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2020/11/06 研究成果
北京型結核菌の人での高い突然変異率を10年間の感染追跡とゲノム解析で実証

北京型結核菌は東アジアに多く、他系統の結核菌よりも病原性や薬剤耐性率が高く問題となっています。新潟大学大学院医歯学総合研究科細菌学分野、呼吸器・感染症内科学分野の袴田真理子医師(大学院生)、同研究科呼吸器・感染症内科学分野の菊地利明教授、同研究科バイオインフォマティクス分野の瀧原速仁研究員、奥田修二郎准教授、同研究科細菌学分野の松本壮吉教授らは、神戸市環境保健研究所の岩本朋忠博士、大阪健康安全基盤研究所の田丸亜貴博士との共同研究を実施し、高い病原性や薬剤耐性率の要因と考えられるゲノム変異率が、実際に人に感染した北京型結核菌で、高いことを実証しました。また潜伏感染時には、酸化ストレスに依存する変異が多いことも明らかにしました。
この高頻度のゲノム変異が、北京型結核菌の適応能や薬剤耐性化率の高さの要因と推測されます。本研究成果は、系統別の結核対策の提案など、今後の対策において重要な情報となります。
 
【本研究成果のポイント】
・結核集団感染を発端に、異なる期間を経て発症した複数の患者より北京型結核菌を分離し、その全ゲノム解析を行いました。その結果、北京型結核菌のゲノム変異率は、他の結核菌系統よりも高いことが判明しました。
・高頻度のゲノム変異率は、北京型結核菌の高い病原性や薬剤耐性率の要因である可能性が示唆されました。
・結核の重症化や薬剤耐性化を防ぐために、感染結核菌の系統に応じた対策が重要であることを示しました。
 
Ⅰ.研究の背景
結核は三大感染症の一つで、代表的な再興感染症であり、その病原体である結核菌は、現在も年間、最多の人命を奪っている病原体です。2018年の結核死亡者は、150万人に及んでいます。
古代より、世界に拡散した結核菌は7系統に分類できますが、その中で特に、Lineage2に属する北京型結核菌は、日本を含む東アジア地域の高蔓延系統で、病原性や薬剤耐性化傾向が強いことが知られていました。病原体ゲノムの変異率は、宿主応答への進化適応と薬剤耐性の出現を反映しますが、人に感染した北京型結核菌のゲノムの変異率は、明らかにされていませんでした。また人類の約4分の1が結核の無症候性感染者と推定されていますが、潜伏する北京型結核菌の複製率や突然変異率についても、よく分かっていませんでした。潜伏期の突然変異率を理解することは、潜在性結核(LTBI)の治療法の設計に役立ち、LTBIが結核の発生母体であることから、結核の制御に直結します。
 
Ⅱ.研究の概要
今回、1999年にある中学校で発生した結核集団感染の接触者と二次感染者の追跡によって、2009年までの間に結核を発症した患者より分離した、起源を同じくする北京型結核菌と、別の事例で、初発時と再燃時の患者より分離した北京型結核菌の全ゲノム解析を行いました(図1)。初発から1年以内に発症した早期発症者由来の結核菌株と、1年以上の潜伏期を経てから発症や再燃に由来するものの2群間で比較しました。

Ⅲ.研究の成果
本研究で解析した北京型結核菌のゲノム変異率は、これまで報告されてきた他系統の結核菌の突然変異率よりも、およそ10倍高いことがわかりました(図2)。また、早期発症者由来の株では、長期潜伏後の発症者由来株よりも変異率が高く、一方で、長期潜伏菌では酸化的ストレスに起因する変異パターンが多いことが、明らかとなりました。

Ⅳ.今後の展開
北京型結核菌の突然変異率は、他の結核菌系統よりも高いことから、その高頻度の薬剤耐性化を防ぐためには、感染した結核菌の系統により治療法を検討する必要性も考えられます。今後、結核菌系統の特性を理解し、治療法を工夫することで、薬剤耐性化や重篤化を防ぐ、有効な対策の構築につながることが期待されます。
 
Ⅴ.研究成果の公表
本研究成果は、2020年10月22日、Scientific Reports誌に掲載されました。
論文タイトル:Higher genome mutation rates of Beijing lineage of Mycobacterium tuberculosis during human infection
著者:Mariko Hakamata, Hayato Takihara, Tomotada Iwamoto, Aki Tamaru, Atsushi Hashimoto, Takahiro Tanaka, Shaban A. Kaboso, Gebremichal Gebretsadik, Aleksandr Ilinov, Akira Yokoyama, Yuriko Ozeki, Akihito Nishiyama, Yoshitaka Tateishi, Hiroshi Moro, Toshiaki Kikuchi, Shujiro Okuda, and Sohkichi Matsumoto
doi: 10.1038/s41598-020-75028-2(https://www.nature.com/articles/s41598-020-75028-2
本研究は、AMED「休眠菌における染色体凝集の意義と創薬標的としての可能性」およびAMED「潜在性結核感染者及び発症高リスク者の検出技術、プライム組換えBCGと追加免疫法、及び多剤耐性結核の治療薬の開発による総合的な結核対策の構築」により支援を得て実施しました。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科
大学院生 袴田 真理子
Tel:025-227-2050
 
准教授 奥田 修二郎
E-mail:okd@med.niigata-u.ac.jp
 
教授 松本 壮吉
E-mail:sohkichi@med.niigata-u.ac.jp

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