by hexadecyl-immobilized cellulose bead column for the treatment of dialysis-related amyloidosis
著者:Suguru Yamamoto, Keiko Yamamoto, Yoshitoshi Hirao, Keiichi Yamaguchi, Kichitaro Nakajima, Mami Sato, Miho Kawachi, Mio Domon, Kei Goto, Kentaro Omori, Noriaki Iino, Hisaki Shimada, Ryuzi Aoyagi, Isei Ei, Shin Goto, Yuji Goto, Fumitake Gejyo, Tadashi Yamamoto, Ichiei Narita
doi: 10.1080/13506129.2024.2315148
 
 
【用語解説】
(注1)透析アミロイドーシス
透析患者にβ2-mを原因とするアミロイドが骨関節組織、あるいは諸臓器に沈着することで発症する腎臓病に関連する疾患の一つ。手根管症候群、脊椎症、あるいは関節症を呈し、透析患者の生活活動度に影響する。
 
(注2)血液浄化器
透析療法で血液の老廃物や水分を除去する機器。β2-m吸着カラムは血液浄化器の一つで吸着の原理で血液中のβ2-mをはじめとするタンパク質を除去する。
 
(注3)慢性腎臓病
糖尿病、高血圧、慢性糸球体腎炎、などを原因に慢性に経過する腎臓病。
 
(注4)血液透析
腎機能が低下した患者に対して、体外で、血液の老廃物や水分を除去し、血液を浄化する腎代替療法の一つ。
 
(注5)腎代替療法
腎機能が高度に低下した際に選択される腎臓の代わりとなる、あるいはサポートする治療方法。主に血液透析、腹膜透析、そして腎移植がある。
 
(注6)手根管症候群
手根管内にある正中神経が圧迫されるため手指のしびれ、痛み、あるいは筋力低下を来す。透析アミロイドーシスではアミロイドが手根管内に沈着することで正中神経を圧排し、症状を呈する。手根管開放術という手術を行うことと、β2-m吸着カラムを使用することが治療法となる。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
【研究に関すること】
新潟大学医歯学総合病院 血液浄化療法部
病院教授 山本 卓(やまもと すぐる)
E-mail:yamamots@med.niigata-u.ac.jp
 
大阪大学大学院工学研究科
特任准教授(常勤) 山口 圭一(やまぐち けいいち)
E-mail:k.yamaguchi@prec.eng.osaka-u.ac.jp
 
【広報担当】
新潟大学広報事務室
E-mail:pr-office@adm.niigata-u.ac.jp
 
大阪大学工学研究科総務課評価・広報係
E-mail:kou-soumu-hyoukakouhou@office.osaka-u.ac.jp

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