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2020/02/14 研究成果
がんの浸潤・転移の重要な新機構を明らかに −インテグリンの機能化に必須の新規分子を発見−

新潟大学大学院医歯学総合研究科分子細胞病理学分野の齋藤憲准教授、近藤英作教授らの研究グループは、同大学院医歯学総合研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野(植木雄志特任助教、堀井新教授ら)および岡山大学大学院医歯薬学総合研究科細胞生物学講座(阪口政清教授ら)との共同研究で、がん転移に関わる革新的な仕組みを明らかにしました。本発見をもとに、がん転移を抑制する今までにない新しい治療法の創出につながることが期待されます。
 
【本研究成果のポイント】
・インテグリンはがん細胞の浸潤転移に関わる細胞接着のkey分子として最重要視されているが、インテグリンの安定化・活性化に関わる仕組みは未知の部分が多い。
・本研究グループは、現在まで未知であったインテグリンの機能化に必須のしくみを発見した。
・活性化には水酸化酵素”PLOD2”が働き、その阻害剤開発は新しい転移抑制治療につながる。
 
Ⅰ.研究の背景
がんの難治性・致死性の原因は、発生場所からの「転移」による新たながん病巣の全身への拡散にある。すなわち、新時代のがん治療の第一の課題は「転移」抑制法の開発にあると言っても過言ではない。がん細胞が新たな病巣を作るために発生場所から離れた体内の他の組織に移動する際に、がん細胞は強力な運動能を獲得しており、インテグリンがその運動能を発揮する際の細胞接着分子であることががん研究領域では広く知られている。しかし、いかにしてインテグリンががん細胞内で活性化され働くようになるのか?については今なお未解明の部分が多いのが現状である。がん細胞上のインテグリンの働きを抑える有効な方法が見つかれば、がん克服のための最大の課題である体内での転移病巣の発生が抑えられ、がんの進行を食い止めることが可能となる。
 
Ⅱ.研究の概要
ヒトの体には水酸化酵素群といわれる分子グループが存在し、核酸やタンパク質など様々な物質を水酸化して正常の体内環境を調整しているが、この数十種類の水酸化酵素の1つである”PLOD2”ががん細胞では高い活性化状態にあることを、本研究グループは準備研究の段階で見出していた。PLOD2の産生を阻害するとがん細胞の運動性が著しく減弱するという実験データから、本研究グループは浸潤転移を起こす際の細胞移動に関わる代表的な細胞接着分子であるインテグリン(Integrin β1)に注目しPLOD2との関わりの有無を調べてみたところ、PLOD2はインテグリンに直接反応してインテグリンタンパクの水酸化を起こし分子の安定化と機能の活性化に働いていること(図1):PLOD2発現抑制によりインテグリンのがん細胞膜局在の障害が起こる)、PLOD2のないがん細胞ではインテグリンタンパクの分解が起こり、がんの体内転移巣が劇的に減少することが、マウスを用いた実験で明らかとなった。

Ⅲ.研究の成果
がん転移分子インテグリンによるがん転移には水酸化酵素PLOD2の存在が必要であることが新たに解明され、がん転移のしくみの新しい側面を明らかにした(図2)。これにより、次段階としてPLOD2酵素特異的阻害剤を開発することにより、従来の癌細胞に既に発現しているインテグリンに対する中和抗体で機能阻害する治療法とは異なり、インテグリンの発現・機能化そのものの段階でがん転移を抑制する画期的な新治療法の創出につながる可能性が期待できる。

Ⅳ.今後の展開
患者の身体を考えた副作用の少ないがんの分子標的治療の開発が世界的に推進されており、多数の分子標的薬が開発されているが、現状これらのほとんどがリン酸化酵素阻害剤である。本研究グループは今回の発見をもとにさらに水酸化酵素特異的阻害剤の開発を進め、将来的に転移を克服可能な新たな視点に立った革新的な治療法を作り出す道筋をつけていくことに努力していきたい。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、2020年2月21日発刊のCell Press“iScience 誌”に掲載されます(2020年1月18日付けで同誌のオンライン版に掲載済)。
論文タイトル:PLOD2 is essential to functional activation of integrin β1 for invasion/metastasis in head and neck squamous cell carcinomas.
著者:Yushi Ueki, Ken Saito*, Hidekazu Iioka, Izumi Sakamoto, Yasuhiro Kanda, Masakiyo Sakaguchi, Arata Horii, Eisaku Kondo* (* corresponding authors)
iScience VOLUME 23, ISSUE 2, 100850, FEBRUARY 21, 2020
DOI: https://doi.org/10.1016/j.isci.2020.100850
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科分子細胞病理学分野
(新潟大学医学部実験病理学分野)
齋藤 憲 准教授
E-mail:kens@med.niigata-u.ac.jp

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