ピロリ菌除菌前の便中抗原量から除菌中/後の皮疹リスクを予測できる可能性 −皮膚科×消化器内科での安全なマネジメントに貢献−
新潟大学医歯学総合病院皮膚科の河合亨医員、林 良太講師、同大学大学院医歯学総合研究科皮膚科学分野の阿部理一郎教授らと同大学医歯学総合病院消化器内科の高橋一也助教、同大学医歯学総合研究科消化器内科学分野の寺井崇二教授、同研究科健康寿命延伸・消化器疾患先制医学講座の佐藤裕樹特任准教授らの共同研究グループは、ヘリコバクター・ピロリ(HP)除菌治療に伴って生じる全身の皮膚症状が、治療開始前の便中ピロリ菌抗原量(半定量スコア)と関連し、抗原量の高い患者で皮疹発症リスクが高い可能性を示しました。
同検査結果は、治療の回避判断に用いるべきではなく、皮疹発症のリスク説明や、皮膚科と消化器内科の連携に活用することが重要です。本研究成果は、2026年1月23日に米国研究皮膚科学会誌「Journal of Investigative Dermatology」に掲載されました。
【本研究成果のポイント】
・ピロリ菌除菌により生じる皮疹は薬剤アレルギーではなく、ピロリ菌成分に対する免疫応答(T細胞応答)によって引き起こる可能性を改めて示しました。
・除菌前便中抗原のスコアが高い患者で、皮疹発症リスクが高い可能性を示しました。
・ピロリ菌除菌前の皮疹発症リスクを推定する検査は、ピロリ菌感染診断と同時に行うことが可能です。
・本研究成果は、皮疹リスクの説明や、皮膚科と消化器内科の連携による安全な経過観察に役立つことが期待されます。
Ⅰ.研究の背景
ヘリコバクター・ピロリの除菌療法は、胃がんなどのピロリ菌が関与する疾患の予防に不可欠です。ピロリ菌の除菌には抗菌薬を使用しますが、約3%の患者さんの皮膚に赤み(紅斑)が出現します。これらの患者さんではしばしば抗菌薬の薬剤アレルギーと考えられ、将来の抗菌薬の使用を制限されることがあります。一方、本研究グループは以前の研究によりピロリ菌のこれらの皮疹は、薬剤そのものに対する反応ではなく、ピロリ菌に特異的な免疫反応でも起こることを明らかにしています。しかし、どのような患者さんがピロリ菌の除菌により皮膚症状が出るかは明らかになっていませんでした。今回、除菌前の菌量(抗原量)が皮疹発症に関与するという仮説を検証しました。
Ⅱ.研究の概要と成果
本研究では、ピロリ菌感染患者122例を前向きに登録し、除菌開始前と除菌後(5週以降)に便検体を採取しました。便中ピロリ菌抗原量は、免疫クロマト法の便中抗原検査キット(デンカ社)を用いて、判定ラインの濃度を参照表と比較し1-10点で半定量評価しました(図1)。
除菌治療中の皮疹発症の有無を観察したところ、3例(2.46%)に全身性の紅斑を認めました。また、皮疹を生じた症例では、薬剤に対する免疫学的反応よりも、ピロリ菌成分に対するT細胞応答が示唆されました(図2)。
さらに、除菌前抗原スコア7点以上の群では、皮疹がみられる患者が多いことが明らかになりました。一方で、除菌前抗原スコア7点以上の群における皮疹の陽性的中率は7%と低く、スコアのみで治療適応を制限することは推奨されません。本指標は、皮疹リスクの説明、早期受診の促し、皮膚科と消化器内科の連携による安全な経過観察に役立つ可能性があります。
Ⅲ.今後の展開
今回の研究で、ピロリ菌の除菌前に便中ピロリ菌抗原量を検査することで除菌中や除菌後に生じる皮膚症状の一部を事前に予測することができる可能性を示しました。今後はより大規模な独立コホートでカットオフ値と陽性的中率を再検証し、臨床的に有用な運用指針(患者説明、受診タイミング、連携体制)を整備することが必要です。
Ⅳ.研究成果の公表
本研究成果は、2026年1月23日、科学誌「Journal of Investigative Dermatology」に掲載されました。
【論文タイトル】Pre-eradication fecal Helicobacter pylori antigen levels as a predictive marker for skin eruption during eradication therapy
【著者】Toru Kawai, Ryota Hayashi*, Akito Hasegawa, Hiroki Sato, Kazuya Takahashi, Junji Kohisa, Nobuo Waguri, Junji Yokoyama, Terasu Honma, Takashi Miyazawa, Shuji Terai, Riichiro Abe*
*: corresponding author
【doi】10.1016/j.jid.2026.01.010
Ⅴ.謝辞
本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)(JP18ek0410051、JP21ek0410087 to R.A.)の支援を受けて実施されました。また、症例登録および臨床情報の収集にご協力いただきました、新潟市民病院消化器内科副部長の河久順志先生、同院教育研修部・消化器内科部長の和栗暢生先生、済生会新潟病院消化器内科部長の横山純二先生、同病院長の本間照先生に深く感謝申し上げます。
【用語解説】
1)リンパ球幼若化試験(DLST)
薬剤誘発性リンパ球刺激試験のことであり、薬剤のアレルギー反応を調べる検査です。薬剤と患者さんの末梢血単核球を反応させ、リンパ球が増殖するか調べる検査です。
【参考情報など】
(※)2018年4月20日、新潟大学プレスリリース「除菌治療によるヘリコバクター・ピロリ過敏症発症のメカニズム−細胞外小胞を介した抗原提示の可能性−」
https://www.med.niigata-u.ac.jp/contents/info/news_topics/79_index.html
本件に関するお問い合わせ先
【研究に関すること】
新潟大学大学院医歯学総合研究科
皮膚科学分野
教授 阿部 理一郎(あべ りいちろう)
E-mail:aberi@med.niigata-u.ac.jp
【広報担当者】
新潟大学医歯学系総務課
E-mail:shomu@med.niigata-u.ac.jp








