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2018/04/20 研究成果
除菌治療によるヘリコバクター・ピロリ過敏症発症のメカニズム−細胞外小胞を介した抗原提示の可能性−

新潟大学大学院医歯学総合研究科皮膚科阿部理一郎教授および消化器内科寺井崇二教授らの研究グループは、北海道大学医学研究科皮膚科、医薬基盤研究所プロテオームリサーチプロジェクト等との共同研究で、ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌療法に伴う皮疹出現のメカニズムを明らかにしました。
 
【本研究成果のポイント】
・胃の細菌であるヘリコバクター・ピロリ菌の除菌治療により、ヘリコバクター・ピロリ過敏症をきたすことがある。
・ヘリコバクター・ピロリ過敏症により、全身の紅斑を生じる。
・ヘリコバクター・ピロリ過敏症の発症に細胞外小胞が関与することが分かった。
 
Ⅰ.研究の背景
ヘリコバクター・ピロリ菌は胃に感染する細菌であり、胃炎や胃癌の発症に関与します。ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌のために、抗菌薬とプロトンポンプ阻害剤(胃薬)の内服を7日間行います。この除菌療法により、全身の小型の紅斑が出現することがしばしばみられます。これは抗菌薬や胃薬の内服により出現する薬疹よりも高い頻度でみられます。また、除菌療法終了後に皮疹が出現することがあり、薬疹としては経過が典型的ではありません。
そのため、ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌療法により出現する皮疹は薬疹以外のメカニズムでも出現していることが予想されます。
本研究では、ヘリコバクター・ピロリ菌除菌に関連して皮疹が出現するメカニズムを解析しました。
 
Ⅱ.研究の概要
ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌に関連して皮疹が出現した患者さん、皮疹が出現しなかった患者さんに関して解析を行いました。
 
Ⅲ.研究の成果
ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌に関連して皮疹が出現した患者さんに、血液検査でできる薬疹の原因薬剤特定のための検査である「薬剤誘発性リンパ球刺激試験(DLST)」(注釈1)を施行しました。除菌治療中に皮疹が出現した患者さんは除菌のための薬剤に対してDLSTが陽性となりましたが、除菌治療を終了した後に皮疹が出現した患者さんではDLSTが陰性となりました。この結果からは、除菌治療終了後に出現する皮疹は、薬疹以外のメカニズムの関与があることが予想されます。そこでピロリ菌過敏症の有無について検討しました。
除菌後に皮疹が出現し、DLSTが陰性だった患者さんの血液からリンパ球を抽出し、ヘリコバクター・ピロリ菌を添加して刺激したところ、IL-2、IL-4、IL-6、IFN-γおよびTNF-αなどの炎症性サイトカインの産生の上昇、ヘリコバクター・ピロリ菌に対して特異的に反応するCD4+T細胞の増加がみられました。健常者や、除菌により皮疹の出現しなかった患者さんのリンパ球ではこれらの炎症性サイトカインの産生の上昇や、ヘリコバクター・ピロリ菌特異的なCD4+T細胞の増加はみられませんでした。この結果は除菌終了後に皮疹が出現した患者さんには、薬剤ではなくヘリコバクター・ピロリ菌自体に対する免疫反応が形成されていることを示唆しています。
次にヘリコバクター・ピロリ菌がどのように抗原として認識されるかを検討しました。我々はエクソソームなどの細胞外小胞の役割に注目しました。細胞外小胞は様々なタンパク質や核酸を含み、体内での情報伝達に重要な役割を担っております。最近の研究で、ヘリコバクター・ピロリ菌に感染した患者さんの血液中の細胞外小胞に、ヘリコバクター・ピロリ菌を構成する物質が含まれていると報告されております。このヘリコバクター・ピロリ菌のタンパク質を含む細胞外小胞が、ヘリコバクター・ピロリ菌に対する免疫反応を誘発するという仮説を立てました。実際に除菌後に皮疹が出現した患者さんから抽出した細胞外小胞から、ヘリコバクター・ピロリ菌のタンパク質が検出されましたが、皮疹が出現しなかった患者さんの細胞外小胞からは検出されませんでした。除菌後に皮疹が出現した患者さんから抽出した細胞外小胞を血液から抽出したリンパ球に添加して刺激すると、ヘリコバクター・ピロリ菌特異的なCD4+T細胞の増加がみられました。この結果から、除菌に伴い、ピロリ菌の菌体成分が体内に吸収され、さらに細胞外小胞に含まれることにより、ピロリ菌に対する過敏症を発症する機序が考えられた。
 
Ⅳ.今後の展開
本研究の結果から、ヘリコバクター・ピロリ菌除菌後に出現する皮疹はヘリコバクター・ピロリ菌に対する過敏症であり、この過敏症の形成に細胞外小胞が関与していることが分かりました。
抗菌薬や胃薬は使用される頻度の高い薬剤です。ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌治療に関連して出現する皮疹は、抗菌薬や胃薬による薬疹と誤診されることが多くありますが、誤った薬疹の診断は患者さんの今後の治療の選択を不必要に狭めてしまうリスクがあります。今回の研究で用いたヘリコバクター・ピロリ菌刺激による特異的CD4+T細胞の検出手法により、誤った薬疹の診断を回避できることが期待されます。
 
用語解説
注釈1)薬剤誘発性リンパ球刺激試験(DLST)
薬剤によるアレルギー症状のうち,とくに遅発性(厳拭縫▲譽襯ーの機序による薬剤アレルギーに対して,ある特定の薬剤が関与しているか否かを知るための検査です。患者さんの血液細胞に、疑われる薬剤を添加して培養することで、血液細胞の活発(増殖)になるかを測定します。薬剤に対してアレルギーがあれば、血液細胞が増殖するので、それで判定できます。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、平成30年4月10日のJournal of Allergy and Clinical Immunology誌(IMPACT FACTOR 13.081)のオンライン版に掲載されました。
論文タイトル:Potential role of extracellular vesicle-meditated antigen presentation in Helicobacter pylori hypersensitivity during eradication therapy
著者:Takamasa Ito, Takashi Shiromizu, Shunsuke Ohnishi, Shotaro Suzuki, Katsuhiro Mabe, Akito Hasegawa, Hideyuki Ujiie, Yasuyuki Fujita, Yuichi Sato, Shuji Terai, Mototsugu Kato, Masahiro Asaka, Takeshi Tomonaga, Hiroshi Shimizu,* Riichiro Abe*
*: corresponding author
doi: 10.1016/j.jaci.2018.02.046
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学医学部 皮膚科学
教授 阿部理一郎
E-mail:aberi@med.niigata-u.ac.jp

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