研究のご紹介鼻咽喉

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1.咽喉頭異常感における胃食道逆流と不安障害の関連について

咽喉頭異常感は「患者が咽喉に異常感を訴えるが通常の耳鼻咽喉科診察で訴えに見合うような器質的病変を認めないもの」と定義されている。異常感の患者は、外来患者の5~10%を占め、年々増加傾向にある難治性の疾患である。酸逆流が一因とされているがPPI抵抗例やうつ・不安障害合併例も多く、機能性疾患と鑑別が困難なケースも多い。

本研究では咽喉頭異常感、胃食道逆流スコア、うつ・不安障害スコアを用い、かつ消化器内科と共同で上部内視鏡検査、24時間pHモニター、食道内圧検査による客観的データと、精神疾患および咽喉頭酸逆流の相互の役割を明らかにし、テーラーメイド治療を行う上での基礎データを蓄積している。

2.アルツハイマー型認知症における嗅覚障害と内側側頭葉萎縮の関連性

本邦では2013年に65歳以上の高齢者人口が初めて総人口の4分の1を超え、老年期認知症の有病率は10%を超える頻度と推定されている。病型別ではアルツハイマー病(AD)が認知症全体の40~60%を占め最も頻度が高い。ADは不可逆性、進行性の認知症であり、早期の治療介入が重要とされ、早期診断方法の開発が期待されている。

AD初期の脳萎縮は一次嗅覚野を含む内側側頭葉(MTL)から始まるとされており、初期症状の一つに嗅覚障害がある。また、MTL萎縮には左右差があるため、嗅覚障害も左右差がある可能性がある。本研究ではAD初期における嗅覚障害とMTL萎縮の左右差の関連を解明し、嗅覚検査がAD早期診断における新たなバイオマーカーとなり得るか検討する。

3.嚥下リハビリテーションによる放射線治療誘発呼吸器合併症の予防効果

下咽頭癌に対する治療は、機能温存を目的とした化学放射線同時併用療法(CRT)が主流となっている一方で、治療後に嚥下障害をきたすことが指摘されている。また10年生存率では他病死が増加しており、誤嚥性肺炎の増加も推測される。われわれは治療前より間接的な嚥下訓練を指導し、リハビリテーションを施行した群と施行しなかった群(ランダム化比較試験)を対象に、嚥下障害に対する早期嚥下リハビリテーションの有用性について検証を行っている。評価方法は、嚥下内視鏡検査やMASA-C、M.D.Anderson DysphagiaInventory等を用いて長期的に評価している。

4.好酸球性副鼻腔炎に対する生物学的製剤の選択について

好酸球性副鼻腔炎は指定難病に認定されている難治性疾患である。近年重症喘息に対し開発された好酸球をターゲットとした生物学的製剤が、合併する好酸球性副鼻腔炎にも有効と報告されているが、製剤の種類による有効性の違いや喘息に対する効果との相関は不明である。

本研究では生物学的製剤による治療の個別化を目指し、複数の生物学的製剤の好酸球性副鼻腔炎に対する効果の比較、治療効果を予測するバイオマーカーの検索を行っている。

5. SPRINT(Support Project of Rhinology In Niigata)

SPRINTは県内で耳鼻咽喉科を標榜するすべての病院、クリニックに対して、鼻副鼻腔疾患、特に好酸球性副鼻腔炎などの難治性疾患における標準治療の啓蒙や、内視鏡下鼻副鼻腔手術(Endoscopic sinus surgery:ESS)後の管理方法の標準化にむけての情報発信、取り組みの総称である。本プロジェクトにより県全体で鼻副鼻腔疾患に対する医療レベルの底上げを図っている。

SPRINTの一環として、当科と株式会社瑞光メディカルで共同開発した「プラスモイストHS-W®︎」が2022年2月に上市され、全国的に臨床応用されている。本製品はアルギン酸カルシウム不織布に相当するESS後のパッキング資材で、湿潤療法効果、止血効果に優れ、術後の抜去が容易であり、安価であるという特徴を有する。今後も、最適なESS後の管理方法を探求するため、臨床データを蓄積し、研究を行っていく。