研究のご紹介難聴めまい

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1.持続性知覚性姿勢誘発めまいに関する包括的研究

持続性知覚性姿勢誘発めまい(Persistent Postural-Perceptual Dizziness, PPPD)は慢性めまいを主訴とする疾患で、2018年改訂のWHO国際疾病分類ICD-11に新規収載されている。めまいの国際学会であるBarany Societyがその前年に診断基準を発表しているが、堀井教授はその診断基準提唱者の一人であり、当科ではPPPDの包括的研究に力を入れている。

PPPD診断には詳細な問診が必要であることから、できるだけ簡便にしかし漏れなく問診を行うための質問票を作成しPPPD診断のための感度、特異度を検証した (Niigata PPPD Questionnaire, Yagi C, Otol. Neurotol., 2019)。また、PPPDのサブクラスの検証、PPPD診断における傾斜負荷自覚的垂直位の役割、PPPD治療における抗うつ薬の役割、に関する検討を終了している。進行中の臨床研究として、PPPD患者における視覚誘発時のfMRI画像 (右図)、PPPDの集学的治療(薬物治療、前庭リハビリテーション、認知行動療法、感覚代行治療)、PPPD診断のための新規検査法の開発などに注力している。

関連業績

  • Yagi C, Morita Y, Kitazawa M, et al. A validated questionnaire to assess the severity of persistent postural-perceptual dizziness (PPPD): The Niigata PPPD Questionnaire (NPQ). Otol Neurotol 2019; 40: 747-752
  • Yagi C, Morita Y, Kitazawa M, et al. Subtypes of persistent postural-perceptual dizziness. Front Neurol 2021; 12: 652366
  • Yagi C, Morita Y, Kitazawa M, et al. Head roll-tilt subjective visual vertical test in the diagnosis of persistent postural-perceptual dizziness. Otol Neurotol 2021; 42: e1618-e1624

2.光学的イメージングを用いたマウス大脳聴覚野機能の研究

大脳皮質感覚野は末梢感覚受容器からの刺激に対応して、特異的な部位に神経活動を示す。われわれは聴こえに関連する大脳聴覚野の神経活動を光学的イメージング法により研究している。光学的イメージング法として、ミトコンドリア電子伝達系に存在する内因性蛋白の1つであるフラビンが、神経活動に伴い酸化されるときに自家蛍光を発するという性質を利用した方法(フラビン蛋白蛍光イメージング)を主に用いている。フラビン蛋白蛍光イメージング法は経頭蓋的に光を照射することで神経活動を測定できるため、ほぼ無侵襲の状態でのマウスの神経活動を見ることができる。これまで、さまざまな種類の音、音の変化に対する反応、周囲の環境、行動学習によって大脳聴覚野の神経活動が変化することを報告してきた。最近では両側同時に測定できる装置の開発、さらに強い蛍光強度を発することができる、GCaMPを組み込んだトランスジェニックマウスも用いている。耳鼻咽喉科領域は聴覚だけでなく、多くの感覚器を扱う分野でもあることから、大脳聴覚野だけでなく、前庭覚、味覚刺激を用いた光学的イメージングも開始している。

関連業績

  • Yamagishi T, Yoshitake K, Kamatani D, et al. Molecular diversity of clustered protocadherin-α required for sensory integration and short-term memory in mice. Sci Rep 2018; 8:9616
  • Ogi M, Yamagishi T, Tsukano H, et al. Associative responses to visual shape stimuli in the mouse auditory cortex. PLOS ONE 2019; 14: e0223242

3.3Dイメージング、3Dモデルを用いた側頭骨手術シミュレーション

側頭骨は中耳炎などの炎症性疾患が生じやすい部位であると同時に、聴こえ、平衡感覚を司るセンサー、顔面神経、内頸動・静脈などの重要な器官が存在し、解剖学的に複雑な部位である。病変の除去や、聴こえの改善のためには手術が必要なことがあるが、重要な構造物を傷付けずに行うことが大切である。そのために私たちは術前CT画像を用いて、3D画像を作成し、PC上で手術シミュレーションを行ったり、3Dプリンターで側頭骨3Dモデルを作成し、実際に削開したりしている。シミュレーションをすることで困難な症例の手術に役立つだけでなく、レクチャーと正常例の側頭骨3Dモデルを用いた削開実習を行うことで、次世代の術者の育成に努めている。

関連業績

  • Takahashi K, Morita Y, Aizawa N, et al. Patient-specific 3D printed model-assisted supracochlear approach to the petrous apex. Otol Neurotol 2020; 41: e1041-e1045

4.抗好中球細胞質抗体関連血管炎性中耳炎(OMAAV)の病態解明・治療法の確立

ANCA関連血管炎は、上気道、下気道(肺)、腎を系統的に侵す疾患であり、多発血管炎性肉芽腫症(Wegener肉芽腫症)が代表疾患である。以前より、上気道疾患として、中耳炎や副鼻腔炎が起こることは知られているが、近年、難治性中耳炎で発症し、多臓器障害がすぐには出現せず、診断、治療に苦慮する例が増加している。日本耳科学会では2013年ANCA関連血管炎性中耳炎ワーキンググループを立ち上げ、当科もその主要メンバーとして、症例集積に協力し、データ解析を行ってきた。そして、2015年にはANCA関連血管炎性中耳炎診断基準を提唱、2016年には診療の手引きを発刊した。また鼓膜所見からの早期診断方法の提案も行った。現在は、適切な治療、経過観察の方法について、症例追跡研究を継続している。

関連業績

  • Harabuchi Y, Kishibe K, Tateyama K, Morita Y, et al. Clinical features and treatment outcomes of otitis media with antineutrophil-cytoplasm antibody (ANCA) - associated vasculitis (OMAAV): a retorospective analysis of 235 patients from a nationwide survey in Japan. Mod Rheumatol 2016;11:1-6.
  • Morita Y, Kitazawa M, Yagi C, Nonomura Y, et al. Tympanic membrane findings of otitis media with anti-neutrophil cytoplasmic antibody-associated vasculitis (OMAAV). Auris Nasus Larynx 2020;47: 740-746.
  • Morita Y, Kitazawa M, Yagi C, et al. Locations and predictive factors of hypertrophic pachymeningitis in otitis media with anti-neutrophil cytoplasmic antigen-associated vasculitis. Otol Neurotol 2022; 43: e835-e840

5. 中耳真珠腫進展度分類2015案による中耳真珠腫全国登録研究

中耳真珠腫は病態が多彩かつ腫瘍ではないにもかかわらず進行性、破壊性の性質をもつ治療が困難な疾患である。その治療方法を論ずるにあたり、近年まで汎用される病態の進展度分類は存在しなかった。2010年に日本耳科学会より中耳真珠腫進展度分類案2010が示され、国内で広く使用されるようになった。当科もこの分類案作成のために症例集積に協力してきた。2015年には改訂案が提出され、さらに、欧州耳科学会とのコンセンサスも得て、国際分類として利用が広まりつつある。これらのデータベースを元に、進展度に応じた適切な治療法を推奨していくことを目指した研究を行っている。

関連業績

  • James A, Tono T, Cohen M, Iyer A, Cooke L, Morita Y, et al. International Collaborative Assessment of the Validity of the EAONO-JOS Cholesteatoma Staging System Otol Neurotol 2019;40:630-637.
  • Morita Y, Tono T, Sakagami M, Kojima M, et al. Nationwide Survey of Congenital Cholesteatoma using Staging and Classification Criteria for Middle Ear Cholesteatoma Proposed by the Japan Otological Society Auris Nasus Larynx 2019; 46:346-352.
  • Komori M, Morita Y, Tono T, Matsuda K, et al. Nationwide survey of middle ear cholesteatoma surgery cases in Japan: Results from the Japan Otological society registry using the JOS staging and classification system. Auris Nasus Larynx 2021; 48: 555-564

6. 視覚聴覚二重障害を伴う難病の全国レジストリ研究

先天性および若年性(40歳未満)に発症する高度の視覚聴覚二重障害(盲ろう)の患者は国内に約4600人、そのうち約2600人は難病が原因と推測され、原因疾患は70種類以上と多様である。視覚聴覚二重障害を伴う難病の全国レジストリ研究は、国立病院機構東京医療センターとの共同研究であり、より多くの先天性および若年性の視覚聴覚二重障害を伴う難病患者の経過や診療内容などのデータ、血液などの生体資料を収集し、持続的・長期的に評価項目の検討を行う。似た症状を持つ患者さんの情報を医療従事者や研究者が共有することで、これまで分からなかった疾患の原因や症状の理解が進み、新しい治療法や薬の開発、今後の症状の予測につながる可能性がある。

7. 耳鳴に対する認知行動療法

本邦では約300万人の患者さんが苦痛の強い耳鳴に悩まされている。耳鳴悪化のメカニズムには、うつや不安などの苦痛を感じる脳の部位が関与している。不安や怒りの感情などが生じると、脳は耳鳴りにより注意を向けてしまい、耳鳴りを大きく感じるようになる。すると、大きくなった耳鳴はさらに不安や怒りの感情を増幅し、耳鳴への苦痛度を増大させ、「苦痛ネットワーク」が生じる。

2019年5月に日本で初めて耳鳴診療ガイドラインが発刊され、耳鳴に対する認知行動療法が強く推奨された。認知行動療法は、耳鳴りに対するうつや不安の部分にアプローチし、認知や行動を変化させ、耳鳴を軽減させる治療になる。海外で有効性が高いことが報告されているが、現在本邦において、耳鳴に対する認知行動療法はまだあまり行われていない。

当科では、新潟大学教育学部田中恒彦准教授と共同で耳鳴に対する認知行動療法の臨床研究を行っている。今後、どのような患者さんに効果があるのか、本邦における認知行動療法の効果について報告していく予定である。

関連業績

  • Kubota Y, Takahashi K, Yamagishi T, et al. Effects of sound source localization of masking sound on perception level of simulated tinnitus. Sci Rep 2022; 12: 145

8. 加齢性難聴と認知機能障害に関する研究

加齢性難聴は加齢とともに発症、進行する難聴であり、70歳以上の約50%がコミュニケーションに影響を与えるほど深刻な難聴をきたすとされており、高齢社会の中では大きな問題である。特に近年では、難聴と認知機能の低下の関連が注目を浴びている。当科では、マウスを用いた加齢性難聴の原因遺伝子の解析からはじまり、長年にわたり加齢性難聴の研究を行ってきた。さらに加齢性疾患を多角的に解析可能な県内の疫学調査に参加し、その研究結果から、加齢性難聴と認知機能低下は関連があることを報告した。現在は、補聴器装用などで難聴に介入することによって認知機能の低下を予防できるか前向き研究を行っている。

関連業績

  • Morita Y, Sasaki T, Takahashi K, Kitazawa M, et al. Age-related hearing loss is strongly associated with cognitive decline regardless of the APOE4 polymorphism Otol Neurotol 2019;40: 1263-1267
  • Morita Y, Sasaki T, Takahashi K, et al. IN RESPONSE TO THE LETTER TO THE EDITOR: AGE-RELATED HEARING LOSS IS STRONGLY ASSOCIATED WITH COGNITIVE DECLINE REGARDLESS OF THE APOE4 POLYMRPHISM. Otol Neurotol 2020; 41: 718-719