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2022/03/28 研究成果
結核菌や非結核性抗酸菌は赤血球に接着して細胞外で増殖することを発見 〜全身に感染が拡がるメカニズムの解明と新薬開発につながる可能性〜

本件は、広島大学学術・社会連携室環境遺伝生態学分野 西内由紀子特任准教授らのグループと新潟大学大学院医歯学総合研究科細菌学分野 松本壮吉教授らのグループにより、病原性マイコバクテリアが赤血球を利用して細胞外で活発に増殖することを明らかにした研究成果です。
 
結核菌、Mycobacterium avium subsp. hominissuis(MAH)、Mycobacterium intracellulareなどの病原性マイコバクテリアは、マクロファージや上皮細胞に細胞内寄生して肺感染症を引き起こします。私たちは、マイコバクテリアに感染したマウスの肺や肺MAH症の患者の肺から得られた切片を抗酸性染色(マイコバクテリアを赤く染める方法)して詳細に観察したところ、マイコバクテリアが、肺の毛細血管の赤血球や感染部位に生じる肉芽腫の壊死部分に存在している赤血球と共在していることを見出しました。140年前にロベルト・コッホが結核菌を発見して以来、マイコバクテリアと赤血球の関係が注目されたことはありません。本研究は、マイコバクテリアと赤血球の相互作用を明らかにすることを目的として進めました。
 
その結果、i). MAHとヒト赤血球を一緒に培養してから電子顕微鏡観察すると確かにMAHが赤血球に接着しており、また赤血球の中にも存在しました。ii). MAHは赤血球の膜表面に多く存在する補体受容体1(CR1)とシアロ糖タンパク質と結合して接着しました。iii). MAHとヒト赤血球を一緒に培養するとMAHは活発に増殖しました。iv). この活発な増殖はMAHと赤血球が直接接着して起きますが、赤血球の細胞内では起きません。v). マクロファージは本来侵入した病原体を貪食するので、マクロファージがMAHを接着した赤血球を貪食するか調べました。単球由来マクロファージは、MAHと赤血球が接着しているときの方がMAH単独の時よりよく貪食することを明らかにしました。vi). 結核菌およびMycobacterium intracellulare はMAHと同様に赤血球に接着して細胞外増殖することを確認しました。
 
本研究では、マイコバクテリアと赤血球の共在を見出したことから、両者の相互作用を調べて、病原性マイコバクテリアが赤血球を利用して活発に細胞外増殖することを明らかにしました。これは、今まで知られていなかった細胞外増殖のメカニズムです。感染症が進行するとできる壊死性肉芽腫内で観察される多くの細胞外マイコバクテリアは赤血球を利用して細胞外で活発に増殖した結果であると考えられます。また、赤血球はガス交換だけでなく、侵入してきた病原体を取り除く役割も果たしていることから、マイコバクテリアも同様に赤血球のCR1に接着して肝臓や脾臓に移されて殺されますが、ときに生き残りそこで増殖すると考えられます。このように、マイコバクテリア感染症の防御や進行、感染拡大に赤血球が深く関わっていると考えられます。私たちの研究は、今後の研究によって今まで未解明だったマイコバクテリア感染症の課題が解決される礎となると期待されます。
 
本研究成果は、2022年3月16日に科学誌「Microbiology Spectrum」にオンライン掲載されました。
 
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本研究科の共同研究者
大学院医歯学総合研究科細菌学分野
松本 壮吉 教授 E-mail:sohkichi@med.niigata-u.ac.jp
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内容は以下のPDFをご確認ください。

結核菌や非結核性抗酸菌は赤血球に接着して細胞外で増殖することを発見
 〜全身に感染が拡がるメカニズムの解明と新薬開発につながる可能性〜 (PDF)

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