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2017/03/14 研究成果
糖尿病性腎症の成因に基づく尿検査法を開発!−早期から予後を診断したり、治療法を見直すための新しい尿検査法−

【本研究成果のポイント】
・糖尿病に合併する腎障害(糖尿病性腎症)は透析導入の第1位の原因疾患であり、心・血管病の重要な危険因子でもある。
・糖尿病性腎症の成因に基づいて、その発症・進展リスクや治療の妥当性を評価できる検査法は今まで確立されていなかった。
・腎臓に発現するメガリンという分子が腎障害性物質(病的タンパク質など)を取り込む「入り口」となって、リソソームの代謝機能に負荷をかけ、その障害をきたすことが、糖尿病性腎症の発症・進展の起点となるが、その機序に関連して、エクソソームという微小構造物に搭載されて尿中にメガリンの排泄が増加することがわかった。
・エクソソームに搭載されるメガリン(全長型)の尿中排泄量を測定することで、早期から糖尿病性腎症の予後(発症・進展しやすさ)を診断したり、治療法に指針を与える可能性がある。
 
Ⅰ.研究の背景
現在我が国では腎不全によって約32万人の方々が透析療法を受けておられ、その数は年間約3万8千人ずつ増加しています。透析療法には年間約1兆5千億円もの医療費が投入されており、医療経済的にも重要な問題になっています(図1)。
 
糖尿病の合併症としての腎障害(糖尿病性腎症)は、透析導入原因疾患の第1位を占めています。また糖尿病患者は腎症を合併すると心臓病や脳卒中の危険も増大することが知られており、糖尿病性の発症・進展を食い止めることは、糖尿病治療における最重要課題のひとつです。
 
ただ、糖尿病性腎症の成因は未だ十分には解明されていません。しかし一方で、糖尿病性腎症が発症・進展しやすい人とそうではない人が存在することが知られています。しかしどのようにしてそのような人を見分けるかは明らかではありません。また腎臓を保護するために現在行われている治療が個々の患者にとって妥当なものかを評価する方法も確立されていません。そこで、糖尿病性腎症の成因に基づいて、その発症・進展のリスクを予測し、治療に指針を与えるとともに、簡便に行える検査法の開発が求められていました。
 
Ⅱ.研究の概要
新潟大学大学院医歯学総合研究科機能分子医学講座の斎藤 亮彦(さいとう あきひこ)特任教授を中心とする研究グループは、2015年に、肥満・メタボ型の糖尿病モデルマウスにおいて、腎臓の近位尿細管細胞に存在するメガリンという分子が「入り口」となって腎障害性タンパク質などを取り込むことにより、リソソームという細胞内小器官にタンパク質代謝負荷をきたし、その機能を障害させることを起点として、糖尿病性腎症が発症・進展する機序を明らかにしました。
 
このたび、そのようなリソソーム障害による糖尿病性腎症の発症・進展機序に伴って、メガリンがエクソソームという微小構造物に搭載されて腎臓から尿中への逸脱が増加すること、そして、そのメガリンを尿中で定量することが糖尿病性腎症の早期診断や予後予測に役立つ可能性があることを明らかにしました。
 
この尿中メガリン測定法は既に新潟大学とデンカ生研(株)が共同特許を取得しており、臨床での実用化に向けて研究を進めています。
 
Ⅲ.研究の成果
腎臓は約100万個のネフロンという構造体が集まってできています。ネフロンでは、糸球体というフィルターを通して、水分を含む血液由来の様々な成分が濾過され、尿細管の中を流れていく過程で、尿細管細胞で再吸収・代謝されたり、あるいは逆に尿細管細胞から様々な物質が分泌されて、最終的に尿が生成されます(図2)。
 
ネフロンの数は生まれた時に決まっており、尿細管の長さはおおおよそ20歳代まで伸びていきますが、それが腎臓の代謝機能を規定します。
 
メガリンは近位尿細管細胞に発現し、糸球体から濾過される様々な物質(タンパク質や薬剤など)を再吸収し、それらの代謝を促す受容体として機能しています(図2)。
 
斎藤特任教授らは、2015年に、高脂肪食を負荷した肥満・メタボ型の糖尿病モデルマウスにおいて、近位尿細管細胞のメガリンが「入り口」となって腎障害性タンパク質などを取り込むことにより、タンパク質の代謝負荷から細胞内のリソソーム障害をきたし、そのことが起点となって、糖尿病性腎症が発症・進展する機序を明らかにしました(図3)(Kuwahara S,et al. J Am Soc Nephrol)
 
このたび、斎藤特任教授を中心とする新潟大学の研究チームは、国立がん研究センター研究所とデンカ生研(株)と協力して、そのようなリソソーム負荷による糖尿病性腎症の発症・進展機序に伴って、メガリンがエクソソームという微小構造物に搭載されて腎臓から尿中への逸脱が増加することを明らかにしました(図4)。さらに、そのようなメガリンを尿中で定量することが、糖尿病性腎症の早期診断や予後予測に役立つ可能性を明らかにしました。
 
本研究においては、インドからの文部科学省国費留学生(新潟大学大学院医歯学総合研究科博士課程)のShankhajit De(シャンカジット デ)さんが主に実験を担当しました。
 
ネフロンの数が少ない、あるいは尿細管の長さが短い場合、糖尿病を罹患すると、それにかかる代謝負荷が増大し、糖尿病性腎症の発症・進展リスクが増大する可能性があります。また、一部のネフロンが障害されると残存するネフロンの負荷が増大し、さらにネフロン障害が進行するリスクが高まります。そのような場合、尿中メガリン測定値をクレアチニン値(機能ネフロン数を反映する)で除すことによって、単一ネフロン当たりの代謝負荷を評価することができます。
 
この検査法は、糖尿病性腎症以外にも、様々な慢性腎臓病について、重症度や予後の診断に役立つ可能性があります。
 
Ⅳ.今後の展開
尿中メガリン測定を組み込んだ臨床研究を行い、3-4年後を目処に尿中メガリン測定試薬の発売や、その後の薬事承認を目指します。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、Diabetes誌(米国糖尿病学会誌)(インパクトファクター: 8.784)のオンライン版に平成29年3月13日23時(日本時間)に掲載されました。
 
論文タイトル:Exocytosis-Mediated Urinary Full-Length Megalin Excretion is Linked with the Pathogenesis of Diabetic Nephropathy
著者:Shankhajit De, Shoji Kuwahara, Michihiro Hosojima, Tomomi Ishikawa, Ryohei Kaseda, Piyali Sarkar, Yusuke Yoshioka, Hideyuki Kabasawa, Tomomichi Iida, Sawako Goto, Koji Toba, Yuki Higuchi, Yoshiki Suzuki, Masanori Hara, Hiroyuki Kurosawa, Ichiei Narita, Yoshiaki Hirayama, Takahiro Ochiya, Akihiko Saito
 
用語説明
メガリン:
近位尿細管細胞の管腔側膜に発現する分子。腎臓の他では肺、脳、内耳、眼などにも発現する。腎臓では、糸球体から濾過される様々な物質(タンパク質や薬剤など)を再吸収(エンドサイトーシス)し、それらの代謝を促す受容体として機能している。メガリンに結合した糸球体濾過分子は細胞内に取り込まれてエンドソームからリソソームに運ばれ、そこで分解されるが、メガリン自身は細胞膜にリサイクルする。エクソソームに搭載されて尿中に排出される。
 
リソソーム:
真核生物が持つ細胞内小器官の一つ。内部に加水分解酵素を持ち、エンドサイトーシスやオートファジー(細胞内の不要小器官の自己消化経路)によって膜内に取り込まれた分子がここで分解される。
 
エクソソーム:
ほとんどの細胞から分泌される直径40-150nm程度の膜小胞。様々なタンパク質や脂質、RNAが含まれる。他の細胞への情報伝達を担う可能性も指摘されている。がんを含む様々な疾患の診断に役立つことが期待されている。
 

本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科
機能分子医学講座 特任教授 斎藤亮彦
e-mail:akisaito@med.niigata-u.ac.jp

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