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2019/05/22 研究成果
スティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症の診断マーカーを同定 −プロテオーム解析によるgalectin-7の同定−

新潟大学大学院医歯学総合研究科皮膚科学分野の阿部理一郎教授、濱 菜摘助教らの研究グループは、北海道大学医学研究科皮膚科等との共同研究で、重症薬疹であるスティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症における新たな診断マーカー(galectin-7)を同定しました。これにより、致死率の高い重症薬疹の早期診断が可能となり、未だ明らかになっていない重症薬疹発症のメカニズムの解明が進む可能性があります。
 
本研究成果のポイント
・スティーブンス・ジョンソン症候群や中毒性表皮壊死症は稀ですが薬剤投与後に生じる致死率の高い重症な薬疹です。未だ十分な病態解明はされておらず、早期診断が困難な病気です
・診断の助けになるバイオマーカーはこれまで特異的なものはあまりありませんでしたが、今回薬疹患者さんの血液中のタンパク質の質量分析をすることにより、galectin-7が重症な薬疹の患者で非常に高いことが判明しました。
・早期診断に有効であるだけでなく、病態解明にも寄与する可能性があります。
 
Ⅰ.研究の背景
重症薬疹であるスティーブンス・ジョンソン症候群や中毒性表皮壊死症は、発症初期では通常型薬疹(重篤な経過をたどらず治癒する薬疹)と皮膚症状が大変良く似ているため、現状では早期診断を臨床症状から行うことは極めて困難です。当研究グループは2011年早期診断マーカーとしてgranulysinを同定し、迅速測定キットの作製に成功しました(Fujita Y, Abe R, J Am Acad Dermatol 2011)が、他の重症薬疹でも上昇し、疾患特異性は低いものでした。特に致死率が25%ほどと高い中毒性表皮壊死症を早期に診断することは緊急性の高い課題と言えます。
 
Ⅱ.研究の概要
スティーブンス・ジョンソン症候群および中毒性表皮壊死症の患者と、通常型薬疹の患者の血液に原因薬剤を添加して培養した上澄みを質量分析し、重症型のみに含まれるタンパク質を同定します。その後、定量プロテオミクス:Selected/Multiple Reaction Monitoring(SRM/MRM)(注釈1)を用いることでスティーブンス・ジョンソン症候群および中毒性表皮壊死症の患者の血液中のタンパク質の量を定量し、多いタンパク質から7個絞りこみました。その後、実際の患者の血液中にどの程度、候補タンパク質が存在するか、ELISA法(注釈2)を用いて測定し、特異度の高いgalectin-7というタンパク質を同定しました。
 
Ⅲ.研究の成果
重症および通常型の薬疹患者の血液に原因薬剤を添加して培養した上澄みを質量分析(ショットガン解析)したところ、510種類のタンパク質を同定しました。その中で重症薬疹の患者の血液のみにみられるタンパク質は47種類であり、それらをSelected/Multiple Reaction Monitoring(SRM/MRM)により解析したところ、通常型より明らかに上昇していたタンパク質が7種類絞り込まれました(annexin A3, cathelicidin antimicrobial peptide (LL37), neutrophil gelatinase-associated lipocalin, calmodulin-like protein 5 (CALML5), galectin-7, interleukin-36, S100A7)。その後、スティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症患者7人分の血清と、健常者5人分の血清を、上記7種類のタンパク質に対しELISA法で直接測定したところ、CALML5とgalectin-7のみが重症薬疹の方のみに上昇していました。さらにその2種類のタンパク質に対し、サンプル数を増やしてスティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症患者24人分の血清と、通常型薬疹の19人分の血清と健常者8人分の血清で検査したところ、galectin-7のみが有意差をもって重症薬疹の方で上昇していました。Galectin-7は、他の水疱症やウイルス疾患での上昇はみられず、また病変部の水疱内用液での顕著な上昇がみられました。また、ステロイド治療後には血中濃度の低下を認め、重症度との関連も考えられます。これらのことから、galectin-7はスティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症の良いマーカーとなりうることがわかりました。

Ⅳ.今後の展開
他の早期診断マーカーとして知られるgranulysinと組み合わせることで診断の精度をさらに挙げられる可能性があるため、さらなる解析を続ける予定です。また、galectin-7 は、スティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症の病態に関わっている可能性もあり、検討が必要です。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、2019年5月14日The Journal of Allergy and Clinical Immunology: In Practice誌(IMPACT FACTOR 6.966)のオンライン版に掲載されました。
論文タイトル:Galectin-7 as a potential biomarker of Stevens-Johnson syndrome/ toxic epidermal necrolysis: Identification by targeted proteomics using causative drug-exposed peripheral blood cells
 
著者:Natsumi Hama*, Keiko Nishimura*, Akito Hasegawa, Akihiko Yuki, Hideaki Kume, Jun Adachi, Manao Kinoshita, Youichi Ogawa, Saeko Nakajima, Takashi Nomura, Hideaki Watanabe, Yoshiko Mizukawa, Takeshi Tomonaga, Hiroshi Shimizu, Riichiro Abe**
doi: https://doi.org/10.1016/j.jaip.2019.05.002
*:These authors contributed equally to this work
**:corresponding author
 
 
用語説明
注釈1:Selected/Multiple Reaction Monitoring(SRM/MRM):質量分析法の中で、検体中のタンパク質の絶対量を計測する方法。高感度で、一度にたくさんのタンパク質の質量の絶対値を測定することができる。
 
注釈2:ELISA法:Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay。試料中に含まれる抗体あるいは抗原の濃度を検出・定量する際に用いられる方法。感度、特異度が高く、放射性物質を用いないため安全性が高いが、同時に複数のタンパク質の解析はできない。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学医歯学総合研究科 皮膚科学分野
阿部理一郎 教授
E-mail:aberi@med.niigata-u.ac.jp

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