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2021/09/06 研究成果
ソーシャルキャピタルがある高齢者には予防接種を受けている人が多い 約18万人の65歳以上の高齢者における疫学研究

新潟大学大学院医歯学総合研究科国際保健学分野の齋藤孔良助教、菖蒲川由郷特任教授らの研究グループは、月に1回以上スポーツや趣味等の会に参加している(社会参加)、地域の人を信用または信頼している、地域に愛着がある(社会的結束)、心配事や愚痴を聞いたり話したりする人がいる、病気で数日間寝込んだときに看病や世話をしてくれる人がいる(互酬性)の3つのソーシャルキャピタル(社会関係資本)がある65歳以上の高齢者は、それらのソーシャルキャピタルがない高齢者に比べ、肺炎球菌予防接種を受けている人がそれぞれ13%、5%、34%多いことを明らかにしました。また、社会参加が豊かな地域に住んでいる高齢者は、個人の社会参加の有無に関わらず、社会参加が標準的な地域に比べ肺炎球菌予防接種を受けている人が3%多いことも明らかにしました。
 
【本研究成果のポイント】
・社会参加、社会的結束、互酬性の3つのソーシャルキャピタルがある65歳以上の高齢者は、3つのソーシャルキャピタルがない高齢者に比べ、肺炎球菌予防接種を受けている人がそれぞれ13%、5%、34%多い。
・個人的な社会参加の有無に関わらず、社会参加の豊かな地域に住んでいる高齢者は、社会参加が標準的な地域に比べ肺炎球菌予防接種を受けている人が3%多い。
 
Ⅰ.研究の背景
肺炎は日本を含む世界中で高齢者の死因の上位を占めます。肺炎球菌は世界で最も多くの肺炎を起こしている菌です。そのため、世界の多くの国々で高齢者の肺炎球菌ワクチンの接種に対する助成が行われています。しかしながら、日本では各自治体で肺炎球菌ワクチンの助成金の金額が異なり、このことが各自治体でワクチン接種率が大きく異なる原因になっています。助成金以外でワクチン接種率の向上につなげる方法を見つけることが重要です。
 
Ⅱ.研究の概要
ソーシャルキャピタルがある高齢者には肺炎球菌予防接種を受けている人が多いのかを調べるため、一般社団法人日本老年学的評価研究機構(JAGES: Japan Gerontological Evaluation Study)が、2016年10月から2017年1月の期間に行った約18万人の要介護認定を受けていない65歳以上の高齢者の健康と暮らしに関するアンケート調査データを統計解析しました。調査対象者に対して、過去5年間に肺炎球菌ワクチンの接種を行ったか否かをたずねました。ソーシャルキャピタルは社会参加、社会的結束、互酬性の3つの指標を用いて評価しました。社会参加は、スポーツ、ボランティア、趣味関係、学習・教養、特技・経験を他者に伝えるグループやサークルへの参加を月1回以上行っているか否かで調べました。社会的結束は、地域の人々を信用または信頼できるか、地域に愛着をもっているかという質問に、「とてもそう」または「まあそう」と答えたか否かで調べました。互酬性は、心配事や愚痴を聞いてあげる人がいるか、心配事や愚痴を聞いてくれる人がいるか、病気で数日間寝込んだときに看病や世話をしてくれる人がいるかという3つの質問のいずれかに「はい」と答えたか否かで調べました。地域のソーシャルキャピタルは、各小学校区または中学校区における高齢者の社会参加、社会的結束、互酬性の平均値とし、平均値が1標準偏差以上の場合を社会参加、社会的結束、互酬性が豊かな地域、−1標準偏差以下の場合は少ない地域、−1標準偏差より大きく+1標準偏差以下の場合を標準的な地域としました。社会参加、社会的結束、互酬性以外で肺炎球菌予防接種に関係する可能性のある年齢、性、教育年数、所得、家族構成、婚姻状況、最も長く就いた仕事の種類、地域の違い、各自治体の政策の違いの影響を統計学的な方法で除去しました。地域の社会参加、社会的結束、互酬性が高齢者個人の肺炎球菌予防接種に与える影響を調べるために、個人の社会参加、社会的結束、互酬性の影響を統計学的に取り除きました。
 
Ⅲ.研究の成果
統計解析の結果、社会参加、社会的結束、互酬性の3つのソーシャルキャピタルがある高齢者は、それらのソーシャルキャピタルがない高齢者と比べて、肺炎球菌予防接種を受けている人がそれぞれ13%、5%、34%多いことが明らかになりました(図の左側のグラフ)。また、個人的な社会参加があるかどうかに関わらず、社会参加の豊かな地域に住んでいる高齢者は、社会参加が標準的な地域に比べ肺炎球菌予防接種を受けている人が3%多いことを明らかにしました(図の右側のグラフ)。社会参加、社会的結束、互酬性の3つのソーシャルキャピタルのどれかがあることが予防接種につながる可能性があります。個人的な社会参加があるかどうかに関わらず、社会参加の多い地域に住むだけで予防接種につながる可能性があります。個人または地域の社会参加、個人の社会的結束、互酬性を培うことが高齢者の予防接種率を向上させる可能性があります。

Ⅳ.今後の展開
今後は社会参加、社会的結束、互酬性の3つのソーシャルキャピタルがある高齢者や社会参加が豊かな地域ではなぜ予防接種を受けている高齢者が多いのかを明らかにする予定です。また、新型コロナ予防接種でも同様の研究を行う予定です。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、2021年5月18日、BMJ Open誌に掲載されました。
論文タイトル:Social capital and pneumococcal vaccination (PPSV23) in community-dwelling older Japanese:(A JAGES multilevel cross-sectional study).
著者:齋藤孔良*、菖蒲川由郷、近藤克則 *筆頭著者及び責任著者
doi:10.1136/bmjopen-2020-043723
 
Ⅵ.本研究への支援
本研究は、科学技術振興機構が支援するOPERA(企業、研究所、学界とのオープンイノベーションプラットフォームに関するプログラム助成金番号JPMJOP1831)による援助を受けています。また、この研究は、私立大学戦略的研究基盤形成支援事業、日本学術振興会科研費、厚生労働科学研究費補助金、国立研究開発法人日本医療開発機構(AMED)長寿科学研究開発事業、国立研究開発法人国立長寿医療研究センター長寿医療研究開発費、公益財団法人長寿科学振興財団、革新的自殺研究推進プログラム、公益財団法人笹川スポーツ財団、公益財団法人健康・体力づくり事業財団、公益財団法人ちば県民保健予防財団、公益財団法人8020推進財団、新見公立大学、公益財団法人明治安田厚生事業団による援助を受けています。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科国際保健学分野
助教 齋藤孔良(さいとう こうすけ)
E-mail:anayoshi@med.niigata-u.ac.jp

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