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2020/02/10 研究成果
スティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症の診断・重症度マーカーの開発 −血清RIP3測定の有用性について−

スティーブンス・ジョンソン症候群や中毒性表皮壊死症は致死率の高い重症な薬疹です。発症早期には正確な診断をすることが難しいことがあります。今回、新潟大学 医歯学総合研究科 皮膚科学分野 大学院生 長谷川瑛人、教授 阿部理一郎らの研究グループは、重症薬疹患者さんの血液中のRIP3(注釈1)が非常に高く、早期診断に有用な検査となることを明らかにしました。
 
【本研究成果のポイント】
・スティーブンス・ジョンソン症候群や中毒性表皮壊死症は稀ではありますが、致死率の高い、重篤な薬疹です。
・症状が軽度な発症早期には、正確な診断が難しいことがしばしばあり、適切な治療の開始が遅れる原因になります。
・血液中のRIP3を測定することで、重症な薬疹の早期診断や重症度の判定が可能になることが分かりました。
 
Ⅰ.研究の背景
スティーブンス・ジョンソン症候群や中毒性表皮壊死症は稀ではありますが、死亡率の高い重篤な疾患です。そのため、できるだけ早く診断し、治療を開始する必要があります。しかし、症状が軽度な発症早期には、軽症の薬疹との鑑別が難しいことがしばしばあります。そのため、早期に正確な診断をするための検査法が必要とされてきました。
過去に本研究グループは、スティーブンス・ジョンソン症候群や中毒性表皮壊死症などの重症薬疹では、皮膚の細胞がネクロプトーシスというタイプの細胞死(注釈2)を起こしていることを解明しました(Sci Transl Med. 2014:6:245ra95)。ネクロプトーシスを起こした細胞は、RIP3という分子を細胞内から細胞外へ放出することが報告されております。そこで今回、本研究グループはこのRIP3の細胞外放出に着目し、重症薬疹の診断や、重症度の判定に用いることができるかを解析しました。
 
Ⅱ.研究の概要
皮膚の培養細胞(注釈3)を用いて、ネクロプトーシスを起こした皮膚の細胞が、細胞外へRIP3を放出するかどうかを解析しました。
そして通常型薬疹の患者さんや、重症薬疹の患者さんの血液中のRIP3を測定し、各病型ごとに比較しました。また病型だけでなく、粘膜症状や肝臓、腎臓などの臓器障害の程度と血液中のRIP3の濃度が相関するかどうかを解析しました。さらに、治療開始後にRIP3の値がどのように推移するかを解析しました。
 
Ⅲ.研究の成果
TNF-α, Smac, zVADによるネクロプトーシス刺激を加えた培養表皮細胞で、RIP3の発現が上昇していました。また、ネクロプトーシス刺激を加えた培養細胞の培養液では、無刺激の細胞の培養液と比較して、RIP3の濃度が上昇していました。このことから、皮膚の細胞でもネクロプトーシスを起こすと、RIP3を細胞外へ放出することが分かりました(図1)。
 
スティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症の患者さん22人、通常型薬疹の患者さん(重症多型紅斑型19人、軽症多型紅斑型5人、播種状紅斑丘疹型6人)、別のタイプの重症薬疹である薬剤過敏症症候群の患者さん4人、健常人5人の血液中のRIP3を測定し、比較したところ、スティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症群でRIP3が有意に高値となりました。また、眼や口腔内、陰部などの粘膜症状や肝臓、腎臓などの臓器障害の程度とRIP3の値が相関することが分かりました(図2)。このことから、血液中のRIP3の測定が、重症薬疹の診断や重症度を判定するために有用な検査法であることが分かりました。
 
さらに、重症薬疹患者さんの治療開始後のRIP3の推移を解析したところ、治療開始後の症状が改善に向かった患者さんのRIP3は低下し、治療開始後も症状が増悪した患者さんのRIP3は上昇しました。このことから、RIP3は重症薬疹の治療効果の判定にも有用である可能性が示されました。

Ⅳ.今後の展開
重症薬疹の診断マーカーとして2019年に私たちのグループで発見したgalectin-7(J Allergy Clin Immunol Pract. 2019:7:2894-2897)とあわせることで、診断の精度がより向上する可能性があるため、今後も解析を継続する予定です。また、RIP3が肝臓や腎臓などの臓器障害が高度な患者さんでより上昇していたことから、重症薬疹では皮膚以外の臓器でもネクロプトーシスが起きている可能性があると考えられ、本研究グループではさらなる病態の解明を目指し、研究を進める予定です。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、2020年1月15日、Journal of Allergy and Clinical Immunology: In Practice誌(IMPACT FACTOR 7.55)に掲載されました。
論文タイトル:RIP3 as a diagnostic and severity marker for Stevens-Johnson syndrome and toxic epidermal necrolysis
著者:Akito Hasegawa, Satoru Shinkuma, Ryota Hayashi,Natsumi Hama, Hideaki Watanabe, Manao Kinoshita, Youichi Ogawa, Riichiro Abe*
doi:https://doi.org/10.1016/j.jaip.2020.01.006
*: corresponding author
 
 
用語解説
注釈1:RIP3:主に細胞質内に存在する。TNF受容体シグナル伝達複合体の構成成分であり、細胞の生死や炎症の誘発に関与する。
注釈2:細胞死:細胞が何らかの理由により破壊され、死に至ること。物理的な損傷などにより、細胞が破壊される「事故的細胞死」をネクローシスという。反対に、生体の働きにより細胞が死に至るものを「制御された細胞死」という。「制御された細胞死」としては、かつてアポトーシスがよく知られていたが、近年の研究で、ネクロプトーシス、オートファジー細胞死など、様々なタイプの「制御された細胞死」が発見されている。
注釈3:培養細胞:生体外で人工的に育てる細胞。動物個体や人体を用いずに様々な条件で実験を行うことができる。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学医歯学総合研究科 皮膚科学分野
教授 阿部理一郎
E-mail:aberi@med.niigata-u.ac.jp

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