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2024/09/18 研究成果
PET/CT検査で撮影した画像を人工知能(AI)で解析し、肺がん免疫療法の重篤な副作用を予測

新潟大学大学院医歯学総合研究科放射線医学分野の山崎元彦講師、石川浩志教授、同呼吸器・感染症内科学分野の渡部聡医学部准教授、菊地利明教授らの研究グループは、PET/CT検査(※1)で撮影した画像を人工知能(AI)で解析することで、肺がんの免疫療法で用いる免疫チェックポイント阻害薬(※2)の重篤な副作用で知られる間質性肺疾患(※3)の発生を予測できることを発見しました。
 
【本研究成果のポイント】
・PET/CT検査で撮影した画像に写っている左右2つの肺のうち、がんではない方の肺(非がん肺)の炎症の強さを、AIを活用して定量的に評価しました。
・本研究結果から、非がん肺の炎症の数値が高い患者さんは、免疫療法による間質性肺疾患が起こりやすい可能性が示唆されました。
・本研究成果は、免疫療法による間質性肺疾患の発生予測に役立つことに加え、間質性肺疾患が発症する仕組みの解明にも役立つ可能性があります。
 
Ⅰ.研究の背景
免疫チェックポイント阻害薬は、進行期肺がんの治療成績を劇的に改善しました。一方で、同薬剤による間質性肺疾患という重篤な副作用が問題になっています。免疫チェックポイント阻害薬による間質性肺疾患が起こりやすい患者さんを予測し、発症の危険性が高い方には免疫チェックポイント阻害薬の投与を避ける方法の確立が求められてきました。
 
Ⅱ.研究の概要・成果
本研究は新潟大学医歯学総合病院で治療を受けた肺がん患者さん165人を対象に行いました。非がん肺に炎症が強い患者さんは、免疫チェックポイント阻害薬による間質性肺疾患が起こりやすいのではないかと仮説を立てて、研究を開始しました。体の中の炎症が強い部位はPET/CT検査で分かるということに着目し、本研究は肺がんの治療前に撮影したPET/CT検査の画像から、非がん肺の炎症の強さを、AIを活用して定量的に評価しています。非がん肺の炎症の数値が高い患者群は、低い患者群に比して、免疫チェックポイント阻害薬による間質性肺疾患の発症リスク(オッズ比)が約6.5倍高いことを発見しました。本研究成果は、免疫チェックポイント阻害薬治療による間質性肺疾患の発生予測に役立つだけでなく、間質性肺疾患が発症する仕組みの解明にも役立つ可能性があります。

(左図)非がん肺の炎症の数値が高い患者群(赤線)は、低い患者群(青線)に比して、間質性肺疾患の発症率(縦軸)が高いことを示しています。
(右図)肺がんの治療前に撮影したPET/CT画像の解析例。矢印は肺がんを示しています。本研究は、AI技術を利用して非がん肺(緑色の領域)の炎症の強さを定量的に評価しました。
 
Ⅲ.今後の展開
今回の研究には、新潟大学医歯学総合病院で治療を受けた肺がん患者さんのデータを用いて解析しました。今後は、他施設からも広くデータを収集し、同様の結果が得られるのかを検証する予定です。
 
Ⅳ.研究成果の公表
本研究成果は、2024年9月2日、科学誌「Academic Radiology」に掲載されました。
【論文タイトル】18F-FDG-PET/CT Uptake by Noncancerous Lung as a Predictor of Interstitial Lung Disease Induced by Immune Checkpoint Inhibitors
【著者】山崎元彦、渡部聡、冨永理喜、八木琢也、後藤紫、柳村尚寛、有田将史、大坪亜矢、
田中知宏、野嵜幸一郎、才田優、近藤利恵、菊池利明、石川浩志
【doi】10.1016/j.acra.2024.08.043
 
 
【用語解説】
(※1)PET/CT検査
PET(Positron Emission Tomography:陽電子放出断層撮影)とCT(Computed Tomography:コンピュータ断層撮影)という2つの検査を組み合わせた医用画像検査法です。PETとは、18F-FDG(18F-fluorodeoxyglucose、18F-フルオロデオキシグルコース)というブドウ糖とよく似た構造を有する放射能を含んだ薬剤を体内に投与する検査です。18F-FDGはがん細胞や炎症などブドウ糖代謝が盛んな部位に集まりやすい性質があり、PETではこの18F-FDGの性質を利用して、全身のがんや炎症を起こしている部位を同定します。CTは放射線の一種であるX線を使って全身を断面像にして詳細に観察する検査です。PET/CT検査ではPETとCTを1回の検査で同時に行います。PETで18F-FDGが集まった部位(すなわち、がんや炎症が疑われる部位)が全身のどこに相当するのかを、CTでより詳細に評価できるということが、PET/CT検査の利点です。PET/CT検査は、正確には18F-FDG-PET/CT検査と言います。
 
(※2)免疫チェックポイント阻害薬
がんによる免疫のブレーキを解除し、がんに対する免疫を活性化する薬剤です。活性化した免疫細胞ががんを攻撃して、がんを縮小させます。肺がんだけでなく、胃がん、乳がん、悪性黒色腫など、様々ながんの治療に用いられています。
 
(※3)間質性肺疾患
肺の間質という場所に炎症が生じる病気の総称です。間質に炎症が起こることで肺が固く縮んでしまい(線維化)、息苦しさや咳の原因となり、進行すると呼吸不全につながります。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
【研究に関すること】
新潟大学大学院医歯学総合研究科
呼吸器・感染症内科学分野
医学部准教授 渡部 聡(わたなべ さとし)
E-mail:satoshi7@med.niigata-u.ac.jp
 
【広報担当】
新潟大学医歯学系総務課
E-mail:shomu@med.niigata-u.ac.jp

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