腎分子病態学

1.研究概要

 分子病態学分野は、腎糸球体疾患の発症・進行メカニズムを解明し、新規治療法を開発するための研究を進めている。特に、蛋白尿発症機序の解明・ネフローゼ症候群に対する新規治療法の開発と、糸球体硬化の発症機序の解明に重点を置き、年々増加している慢性腎不全患者数を減少させることを目標に研究を進めている。
 詳しい研究内容については、腎分子病態学ホームページをご覧ください。

2.研究テーマ
  • 糸球体上皮細胞 (Podocyte) 足突起間に存在するスリット膜の分子構造の解明
  • スリット膜構造の形成・維持機構の解明
  • 蛋白尿発症におけるスリット膜の分子構造の変化とその役割の解明
  • レニン・アンジオテンシン系によるスリット膜構成分子発現調節機構の解明
  • シナプス小胞によるスリット膜構成分子の輸送機構の解明
  • スリット膜形成維持におけるEphrinシグナルの機能の解明
  • 病態鑑別のための新規診断法の開発
  • 蛋白尿に対する新規治療法の開発
  • 糸球体硬化の発症機序の解明
3.研究の成果

[分野] 分子病態学分野
[研究テーマ] 蛋白尿発症におけるスリット膜の分子構造の変化とその役割の解明

[内容]
 私たちは、これまでにスリット膜の分子構造の解析を行い、微小変化型ネフローゼ症候群、巣状糸球体硬化症、膜性腎症などにおける蛋白尿発症にスリット膜を構成する分子群の発現低下・相互作用の変化が寄与することを明らかにした。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10792613
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12506137
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18715943
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15882266
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17667985

[写真など]

[分野] 分子病態学分野
[研究テーマ] 糸球体腎炎の発症、進行機序の解明

[内容]
 アンジオテンシンII受容体拮抗薬が蛋白尿抑制効果を示すことが証明されているが、そのメカニズムは明らかではなかった。私たちは、培養Podocyteを用いた実験及び病態モデルを用いた解析から、アンジオテンシンIIによるPodocyteに発現する1型受容体 (AT1) 刺激がスリット膜の主要な構成分子であるNephrin及びPodocinの発現を低下させること、2型受容体 (AT2) 刺激がNephrin及びPodocinの発現を逆に増加させることを明らかにした。以上の結果から、アンジオテンシンII受容体拮抗薬の蛋白尿抑制効果にはPodocyteにおけるスリット膜構成分子の発現低下抑制が寄与することを示した。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17525253
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25298195

[写真など]

[分野] 分子病態学分野
[研究テーマ] スリット膜形成維持におけるシナプス小胞様輸送機構の役割の解明

[内容]
 私たちは、病態モデルでの検討でシナプス小胞関連分子であるSynaptic vesicle protein 2B (SV2B) がPodocyteに発現しており、蛋白尿発症に先行してその発現が低下していることを見出し、報告した。蛋白尿発症におけるSV2Bの役割を明らかにするために、SV2B KOマウスを作製し、そのマウスを解析した。SV2B KOマウスは蛋白尿を呈し、スリット膜構成分子であるCD2AP、Nephrin、糸球体基底膜構成分子であるLamininの局在の異常が観察された。以上の観察により、SV2Bが関与するsynapse小胞様の輸送機構が糸球体濾過障壁の構造、機能維持に重要な役割を果たしていることを示した。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16943307
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25730372

[写真など]

[分野] 分子病態学分野
[研究テーマ] スリット膜形成維持におけるEphrinシグナルの機能の解明

[内容]
 Ephrinシグナルは、細胞増殖、細胞移動、神経軸索ガイダンスといった様々な現象に関与しているが、糸球体における報告はなかった。私たちは、Ephrin-B1が糸球体においてポドサイトスリット膜に発現し、スリット膜障害により発症する病態モデルにおいて蛋白尿発症以前に発現が低下していること、スリット膜構成分子Nephrinと結合していることを明らかにした。スリット膜形成維持におけるEphrin-B1の役割を明らかにするために、タモキシフェン誘導型ポドサイト特異的Ephrin-B1 KOマウスを作製した。KOマウスではスリット膜構成分子の明らかな局在異常を観察した。以上の観察から、Ephrinシグナルがスリット膜の分子構造の維持に重要な役割を果たしていることが示された。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17667985

[写真など]

[分野] 分子病態学分野
[研究テーマ] 糸球体硬化への進行機序の解明

[内容]
 IgA腎症に代表されるメサンギウム増殖性腎炎患者さんの、約40%が進行し、腎不全にいたると考えられているが、その発症、進行機序は明らかでない。私たちは、ケモカインの1つであるフラクタルカインが、メサンギウム病変の進行、糸球体硬化への進展に重要な役割を果たしていることを示した。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12028445

[写真など]